企画・演出を担う古立善之(右)さんと、プロデューサーの小野隆史さん 企画・演出を担う古立善之(右)さんと、プロデューサーの小野隆史さん

関ジャニ∞村上信五とマツコ・デラックスがMCを務める『月曜から夜ふかし』(日本テレビ、毎週月曜日23:59~24:54放送)が、放送開始から4年目を迎え、深夜帯にもかかわらず10%前後の高視聴率を記録する人気番組になった。

「世間で話題となっている様々な件」を取材したVTRにはブラックなものが多く、さらにスタジオトークでマツコが毒舌でたたみかけ、それがたまらないおかしみを生み出している。

そこで今回、企画・演出を担う古立善之(ふるたち・よしゆき)さんと、プロデューサーの小野隆史さんに番組製作の舞台裏を聞いた!

***

―まず、取材VTRはどのように作ってるんですか?

古立 会議でいろんな情報が上がってきて、それを各ディレクターが深く調べるんです。ネタとしていけそうだったらVTRを撮ってきて、僕がそれをどういう括(くく)りでパッケージして見せようかということを考えます。

例えば、「新国立競技場建設の問題についてクリス松村さんがものすごい怒っている」という情報があれば、「言っていたことと話が違う件」として、様々な問題で怒っている人たちにフォーカスしてひと括りにしてまとめる。そして、どういう切り込み方でやれば、外連味(けれんみ)を出せるかと考えます。

―取材対象の人物や事柄を「性格悪く」いじるのに、その裏にはちゃんと愛情を感じるんですよね。

古立 やっぱり、取材対象の方々に支えられているっていうのが大きいですね。単に言葉だけではなく、スタッフとのやりとりの中で取材対象の人がすごく愛すべきキャラクターだったりとか、当人が番組に出ることを面白がってくれているという空気感を見ている人にも理解してもらえている。

VTRではもう、言いたい放題言うじゃないですか。(神奈川県)由比ヶ浜のパーティーピープルを取材して、「こんなに民度の低い砂浜はない」みたいな失礼なことを言うんですけど、それって飲みの席の会話みたいなもので。それがこの番組で許されているっていうのは、マツコさんという存在もあるんでしょうけど、『夜ふかし』が割と世の中に理解してもらえているなと。

―取材受ける側もわかっている(笑)。

小野 取材させていただく方々と丁寧にコミュニケーションを取っていく中で、うまくノッてくださり…さらに、視聴者の方々もそれをわかってご覧になってくださるという、「幸せな共犯関係」みたいなことを一番大切にしたいですね。

―“世田谷のリッチピープル”なんて、発言自体聞くとイヤな女ですけど、掘り下げていくとすごく魅力的な人に思えてきます。

古立 「世田谷は選ばれた民で、そのへんの下々のやつとは生活が違うんだ」ってことを文章だけで見せると嫌味になってしまう。発言者の人となりで笑えるか笑えないかが決まるっていうことですかね。難しいところですけど、そのさじ加減ですね。

「なんだこのクソ番組!」初回放送でマツコが激怒!

 取材対象を外に広げることにより番組が変わっていったと語る古立さん 取材対象を外に広げることにより番組が変わっていったと語る古立さん

―そして4年目を迎えましたが、当初のコンセプトとは変わってない?

古立 う~ん、「空箱」から始めたって感じですね。最初はなんにもなかったんですよ、単純にマツコさんと村上さんのトーク番組のような感じで。

―そもそも、おふたりのキャスティング理由は?

古立 元々はマツコ・デラックスという、生まれてこのかた陽に当たったことのない陰の存在と、ジャニーズ事務所で光に当たり続けている村上さんが喋る…みたいなコンセプトだったんです。「今週の光ニュース」みたいに華々しい話を紹介して、その感想をマツコさんに聞いて、逆に新宿二丁目の夜の話をして村上さんがビックリみたいなことを頭の中では考えていたんですね。

第一回放送では、とりあえず「お祓(はら)いをする件」として、番組が成功するようにお坊さんを呼んでお祓いをしてもらったんですよ。そのお祓いがとてつもなく長くて。30分くらいお祓いをしてマツコさんが本気で激怒するって修羅場(笑)。

―いきなりマジ激怒! 

古立 「なんだ、このクソ番組!」って、ものすごく怒ってた。後にも先にもあんなに怒ったのはない。お祓いをしたのは、「くだらないでしょ」みたいな、こちらのボケを見せてそれに対してふたりにつっこんでもらうという目的だったんですけど、ただ怒られるという(笑)。

そんなスタッフと主演者という2者の番組作りから、外に出て取材対象を広げていって、いろんな人の生き様とかを見せた時に番組が変わってきました。テレビマンの脳みそなんてたかが知れてるじゃないですか。由比ヶ浜のパーティーピープルの頭の中には勝てないわけですよ。そのへんでうまく絡み合って骨が太くなってきたという感じはあるかな。

―それでどんどん新しいスターが生まれているわけですね。ちなみに、街角などで一般人を取材する時って、声をかける人選のポイントはあるんですか?

古立 それは各ディレクターの空気感というか。いかにも声かけてくださいみたいな人もいるじゃないですか、出オチの人。そういう人は話を聞いてみると、意外と何もなかったり…逆に一見、ごく普通の方の話がめちゃくちゃ面白かったりする。

小野 ディレクターとのマッチングもありますもんね。例えば、「ざ行おばさん」は、あの担当したディレクターが取材したからこそ面白くなったわけで。

古立 「ざじずぜぞ」が言えないお母さんね。普通のファッションショップのとても気さくなお母さんなんですけど。

小野 「桐谷さん」にしても、これも、あのディレクターだからこそ面白くなっている。ディレクターたちが汗をかいてやってくれているからこその結果だな、と思っています! 会議で聞いていた話と、収録時に見るVTRが全然違うものになっていたり。ああ、こういうふうになったか!と。

古立 桐谷さんは、「最近株を買う人が増えているらしいよ、株主優待って何があるんだろう?」って調べていく中で、たまたま朝から晩まで株主優待だけで暮らしている人がいるんですって話になって。取材してみたら(面白いポイントは)株主優待じゃない、それよりも桐谷さんが移動する自転車がめっちゃ速かったんです(笑)。

なんでそんなに速いのかと聞いたら、「優待券を使うのに早く移動しなきゃいけない。すごいせっかちなんです」と。こんなのはホントに巡り合わせですよ、狙いでは絶対いけないから。大抵、番組が跳ねる(成長する)時って、こういう予想外の授かりものみたいなものがあるんですよ。

ゴールデン進出を意識しないタイトルで

 ゴールデンを目指すのではなく、これからも月曜深夜枠でやっていきたいと語る小野さん ゴールデンを目指すのではなく、これからも月曜深夜枠でやっていきたいと語る小野さん

―最近のヒットキャラといえば?

古立 個人的にすごく好きなのは、「あだ名を調査」っていうのをやったんです。今、小学生とかでも、イジメを助長する恐れがあるということで、あだ名って使わないんですって。でも、世の中の人ってみんなそこまでキレイな人生は生きてないから、つけられてイヤだったあだ名を聞いて回ったんです。

前歯が出ている女のコに取材したら、自分のあだ名は「クソ出っ歯」だって。「クソ出っ歯」って言われていることを彼女は自分でネタにしているんですよ。そこには微塵(みじん)も暗さがない。オンエアした時にみんな笑ったし、ネットでも「あのコ、すごく感じがいい」って評判になって。外見にコンプレックスがあっても、自分で気にしなければ別になんでもないよね…みたいな示唆(しさ)がそこにはあるんですよね。

で、このコをさらに追っかけてみようと…。電話してみたら「今、オーストラリアに留学している」って(笑)。

―えっ!

古立 「メルボルンです」って。でも、すごい興味あったからメルボルンにロケを出した。英語ぺらぺらなんですよ。外国人の友だちと一緒に暮らしてて、現地でも人気者なんです。ここでのあだ名はなんていうのって聞いたら、「ファッ○ンティース」(笑)

―ダッハッハッハ!!

古立 「クソ出っ歯」なんてあだ名つけられてるけど、彼女の人生ってすごく素晴らしい人生だし、マツコさんも「カッコいいわー」って言ってました。

―基本的にこの番組ってブラックじゃないですか。越えないようにしている一線とか基準はあるんですか?

古立 嘘をつかないってことと、取材を受けた人が不幸にならないってことですね。同じようなことで苦しんでいる人もいるわけじゃないですか。だから、出っ歯も難しいところで。「この人は出っ歯だ」(という事実だけ)では「笑い」にはならない。「乾くんですよ、わはは」とか彼女が自分でネタにして笑いをとっているからこそ成り立つんです。

だから、ただディスるだけ、こき下ろすだけってことは絶対にしないようにしてます。

小野 『夜ふかし』のような番組でイヤな思いをする人がいることは一番よくないので、そこの意識は根底にしっかり持って取り組みたい…と、スタッフ一同考えているつもりではあります。

―今さらなんですけど、『月曜から夜ふかし』ってタイトルはどうやって考えたんですか?

古立 概して、深夜って「ゴールデンのトライアル」なんですよ。深夜で(数字が)良ければ上(の時間帯)に上がりましょうっていうトライアルでやってきた歴史があるんですけど。『夜ふかし』に関しては「ずっと深夜枠でやっていく番組です」って編成に言われたんですよ。

「面白いね、だったら月曜夜12時のお客さんに向かって作ることをビジョンにしよう」となった時に、『月曜から夜ふかし』だったらいいんじゃないかと思った。

小野 番組が立ち上がった時、僕は編成部にいたんですけれど、この枠ってうちの局はずっと苦戦していたところなんです。ゴールデンを目指すんじゃなくて、これからもこの枠でしかできないことをやっていきたいですね。

みんなの中の“あるある琴線”に触れる

―それを聞いて安心しました。深夜からゴールデンに移動した途端につまらなくなる番組って結構ありますもんね。あと、『夜ふかし』のテッパンネタといえば、「地方の○○問題」だと思うんですけど。特に埼玉県をいじりますよね。

古立 千葉の人は埼玉には勝ってると思ってたり、群馬の人から見ると埼玉は俺らよりちょっと上のやつらって感じだし、栃木や茨城の人にしてみれば埼玉には勝てないけど群馬には勝てるとかね。実は東京を動かしてるのは埼玉の人たちだったりするじゃないですか。

職場とかでも埼玉の人って絶対にいるし、「埼京線は痴漢が多い」とか共通の話題が必ずある。私、埼玉はまったく関係ありませんっていう人はなかなかいないんですよ、たぶん。埼玉はウケが広いんですよね。

―隣接した東京都練馬区と埼玉県新座市、都県境に住む双方の住民を調査したこともありましたね。新座の人たちは、あとちょっとで東京都民なのに…って残念な意識が(笑)。

古立 先日の放送では埼玉の市町村調査をやりました。浦和と大宮の対抗意識とか、飯能(はんのう)とか鴻巣(こうのす)とか。三郷(みさと)にIKEAとコストコとららぽーとが揃って、「俺たちの時代が来た」と(笑)。

―「ガングロカフェ」とかすごい人材をよく発掘しますが、他の番組がやるような流行りものは扱わないみたいなポリシーも? 例えば、地下アイドルは扱ってないですし。

古立 『夜ふかし』って、みんなの中にある“あるある琴線”みたいなものに触れる番組なんですよ。「え! 今の時代にガングロのコがいるのか」という驚きとか、埼玉で育っていまだにダサイタマと言われる感じとか、こういう会話ってみんなの中に共通してあるよねっていう。

パクチー好きな人はパクチー嫌いな人をボロクソ言うよねとか、アウトドア派はインドア派に「外に出ようぜ」と強要する、おまえらそんなに偉いのかとか…世の中にある“ささくれ”を面白おかしく引っ張る。マツコさんのトークもそうですよね。「エルニーニョ、エルニーニョって珍しい現象じゃなかったのかよ! 毎年エルニーニョって言ってるじゃねえか、この野郎!!」と怒れば、そうだよね、となる。

地下アイドルにはそういう一般的な価値基準がないから、どうやっても料理できないんですよ。だから、(流行りものはやらないというより)すでに「出来上がってるもの」を料理したい。都道府県ネタなんてまさにそうですよね。

広報 そろそろお時間が…ラスト一問をお願いします!

―じゃあ…週プレはこれからどうしたらいいですかね?

古立 それ最後ですか!(笑) 僕も昔は毎週読んでました。今はどっち方向なんですか? 若い読者を意識してる感じ?

―20代後半とか。一時期、童貞向けの雑誌みたいなベクトルだったんですけど、今はそこから脱却しつつ…。

古立 個人的な印象では、男のコがエロ本は買えないけどこれなら買えるっていう境界線にいるのが週プレだった気がします。内容も含めて、ちょっと男が憧れるみたいな。こういう本は今少ないように思いますが、「子供以上大人未満の男」の境界線って普遍的にあるものだと思うんですよ。

―ありがとうございますっ! 今後もエッジの効いた番組作りを期待しています!!

(取材・文/中込勇気 撮影/小渕翔)