「CDが売れない」といわれて久しいが、かつて、ミリオンヒット当たり前、Wミリオンすら連発という時代があった。
それが1990年代。アイドルがミリオンヒットを連発する先駆けとなった時代でもある。
きっかけはテレビ東京系のオーディション番組『ASAYAN』。ここから台頭してきたのがシャ乱Qのつんく♂。モーニング娘。の生みの親だ。
結成は97年9月。当初こそセールス的に伸び悩んだが、99年9月リリースの『LOVEマシーン』が120万枚を超えるミリオンヒットに。一躍、大プロデューサーの仲間入りを果たす。
つんく♂とモー娘。(およびハロー・プロジェクト)のその後の快進撃は記憶に新しいところだろう。モー娘。は次々とヒット曲を連発。卒業と新メンバーの加入を繰り返し、グループの新陳代謝をしながら「プッチモニ」や「ミニモニ。」などの新グループを誕生させ、さらにメンバーをシャッフルするなど、今のAKB48グループにもつながる手法を確立させた。
もちろん、この他にもMr.Childrenやスピッツといったバンドの活躍や、チャートにはあまり反映されなかったもののピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターを中心とした“渋谷系”と呼ばれる動きもあった。
だが、音楽業界に詳しい評論家の麻生香太郎氏は、総じて「90年代はTVの時代だった」と振り返る。
“ドラマやCMとタイアップする手法”(CHAGE and ASKAや米米CLUBなど)から“アーティストのキャラクターを魅力的に見せてヒットにつなげる手法”(音楽番組『HEY!HEY!HEY!』の功績)を経て、さらに“アーティストをつくり出すところから見せるドキュメンタリー的手法”(『ASAYAN』)へとシフトチェンジしながら、音楽はTVと密接に関わり、ヒット曲を生み出してきた。
しかし、音楽に触れる機会がTVからネットに移った現在は、90年代のようなヒット曲は生まれにくくなっている。麻生氏も「それは仕方ないこと」だと言う。
後にも先にもこれほど音楽シーンが盛り上がり、CDが売れた時代はない。
とはいえ、カラオケに繰り出せば、いまだに90年代の曲を歌うという人は多い。また、中田ヤスタカらを筆頭に、この時代に青春期を過ごし、多大な影響を受けた若者たちが長じて今のミュージックシーンを支えている。
こうして90年代という時代の熱量は、これからも脈々と受け継がれていくはずだ。
(取材・文/井出尚志[リーゼント])