「ニューロティカ」のヴォーカリスト“あっちゃん”ことイノウエアツシの魅力とは?

結成30周年! ライブ会場の移動やステージの設営、CD・グッズの製作に至るまで、すべて「DIY」でパンクを鳴らし続けるバンド「ニューロティカ」のヴォーカリスト、イノウエアツシのドキュメンタリー映画『あっちゃん』が4月18日から公開される。

ニューロティカは1984年、高校の同級生を中心に結成。ピエロのルックスと一度聞いたら忘れられないキャッチーなパンクソングで一躍人気を博し、90年にメジャーデビュー。ライブ回数は1700回を超え、氣志團、マキシマム・ザ・ホルモン、グループ魂などに影響を与え、メロン記念日やベイビーレイズなどのアイドルへも楽曲提供している。

唯一のオリジナルメンバーであるあっちゃんは普段、東京・八王子にある実家のお菓子屋で若旦那(でもアラフィフ)として働き、ライブになるとピエロに変身してステージを激しく走り回る。

この映画ではその30年に及ぶ活動を追い続け、80~90年代のバンドブームの実態を浮き彫りにしている。ちなみに、制作資金はクラウドファウンディングで集められ、940万3669円という自主制作映画市場過去最高額を達成した。

歌い続けて、バカやり続けて30年。業界内リスペクトも高い「ニューロティカ」のボーカル・あっちゃんって、一体どんなオトコなのか? 映画になるほどスゴい人なの? 何が魅力的なの?…という人も多いはず。そこで、知る人ぞ知る主人公・“あっちゃん”を直撃、映画制作にまつわる裏話からバンド活動、音楽への想いを聞いてみた。

―今回、ニューロティカの映画を作ることになったのは昨年、バンド結成30周年を迎えたからだそうですね。

アツシ そうなんです。「周年ビジネス」は毎年やってるんですけど(笑)、30年ですからね。「一年かけて何かに取り組もうよ」って話をしてたらドラムのナボちゃんから僕の映画を撮ろうってアイデアが出たんです。

僕はただ普通にしてるだけなんだけど、バンドをやりながらお菓子屋をやってるってのは面白いからって。恥ずかしいと思ったけど、この機会しかないのでやることにしました。

―制作費をクラウドファウンディングで集めたんですよね。大企業でなく一般の方がひとりひとりサポートする形が長年、地道に活動してきたニューロティカらしくていいなって。

アツシ 後輩のバンドマンに詳しいヤツがいて勧められたんです。でも最初、目標額が350万円と聞いて、絶対に無理だと。それが1週間で3倍を超えちゃって。今では“八王子の歩く1千万”と呼ばれてます(笑)。本当にありがたいですよね。

―映画でアツシさんはバンドのフロントマンとして活躍する一方、実家のお店でお菓子を並べたり、お母さんとケンカしたり、寂しくなる一方の髪の毛を語ったり(笑)。かなりプライベートな姿を見せています。

アツシ 今回、監督はウチのPVを撮ってくれてるナリオに頼んだんです。1年半、撮りためたんですけど、気心しれてるから特に意識しなかったですね。撮影後も僕自身は編集にタッチしてないんです。だからもうありのままですよ。

ファンの女のコがチューしてから入場?

―在籍したメンバーたちが口々に昔を振り返ってますけど、バンドの30年を実感させます。そもそもアツシさんはなぜピエロの格好をするようになったんですか?

アツシ 僕、パンクやってますけど、髪を立てたり革ジャンを着たりとかパンクの格好が好きじゃないんです。でも歌が下手だから見た目で驚かせたくて。86年くらいかな。ある日、お菓子を陳列してたら、たまたまピエロの絵が描いてあるお菓子を見つけて「これだ!」と。

で、ライブにピエロの格好で出ちゃったんです。そしたらバカウケでね。そこからですね。

―その頃ってラフィンノーズ、ブルーハーツ、JUN SKY WALKER(S)ら正統派のパンクバンドが全盛でしたよね。そんな中、曲にコントを入れたり、ライブMCがギャグばかりとエンタメ性に富んだニューロティカは目立ってましたね。

アツシ そうなんですよ。当時のライブハウスはやたらピリピリしてて、リハから勝負!なんて時代でしたから。ラフィンなんて周りをビビらせようと楽屋でメンバー同士わざとケンカしてたらしいし。そんな中でピエロがちょこちょこしちゃってねぇ(笑)。

―シリアスなシーンに一石投じようってパンクスの血が騒いだとか?

アツシ とんでもない(笑)。メンバー全員がクラスのお調子者タイプでね。やってることが文化祭の延長だっただけなんです。楽しければいいやみたいな。張り詰めたヤバい雰囲気も本来、ライブハウスの魅力なんで。それを明るく変えちゃったのは申し訳なかったって気持ちも今ではあるんですけどね。

―ニューロティカがいなかったら、氣志團もグループ魂も出てこなかったんじゃ…。シーンの間口も広がっただろうし。

アツシ そこ、太字にしておいてください(笑)!

―バンドを長くやってると楽しいことも辛いことも体験するわけで。特に印象的だったことはありますか?

アツシ そうねぇ。やっぱり楽しかったのは80年代、バンドブームで売れてた頃かな。かなりメチャクチャやりましたよ。打ち上げにファンの女のコも呼んでね。会場の入口で俺とギターのジャッキーにチューしてからじゃなきゃ入れないよ、なんてやったり(笑)。

スゴすぎ人脈「ロックバカ、仲間は財産」

―ええっ、そんなことアリだったんだ!?

アツシ あと、今日は上を脱がなきゃ入れないなんて言って、ブラジャー姿の女のコに囲まれて飲んだこともあったな~。俺らも上半身裸だったけど(笑)。辛い話は…覚えてないんだよなぁ。

―でも人気が下火の頃は金銭面でいろいろあったんでは?

アツシ 90年代半ば、引っ越しとか派遣のバイト始めて、タバコか酒をやめなきゃ生活できないって時期はあったけど。辛くはなかったしなぁ。それよりバイトの給料関係の書類を書く時、20歳そこそこの連中に混じって「35歳」って書くのだけが恥ずかしかったかな。「結構、年いってるんスね」なんて言われれてさ(笑)。

―あははは。でもアツシさんって世代関係なくいろんな人とおつきあいしてますよね。この映画でも綾小路翔さん、宮藤官九郎さんからラフィンノーズのPONさん、東京ダイナマイトのハチミツ二郎さんまでバンド界の先輩・後輩、お笑い芸人までコメントしてるし…。交友関係を広くする秘訣って?

アツシ 考えたことないけど、なんでも受け入れるってことかな。どんな仕事でも決して断らない。

―そういえば昔、サッチーこと野村沙知代さんともコラボしてましたよね(苦笑)。

アツシ 後はとにかく、みんなと一緒に楽しもうとすること。僕、いいバンドだなって思ったらライブハウスに見に行って対バンさせてくださいってどんどんお願いしちゃう。

―年下でも自分から積極的に近寄っていくと。

アツシ そう。年齢を気にするより盛り上がる方がいいでしょ。あと自分では25歳くらいのオトコが18歳くらいのコに向ける感覚で詞を書いてるんですよ。つい「夢」とか書いちゃうし(笑)。

―理屈っぽくないし、年に関係なく楽しめますよね。そういえば年下のバンドマンでもみんな「あっちゃん」と呼んでるんですね。

アツシ 呼んでいいよって言ってるんです。カズとかイチローを意識してる部分もあるんですけどね(笑)。「ロックバカ、仲間は財産さ」ってよく言うんですけど、ロックをやってると面白い友達がたくさんできるんですよ。それが最高なんです。

お客は30人でもいいんですよ

―なるほど。今回の映画では人気とかお金とかメジャーとの契約についてとか、いわゆるバンドの成功にまつわる話をいろんな人が語ってますけど、アツシさんにとってずばり“成功”とは?

アツシ 素敵な仲間にめぐりあえることですかね。

―あっちゃん、かっこよすぎ!

アツシ いえいえ(笑)。あの、地方のライブに来てもらえばわかるんですけど、お客さんが入らない日はいくらでもあるんです。でもね、30人でもいいんですよ。自分たちとお客さんが50%ずつの力を出し合って100%のライブをやれればいい。もちろんCDは売りたいし、ライブも大きいところでやれるならやりたい。でもその30人の仲間たちとライブで盛り上がれることが僕にとっての“成功”なんです。

―仲間やお客さんたちと理屈抜きで音楽を楽しみたい。

アツシ そう。実は僕、昔から「ガーゼ」が大好きなんですよ。

―「ガーゼ」って、80年代から活動しているハードコア界の大御所バンドですよね。

アツシ うん。6、7年前かな、ニューロティカも500人くらい集客できるようになったんで対バンをお願いしたいって手紙を書いたんです。でもスポークスマンのシンさんに「申し訳ないけどイノウエくんたちのような商業的なバンドじゃないから一緒にできない」って断りの電話がきたんです。

―楽しさを追求するというよりも強いメッセージを打ち出すストイックなバンドですもんね。

アツシ でも、それから1年後にシンさんが俺の歌詞に共感してくれてるよって人から聞いて。早速、ライブハウスに行ったら「イノウエくん、見た目で判断して悪かった」って言われてね。しかも「お互い行く道は違うけど目的地は一緒だね」って。その後で共演させてもらったんです。結成26年目にして勲章をもらったような気持ちになりましたね。

テレビ出て地元を喜ばせなきゃ

―ぶれずに音楽を楽しみ続けて30年。尊敬します。では最後に、今後の目標は?

アツシ やっぱりテレビには出たいかな。2年前に『アド街』(『出没!アド街ック天国』[テレビ東京系])の八王子特集の回に出演したんですよ。

―“お菓子屋さんの若旦那の正体は、ロックピエロ!”みたいな内容でしたよね(笑)。

アツシ あれを近所の顔なじみのおばあちゃんたちが見てたらしく、翌日「あっちゃん、報われたね」って抱きついてきたんです。やっぱり地元を喜ばせなきゃと思って。それにはわかりやすくテレビかなと(笑)。

―ってことは“武道館やドームより『紅白歌合戦』”みたいな(笑)。

アツシ そう。そのためにもこの映画がヒットして、新しいニューロティカのファンが増えればいいなぁって思ってます(笑)。そして、もっとたくさんの“ロックバカ”と仲間になって、死ぬまで楽しんでロックやり続けたいですね。

* * *

ニューロティカを30年続けてきた「本当の理由」を、ベロベロに酔っ払ったあっちゃんが映画のラストで明かした直後、エンドロールと共に流れる名曲「俺たちいつでもロックバカ」。本当に大切なことのすべては、この歌の中に、ある。

(取材・文/大野智己)

『あっちゃん』出演●歴代ニューロティカメンバー<修豚、JACKie、SHON、アキオ、カタル、ナボ、シズヲ、RYO、James>、蒼井そら、綾小路翔(氣志團)、石坂マサヨ(ロリータ18号)、大槻ケンヂ(筋肉少女帯)、北島健司(U.K.PROJECT)、宮藤官九郎、GEN(THE GELUGUGU)、サトパー(30%LESS FAT)、SHOGO(175R)、ターシ(LONESOME DOVE WOODROWS)、ハチミツ二郎(東京ダイナマイト)、bamboo(milktub)、HIKAGE(THE STAR CLUB)、PON(LAUGHIN’NOSE)、増子直純(怒髪天)、まちゃまちゃ、宮田和弥(JUN SKY WALKER(S))、矢沢洋子、RYOJI(POTSHOT)、井上綾子 他(c)あっちゃん製作委員会

4/18(土)~渋谷HUMAXシネマ、シネマート心斎橋、5/2(土)~名古屋シネマテーク、5/9(土)~福岡中洲大洋映画劇場、5/23(土)~ニュー八王子シネマ、以降全国順次公開予定

詳細は映画『あっちゃん』オフィシャルサイトにて!http://www.acchan-movie.com/