さすがはお笑いの本場、大阪だ。なんと、この4月から漫才を授業に取り入れる公立高校が現れたのだ。

それも特別授業として1、2回ほどやってお茶を濁すのではない。年間25コマも行ない、きちんと成績評価もするという。授業名はズバリ、「探求(笑育[わらいく])」。

この「笑育」を導入したのは大阪府立金岡(かなおか)高校。狙いはやっぱりお笑いスターの育成? 同校の和栗隆史(わぐりたかし)校長(53歳)に聞いた。

「いえ、漫才の上達が目的ではありません。お笑いを作っていく過程で問題を発見し、周囲と協力して解決することで思考力、協調性、プレゼン能力といった“21世紀型スキル”を身につけてほしい。そこで目をつけたのが漫才でした。笑いのネタを見つけて作り、それを人の前で実際に見せる。そのプロセスにこれからの社会を担う人材に必要なスキルのほとんどが詰まっているんです」

授業では、プロの芸人を招いて漫才の構成を学んだり、クラスメイトとコンビを組んでオリジナルの漫才台本を作り、実演したりするという。

「台本のテーマとして、『自分史を漫才にしてみよう』とか『昔話を元に漫才を作ってみよう』などを考えています。生徒たちには文化祭や学期末の授業で実際にそのネタを披露してもらう予定です」(和栗校長)

金岡高校をサポートするのは人気お笑い芸人を多数抱える芸能事務所の松竹芸能だ。事業開発室の宮島友香さんがこう意気込む。

笑育の教育カリキュラムは?

「以前、キッザニア(子供向け職業体験施設)ができる時に、漫才を教える“先生”を派遣することになったんです。すると、子供たちが熱心にお笑いを学び、見る見るうちに自己表現やコミュニケーションの能力がつくことがわかった。それで2012年から同じように小中学校にも芸人を派遣し、ボランティア授業を行なうようになったのですが、ここでも人見知りをしていた生徒が堂々と人前で話ができるようになったり、ボケの返しを学んだことでクラス内のけんかが減ったりなどの効果が見られた。

そこで、昨年末に大阪府教育委員会と相談して10校限定で『笑育』授業の協力を募ったところ、200校以上から応募が殺到。手応えを感じていたところに金岡高校の和栗校長から高校生を対象にした通年授業はできないものかと打診を受け、喜んで協力させていただくことになりました」

なるほど。おふざけカリキュラムかと思いきや、大阪府教育委員会お墨付きの新しい教育チャレンジだったのだ。

それにしても、いきなり年間25コマの正規授業を導入するとは…。金岡高校の和栗校長も大胆だ。

だが、プロフィールを聞いて納得。実は和栗校長、もともとは『アメリカ横断ウルトラクイズ』などの人気番組を多数手がけた放送作家で、橋下維新が進める教育改革の一環として誕生した民間公募校長のひとりだったのだ。

「手探りの部分が多く不安もあります。でも教師、生徒のコミュニケーションを大切にすれば、よい成果が出るはず」(「笑育」授業を担当する予定の教諭)と、現場からも期待の声が聞かれた。

大阪ならではの「笑育」の今後に注目だ。

(取材/ボールルーム)