小学3年の道徳の教科書にアニキのエピソードが正式採用、自身が語る大人の道徳とは? 小学3年の道徳の教科書にアニキのエピソードが正式採用、自身が語る大人の道徳とは?

『マジンガーZ』や『侍ジャイアンツ』など数々の主題歌を歌い続けて44年のアニソンの帝王が、なんと今年、道徳の副読本の題材に!

そこで今回、水木一郎アニキに“大人の道徳”とはなんたるか?を熱く語ってもらったゼーット!

―まず、道徳の副読本に自身の歌手デビューから“アニソンの帝王”と呼ばれるまでの逸話が掲載されたことについて、水木アニキの率直な感想を聞かせてください!

水木 嬉しかったし驚いたよ。だって単純にすごさでいったら、俺よりももっと選ばれるべき人がいるでしょ。でも個性のない歌謡曲歌手だった俺が、アニソンを通じて自分を生かせる場所を見つけた山あり谷ありの経験が題材としてよかったんだろうね。

―直球の質問ですが、水木さんにとって“道徳”とはなんですか?

水木 ひと言でいえば、人を思いやる心。「人に優しく」って口にするだけじゃなく、実際にどうすればいいかと考えてみる。例えば、「同じことをされたら自分はどう思うか? 嬉しいか? イヤか?」って想像すれば、相手の気持ちになって行動できるでしょ。

だけど、ただ優しくすればいいわけでもない。昭和の時代にはよく近所にいた、頑固オヤジとかカミナリオヤジが今はほとんどいないよね。でも俺は絶対に必要な存在だなって思うんだ。子供は特に叱られて初めて身につくことも多いと思うからね。

感情に任せて怒るのではなく、相手を思って叱ることが大事。俺自身、そうでありたいね。だから親や教師、周りの大人もここぞという時は厳しく叱ってあげてほしいゼーット!!

違法DLは想像力の欠如だゼーット!!

 今年発刊された『3年生のどうとく』(文溪堂)に掲載。20歳で歌謡曲歌手デビューするも鳴かず飛ばずだった水木アニキが、いかにしてアニメソングと出会い、“アニソンの帝王”と呼ばれるまでに至ったかを4ページにわたって紹介 今年発刊された『3年生のどうとく』(文溪堂)に掲載。20歳で歌謡曲歌手デビューするも鳴かず飛ばずだった水木アニキが、いかにしてアニメソングと出会い、“アニソンの帝王”と呼ばれるまでに至ったかを4ページにわたって紹介

―子供への教育という観点だと、例えば電車の中でわが子が騒いでいても叱らない親の是非が議論されることがよくありますよね。

水木 その子が赤ん坊とか2歳児ぐらいまでなら、泣くのはある種の運動であり仕事でもあるわけだから、俺は仕方ないと思うんだよ。だけどそれより大きい子供が騒いだり泣き叫んだりしていたとしたら、親御さんはしかるべき対応を取らなきゃいけないと思うよ。

もしかしたら子供を自立させるためにあえてほったらかしにしているのかもしれない。けど、他の人が大勢いる公共の場では、その行為が人の迷惑になるということを気づかせるべき。その場しのぎの機嫌取りはもっとダメ。一度電車を降りるなり、何がいけなかったのか考える機会をあげてほしいゼーット!!

―音楽業界では楽曲を違法ダウンロードすることが問題視されていますが、水木さんはどのような見解をお持ちですか?

水木 それはもう明確な著作権侵害ですし、やっぱり相手の立場に立って考える想像力が足りないんじゃないかな。だって、それでメシ食ってる作曲家や作詞家、歌手、さらには業界全体を苦しめ、いい音楽を生む土壌を奪うことになる。そこまで想像できてたら、お金を払わずに曲を手に入れようっていう気持ちにはならないと思うんだ。

ちなみに、個人的にはまたレコードの時代が来ればいいなぁと思ってる。CDよりも大きくてかさばるレコードだからこそ、手に入れた時の嬉しさやコレクションしていくことの達成感がある。それが逆に新しい、って時代が来てくれたら最高だゼーット!!

俺の声は水戸黄門の印籠と一緒だゼーット!!

―最後の質問です。今回の道徳の副読本内には、児童に向けて「アニメソングという自分のこせいを生かせる歌に出合ったとき、水木さんはどのような気持ちだったでしょう」という問いかけがありますが、ご本人の本音をぜひお聞かせください!!

水木 大好きな歌がたくさん歌えて嬉しい…これに尽きるよ。当時、アニメソングの歌手は顔も出ない影の存在。数十万枚売れるヒット曲をたくさん持っていても、他のジャンルの歌手より格下のような扱いを受けることもしばしば。

でもね、強がりでもなんでもなく、本当に当時の俺は腐ってなかった。毎日のように自分の歌がTVから流れて、次々と新曲のレコーディングがある。

それが嬉しくて嬉しくて。ロックにポップスに演歌にジャズ…作品ごとに自分の音楽の引き出しを生かせて、これまで苦労してきたことが何ひとつムダではなかったと感じたよ。

―でもやはり、もっと早くに売れたかったのでは?

水木 いや、今はむしろ若い時に売れなくてよかったなって感じてる。もし簡単に売れてたら天狗(てんぐ)になってとっくに業界から消えてたと思うし、何よりアニメソングに出会うこともなかっただろうからね。

自分の我を押しつけるのではなく、ありとあらゆるヒーローの魂を伝えることができたのは、無個性とまでいわれたこの歌い方あってこそ。俺の歌はアニメとともに国境を越えて、今でこそ世界中のファンから「アニキ」と呼ばれるまでになったけど、この個性はヒーローたちが与えてくれたものなんだ。

まだ俺の顔なんて全然知られていない頃、ステージで歌いだした途端、「うわ~、本物だぁ!」って子供たちから歓声が上がるのが嬉しかったんだ。『水戸黄門』でいうところの印籠が、俺の場合は声なんだなって実感した瞬間だったゼーッッット!!

―かつて業界内で地位の低かった“アニソンの歌い手”という立場で、純粋に歌うことに喜びを見いだし、アニソンに対する真摯(しんし)な姿勢を貫いたからこそ、“アニソンの帝王”が生まれたのですね…道徳的いい話、あざす!(涙)

水木一郎 1948年生まれ。1971年、『原始少年リュウ』の主題歌を皮切りに、これまで数々のアニメソングを歌い続け、持ち歌は1200曲以上。『ウィキペディア』には現存する日本人最多の89言語(6月24日現在)で掲載されるなど、世界的知名度も高い!

(取材・文/昌谷大介、牛嶋 健【A4studio】 撮影/下城英悟)