A子さんは自宅でのゲームプレイ時、愛読書の『日本刀図鑑』(宝島社)を片手にキャラクターの裸体(刀身)をじっくり観察しているという

今、若い女性の間で日本刀がとんでもない大ブームになっているという。

「刀女子」なる言葉も生まれ、実際、そんな女性向けに日本刀関連の書籍の増刷や発行が相次ぎ、また全国各地の博物館や美術館で日本刀を展示する企画も増えている。

降って湧いたかのような日本刀ブーム、そして刀女子の存在。

事の発端は、今年1月にDMMゲームズが提供を始めたオンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」(通称「とうらぶ」)とか。当ゲームは、日本の名刀を擬人化した「刀剣男士」たちを収集・育成しながら敵と戦わせるという内容だ。

今年1月にDMMゲームズが提供をはじめ、日本刀ブームを巻き起こしたオンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」

多くの刀女子はこのゲームにのめり込み、そして刀を愛でるようになったという。しかし、このゲームの「何」が、そこまでうら若き乙女を熱くさせ、日本刀ブームを起こすまでとなったのか。現状を探るべく、日本刀にお熱な刀女子たちに取材を試みた。

■“会いに行ける”刀剣男士が誕生

都内在住で20代OLのA子さんは元々、休日にアニメを見たり、オンラインゲームに興じるのが趣味。そんな彼女は、Twitterを利用中に同ゲームの盛り上がりを知り、アカウントを取得。ゲーム「刀剣乱舞」を開始した。

「当初は好きな声優が出演していることもあり、興味本位で始めてみたんですが、実際にプレイすると自分の好み、どストライクのキャラを発見してしまって…そこから“推し刀”のこと以外考えられなくなりました」

“推し刀”とは、アイドルファンの“推しメン”のように、自分のお気に入りの刀のことだ。冒頭で述べたように、同ゲームは、日本の名刀を擬人化した「刀剣男士」たちを収集・育成しながら敵と戦わせるという内容。その擬人化された刀のキャラクター「刀剣男子」がワイルド系から優男系まで、イケメンに次ぐイケメンだらけなのだ。

博物館も“神対応”!?

しかも、各キャラの声はいずれもイケメンボイスで、実際にイヤホンをつけてプレイすると耳元で囁かれているような気分になるという。

つまり、①ゲーム「刀剣乱舞」をプレイ ②擬人化した刀剣男子(超絶イケメン)に夢中 ③本物の日本刀にまで恋をするようになる(←ここがブームの目に見える部分)という大きな流れがあるわけだ。

ちなみにA子さんの“推し刀”は、同ゲームでも人気のレアキャラ・三日月宗近(みかづきむねちか)――平安時代につくられた名刀で、史実上でも「天下五剣」のひとつとされている。

「実装されているキャラの中でも年食った“ジジイ”のはずなのに、妖艶な雰囲気が魅力的すぎて…いっそのこと斬られたいです」…もはや、斬られる以前に重症である。

ゲームに実装されている刀には、源義経に仕えたことで知られる武蔵坊弁慶が振るった刀など伝説レベルのエピソードを基に誕生したキャラクターも少なくないが、中には今でも現存し、大切に保管されている刀も少なくない。

A子さんが愛してやまない三日月宗近も現在、東京・上野の東京国立博物館に所蔵されている国宝のひとつだ。その東京国立博物館では、ゲームをきっかけに注目度が上がるや否や、三日月宗近の展示を開始。期間中は若い女性が同博物館に殺到し大盛況だったという。

「トーハク(東京国立博物館の愛称)さんのフットワークの軽さはまさしく“神対応”以外の何物でもありませんね。2次元のキャラクターにリアルの世界で“会いに行ける”なんて…。『刀剣乱舞』は次元の壁を超えたといっても過言ではないです」

ちなみにこのA子さん、今秋には、もうひとりの推し刀である脇差の「にっかり青江」を観に行くため、所蔵されている香川県の丸亀市立資料館近郊のホテルをすでに手配済みなのだとか。彼女の次元の壁を越えた恋は、これからさらに加速するであろう。

刀女子は夫婦関係も切れない…

■夫婦のコミュニケーションツールにも…?

次に刀女子として取材を試みたのは、今年結婚したばかりの都内在住20代主婦、B美さんだ。一見、リア充感あふれるピチピチの新妻だが、彼女は夫も認める根っからのオタク。推し刀は、伊達政宗が所持していたといわれる「燭台切光忠(しょくだいきりみつただ)」だ。

元々、カプコンから発売されているアクションゲーム『戦国BASARA』シリーズにハマり、伊達政宗への愛を抑えきれずに一時は仙台に足しげく通っていたというが「金銭的にもかなり負担が大きいので、本当は歴史ジャンルから足を洗ったつもりだったんですが、『刀剣乱舞』でまた“歴史沼”に引きずり込まれました」と屈託のない笑顔で語ってくれた。

そんなB美さんのご自宅をお邪魔すると、花柄のベッドの横に何やら刀と思しきものが。これは一体…?

へし切長谷部の刀身を見ながら、B美さんはため息交じりに「なんてキレイなの…」と惚れ惚れする日々とか

「あ、それは私が気に入っている打刀『へし切長谷部(へしきりはせべ)』の模造刀です! 値段は11,900円です。『燭台切光忠』はちょっと高くて買えなかったので…でも、この長谷部も『皆焼刃(ひたつらば)』(刀に施された独特の焼き入れ)がすっごくキレイなんですよ」

「へし切長谷部」は昨年の大河ドラマ『黒田官兵衛』にも登場した刀で、ゲーム内でも主(プレイヤー)に従順な紳士キャラとして人気だという。

20代新妻のベッドの脇に模造刀というカオス。旦那さんはその「刀愛」に不満はないのだろうか。

「ないですないです。夫も時代劇が大好きなので、長谷部の模造刀を見ての第一声は『おぉっ! カッコイイね!』でしたよ。ちなみに夫は土方歳三が使っていた『和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)』が大好きらしく、ふたりで大盛り上がり。お正月には『へし切長谷部』が所蔵されている福岡市の博物館を見に行きたいと思っています」

なんともラブラブな様子のB美さん夫婦の絆はどんな名刀でも切れそうにない…。

元来はブラウザの向こうにいるはずの2次元イケメンたちだが、博物館での展示や模造刀の購入によって、次元を超えて触れ合うことができるのも魅力というワケか…。日本刀ブーム。刀女子たちの熱の入れようを見る限り、まだまだ長引きそうだ。