国民的“お昼のバラエティ”番組『笑っていいとも!』が終了して早1年余ーー。
すっかり12時に始まるあの“ウキウキウォッチング”なテーマソングが流れないことに慣れたのではないだろうか?
…だが、やはり淋しい! 「テレフォンショッキング」という恒例の名物コーナーを32年も続けて、あれっきりでいいのか!?
そう考えた「週プレNEWS」は、勝手にその精神を受け継ぎ“友達の輪”を再開、新たに繋げることにした。そのタイトルは『語っていいとも!』。
そのメモリアルな第1回にゲストとしてご登場いただくのが、作家の北方謙三氏だ。
『週刊プレイボーイ』本誌にもかつて連載小説を執筆するなど縁も深く、長きにわたり交流のある北方氏に「きてくれるかな?」とオファーしたところ「いいとも!」とばかりに快諾いただいた。そこで早速、お忙しい合間を縫って都内某ホテルの一室、仕事場に伺った。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)
―第1回ということで“友達の輪”のおひとり目に登場していただきありがとうございます!
北方 でもな、貝山よ、これは大変なところに手を出したんじゃないのか。あの番組に関しては、俺も5回くらい出たけど、芸能界の人間が大体出たがったよな。
―それはそうですよね。人脈の広さであり、深さをアピールできるのもありましたし。ステイタスになってましたから。
北方 だから、週プレも「出て得した」って思わせないと、どうしようもないぞ。1回目はわかんねーけど。
―そこで、ここが少しずつそういう場になっていければと思いまして。まず北方さんにご登場願えたのは、週プレも長年やってきただけの人脈があるぞと(笑)。…ちなみに最近、本誌は読んでいただいたりは?
北方 時々読むよ。わりと若いほうにだけはアンテナ伸ばすようにしてるから。風俗的な記事も読む。それから政治的な分析を変な角度からやってたりするよな。
今もう、あんまり若いヤツの雑誌ってないもんな。まぁ週プレも30~50歳ぐらいが読んでるんだろうけど、俺にとっては若い世代に入るから(笑)。グラビアだと、安齋ららなんてやってたじゃん。誰が見たって、宇都宮しをんってヤツを…。
―めちゃめちゃそこチェックしてるじゃないですか(笑)。
北方 最初イイと思ったんだよ。うぉーいいなぁーって。ヌードもよく撮れてたしな。そしたらさ、ヘア出すの早すぎだよ。おっかしーなって思ったわけ。それでちょっと調べさせたら「宇都宮しをんっていうのがいるんです」って。
「(DVDを)持ってこい」って言って、みんなで見たら「んおぉー!」ってなってさ(笑)。あれは詐欺だよ。
―ノーコメントということで(苦笑)。でもそれ、お忙しいところアレですけど、朝日新聞の池上彰さんみたいに週プレの誌面チェックをやっていただけますか(笑)。
北方 忙しくてイヤ。…まぁ、ポストなんかも(『謎の美女シリーズ』)祥子のなんとかやってんじゃん。でもあれは衝撃力ないからな。安齋ららのおっぱいはそれがあったんだよ。
だから、AV出てようが、知らんぷりしてずーっとヘア出さないで、期待を持たせて1年くらいやればよかったんだよな。グラビアは別なものを作ってるって意識でさ。雑誌ってそういうもんなんだから。あれは、編集の間違いだな。
若いヤツらのダメさ加減をいろんなものが象徴してる
―いやぁ、北方さんのそっちの“オトコ”が全然弱ってないんですけれども…。
北方 いや、弱ってる、弱ってる。だからグラビアいっちゃうんだよ、きっと。でもさ、絶えず刺激を与えてないとダメなんだな、脳に。ほら、俺はおっぱいフェチだしさ(笑)。
―世の中的には若い世代が草食を通り越して、今「絶食」みたいにまで言われてますが。そういうのってどう見られてたり?
北方 今さら、もういいよ。だって、そいつらが絶食してれば、その食い余ったモノが俺のところに回ってくんだから。俺にとっては良い時代だと思ってるよ。
―それで、芸能人の年の差婚的な話題も増えてますしね。
北方 いや、でも結婚すると大変だよな。俺はね、そこはもう超越したんだ。けど、「おじさんは、もう年を取っていつ死ぬかわからない」と口説いたりしてな。安齋ららには、神々しさとかなんとかっていうより欲情してたわけだしさ。
―安齋ららが止まりませんが(笑)。でもホント、絶食はそのまま絶食でいてくれたら、みんな淘汰(とうた)されていくしかないと…。
北方 つまりね、今の若いヤツらってのは、いろんなものが象徴してるよ、ダメさ加減を。例えば、ロックがそう。俺らは「ロックンロール」って言ったんだよ。そしたら「今はロックンロールって言いません。ただのロックです」とかさ。場合によっては「せつなロックです」って。
「せつな」って、一瞬「刹那」かと思ったら、それが「切ない」なんだな。ロックが切ないのか?って。「それじゃ、ロックンロールじゃねぇだろ」って言うと「ロックンロールじゃありません」って。じゃあ、なんでロックっつーんだって。
―しかも、ロールもしてない。
北方 ロールしてないどころかね、「キミが僕のそばに居てくれれば、僕はもう何もいらないから一生このままでいよう」なんて歌詞は、歌詞じゃねーよ。ライブとか聴きに行くとさ、サウンドは良いんだわ。ところが「なんで歌詞はこんなバカなんだ」と思うんだよ。
―ライブもよく行かれるんですか!
北方 行くよ、俺は。若者がわかるからさ。最近はね、LOVE PSYCHEDELICO。これ、なかなか良いんだけど、日本語がなってない。ずーっと英語聴いてるみたいだよ。(歌詞に)日本語がちゃんと入ってるのに、なぜちゃんと発音しない?ってのがあるわけ。
それから、歌が上手いなっていうのは、ONE OK ROCK。だけど、やっぱり歌詞がダメだよ、せつなロックだ。…あの、(ジャズの名曲の)『サマータイム』っていう歌、知ってるだろ? あれは「坊や、泣かないで眠ってね」のところに一ヵ所だけ省略があるんだよ。「だから坊や、“お腹が減っても”泣かないで眠ってね」って。つまり、そこだけを省略して、なんとなく明るい子守唄にしてるわけよ。
―行間の言葉にしない部分が大人の情感なワケですね。
北方 その省略みたいなものが全くないんだ、今の歌詞には。この“お腹が減っても”を省略するって、大変なことだよ。それによってひとつの歌詞が、世界ができあがる。生活が豊かなわけないんだから。惨めなとこでお腹減らして泣いてる子に向かって、そうやって歌ってんだよ。人間の情念がこみ出してるわけじゃない? そういうものがないんだよな。
だから、ONE OK ROCKだって『盛り場ブルース』(森進一)を歌えばいいんだ、ステージで1回。ド演歌の中の情念がどんな風にね、人間の表現の中にからみついてくるかっていうものを、きちんと勉強したらいいと思う。ダメな歌詞で、人生の省略も知らないから絶食しちゃうんだよ。
表現は全て情念であり、そして孤独
―だいぶ深いです。歌ってるのはオシャレでも、その中身には演歌的な情がこもるべきと?
北方 表現って全て情念なんだよ。それは薄っぺらにいっちゃダメなんだ。「キミが好きだ」とかね、そういうことだけ言ってちゃダメなんだよ。それで何か、やっぱり孤独なんだよ。ひとりっきりで表現するんだけど、それを受け入れるヤツとの1対1の関係性が無数にあるっていう。その表現ができてない。
やっぱそこはね、みんなで盛り上がろうっていう動きが、今の若い表現者の弱いところだろうな。RADWIMPSなんて相当、音楽的に優れてると思うよ。けど、やっぱり「せつなロック」だよ。
―ここまで音楽シーンの話で語っていただくとは意外でしたが…。
北方 まぁ後はね、女のコのバンドだからと思って関心持って、赤い公園ってのも聴きに行った。可愛いんだよ(笑)。ビジュアルで許せるヤツは許す。女の場合はな。男は許さないよ。
どっかのホテルに連れてってさ、「おじさんの言う通りにすれば間違いないからね」とか、バージンだっていう想定の元にな、「怖くないからね」なんてことを言ってるのを想像しながら聴いてるとね、なんとなく良いかもって思うな。
―結構またマニアックなところに入りましたけど(笑)。ほんといろいろ行かれてますね。
北方 若いヤツらが集まるところに行ってな、うわー!っと乗ったりしてるわけだよ。一応サウンドは良いからさ。で、ダイブなんかしてるヤツがいて、じゃあ俺も!なんて言ってさ。そしたら、人が集まってきて、俺をすーっと持ち上げるわけ。で、そろりそろりとステージに運んでスイっと俺を置くんだよ。そうすると、バンドのヤツらがズラっと並んで「いらっしゃいませ」って(笑)。
―ええっ!? それはちなみになんのバンドですか?
北方 えっと、BIGMAMAってバンドだったんだけど、あそこだよ、下北沢のシェルター。俺さ、「バカバンド」とかしょっちゅうアイツらの悪口いっぱい言ってるから入口ですぐわかるんだと思う。
―バカバンドって(笑)…それは愛情込めての話なんですよね。
北方 愛情込めてだよ。だって、聴きに行くんだからさ。たぶんみんながダイブやり始めたら、俺もやるかもしれないっていうさ、危惧もあるわけよ、あいつらには。それで事前に気づいてて、集まってそろりそろりとね。まあ、けどそれ1回だけだからさ。俺も一度したかったんんだよな。
―いや、その茶目っ気を発揮できるところもさすがというか、若すぎです!
北方 いや、アレなのよ、『ホットドッグプレス』って雑誌でずっと人生相談やってただろ。16年間やってたんだ。で、その連載が終わってしまったら、若いヤツと話す機会が全然ないんだな。そうすると、やっぱり音楽なんだよ。映画はちょっと年上のヤツとも話すけど、他者と語るってなると小説は語りたくない。そうすると、音楽と映画なんだよ。
―なるほど。あの人生相談も話を聞いてやるじゃなく、対話だったんですね。
北方 そう、だから受けたんだと思う。「俺はおまえと喋ってんだよ」って感じでやってたんで。必然的に若いヤツに触手が伸びてたんだよな。で、彼らの感覚も取り込めたんだよ。俺は小説家だから、20歳の青年が主人公の小説だって書かないといけない。それは今も「もう70近いからイヤだ」って言ってられないんだよ。
俺は日本刀で自分を斬ってるんだ
―確かに我々も10代、20代と喋ったりするインタビューで「こっちはまた違う世代だから」とか言ってらんないですから。意識は同じですね。
北方 そういう時、若いヤツとどういうこと喋るの?
―基本的には意外とフラットに10代、20代に返れるんで。こっちがそれで相手を「知りたい、関心がある」って興味を示すと結構喋れるんですが。
北方 そういえば、俺はな、貝山からもらったDVD観てさ。あのマネして、ひでー目に遭(あ)ったよ。
―いきなり、話が飛びますけど(苦笑)。去年お渡しした『猪木vsアリ 伝説の異種格闘技戦』ですか? マネって、アリキックを…?
北方 そう、あれでスライディングキックしてさ、体中がおかしくなっちゃったんだ。ひとりでだよ。別荘で。
―何やってるんですか?(笑)
北方 俺、いつも巻き藁(わら)っていう、竹の芯が入っててグルグル巻きにしてある畳表なんだけど。それを台に立てて、ズバー!っと日本刀で斬ってな、居合い抜きの稽古してるんだよ。
―純粋に稽古としてやられてるんですか?
北方 うん、そうなんだけど、あのね、俺は「打ち首人」になりたいの。山田浅右衛門になりたいんだよ。その斬り方の美学を身につけたいと思ってるわけ。意味はないよ。それ、どういうことかっていうと「抱き首」ってわかるか?
―いえ、わかりません(汗)。
北方 切腹するだろ。こうなるよな(うずくまる格好)、そしたら首落とすんだよ。全部斬っちゃったら飛んで行っちゃう。だから、首の皮一枚残す…と、ストーンと首が両腕の中に落ちるんだよ。そうすると、自分の首を抱いてる形になる。「抱き首で落とす」っていう、それを稽古してんだよ(笑)。
―それは小説の中でそういうシーンを描く時の心持ちとか何かを知りたいとか?
北方 あのね、実際にやるより、小説の中で描くほうがはるかに自由に書けるに決まってるんだよ。それをやってるのは、ただ単に首打ち役人になりてぇっていう、願望から始めてるだけでさ。それはできるのかなと思って。(巻き藁の)畳1枚残ればポトーンと落ちるわけだから。
―その美学に近づきたいという感じですか…。ご家族にも誰にも見せず?
北方 見せない。つまりだ、何を斬ってるかって言ったら、自分を斬ってるだけだから。普通に稽古する時は、構えてずーっと見てて、(巻き藁が)自分に見えた時にスパーンと斬るんだよ。で、それまでの自分はいなくなるわけ。…と思ってるんだけどな、それで部屋に帰って、ふっと原稿用紙の前に座ると、変わらない自分がいて書きあぐねてるわけだ。
―また深いです…。自分を無にして、まっさらに対峙(たいじ)するというようなイメージですか。
北方 というかさ、精神的な集中力と肉体の瞬発力を鍛える運動なんだよな。王(貞治)さんだって日本刀でやってたじゃない。俺も王さんみたいにやろうと思ったことあってさ、紙はいっぱいあるから。で、釣り針にくっ付けて、木からぶら下げてスパーっと斬ろうと思ってやったわけ。すると、「今斬れる!」と思った瞬間に風がひゅっと吹いてきて、パラパラパラ~ってなってさ。バカか、これは!って(笑)。
これってテーマはなんなんだ?
―(苦笑)。しかし、猪木vsアリから山田浅右衛門に王貞治って…そもそもアリキックでケガした話はなんだったんですか?
北方 いや、アリの試合ってのは、良い試合があるんだ。キンシャサでやった試合だってさ、見てたら良い試合なんだな。でも、凡戦なんだよ。フォアマンが打ちまくって、で、くたびれて下向いた瞬間、アリが打ち返すっていう。だけど、勝負としては芸術だよね。
アリと猪木がやった時はTV中継したじゃん。俺はそれを見てたんだよ。そん時は「なんで立たねーんだ」って思ってね。その欲求不満みたいなのはすごいあったの。それが今回見直してみるとさ、猪木の足がアリの膝にホントは入ってんだよ。で、アリはホント怖がってんだよな。もう、怖がって怖がって逃げまくってんだよ。
―見直して、あれは本当に緊迫感が伝わってきました!
北方 その緊迫感がね、実際にライヴでTV映像で見た時は、ボクサー相手に立たないっていうだけでさ、そっちにみんなね。だけど、凄まじい攻撃だったんだよな。アリ、怖かったと思うよ。
―で、その猪木の殺気立った危機感というか、緊迫感を巻き藁相手に日本刀の代わりに自分のアリキックでやってみたと(笑)。
北方 やってみたくなった。いや、バカなんだ、俺。自宅の書斎にも日本刀置いてあってさ。(ある時)書けなくなったのよ、小説書いてても。もう朝の2時か3時ぐらい。ずーっと何時間も書き続けてたんだけど、パタっと言葉が出てこなくなった。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう…出てこねぇや、どうしよう」と思った時に「もうこんな自分は斬ってしまおう」と思って、ぱっと日本刀出してな、で、ズバーンズバーンとやったわけ。そしたら、ビシーっとここ(腕)で音がして「あたー」って、そのままうずくまってさ。冷や汗が出てきて、これはケガしたなぁって。
で、俺の書斎は2階だから下のキッチンに行って、保冷剤ってのを持ってきてな、ガムテープで貼ってたら少し痛みが和らいできたのよ。それで、あぁ…と思ったら言葉がスラスラ出てきて、すぐ書いちゃってさ。それで寝たんだけど。
翌日、病院に行ったら「上腕二頭筋断裂です」とか言われて(笑)。すごいよ、断裂。これ、治らないんだよ。そん時、俺バカだなと思ったな、自分が。
―いや、それは鬼気迫るというかトンデモない話ですが…。ここで、だいぶお時間過ぎてるんですけど大丈夫でしょうか。
北方 テーマなんなの?
―いや、テーマはないんです(汗)。こうやって、ああでもないこうでもないと他愛もない話をして。友達の輪を広げていくということで。茶飲み話というか酒飲んで語らっている感じですか。
北方 俺はね、少し限られてるけど、まだ大丈夫だよ。
―時間よろしいですか? ではまさかの延長ということで(笑)。これも本家のテレフォンショッキングっぽいですね。ゲストがいいって言ったら、いいみたいな。ハプニング的で…。
●この後編は次週、5月3日(日)12時に配信予定!
◆北方謙三(きたかたけんぞう)1947年佐賀県生まれ。中央大学法学部在学中の70年にデビュー、“ハードボイルド小説の旗手”として一躍人気作家に。『逃れの街』『友よ、静かに瞑れ』『黒いドレスの女』など多くが映画化される。その後、歴史小説を手がけ『三国志』『水滸伝』など壮大な大長編を執筆。柴田錬三郎賞、司馬遼太郎賞など受賞多数。86年から02年まで『ホットドッグ・プレス』にて人生相談「試みの地平線」を長期に渡って連載。97年から01年には日本推理作家協会理事長を務める。現在、アンソロジー『冒険の森へ 傑作小説大全』(集英社)の編集委員でもある
(撮影/佐賀章広)