「ポップスを全然聴いてこなかったので『ヨルタモリ』では苦労している」と、意外な事実を打ち明ける沖仁 「ポップスを全然聴いてこなかったので『ヨルタモリ』では苦労している」と、意外な事実を打ち明ける沖仁

架空のバー「ホワイトレインボー」を舞台に、タモリと宮沢りえが様々なゲストを迎える人気番組『ヨルタモリ』(フジテレビ系)。

このバーの“常連客”で一躍、注目されているのが、沖仁(おき・じん)氏。本場スペインの世界的コンクールの国際部門で日本人として初めて優勝した、世界最高峰のフラメンコギタリストだ。

彼がギターを爪弾けば、タモリやゲストたちの自由なセッションが始まり、視聴者を幸せな気分にさせてくれる。沖仁とは、どんな人物なのか? ロングインタビューを敢行!

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―『ヨルタモリ』で、沖さんは絶妙なタイミングでギターを弾き始め、ゲストを心地よく歌わせています。優しそうなお人柄が伝わってくるのですが、幼少期はどんな子供でした?

 そう思っていただけると嬉しいですが、子供の頃は友達があまりいなくて、家にこもっていましたね。小学校の頃、実家は伊豆でペンションを営んでました。周りは森と別荘しかない辺鄙(へんぴ)なところで、片道40分歩いて学校に通っていた。両親は世間に馴染まないタイプで、学校の先生と対立して子供が親と学校の板ばさみになるというか…。だからストレートに自分を出せない、複雑な子供だったと思います(苦笑)。

―それは意外でした。ちょっと変わったご両親だったんですか。

 TVも「くだらないもの観るな!」とあまり見させてもらえず、「代わりにこれを聴け!」と古い日本のロックを聴かされてました。頭脳警察とか泉谷しげるさんとか、反体制!みたいなメッセージ性の強いフォークロック。

―それじゃあ、同級生たちと話題合わないですよね。

 当時はアイドル全盛ですからね。僕は全然ポップスを聴いてこなかったから、いまだに苦労してます。『ヨルタモリ』でいろんなゲストがいらっしゃいますけど、200万枚売れたヒット曲だと言われても全然知らないから、自分でいろいろ見たり聴いたりしておくようにしてました(笑)。

「ギターがあればどこでも生きていけるんじゃないかって」

 ギターを始めたのは14歳の頃。布袋寅泰に衝撃を受けたのがきっかけだった ギターを始めたのは14歳の頃。布袋寅泰に衝撃を受けたのがきっかけだった

―へ~! フォークロックばかり聴かされることに反発は?

 あったと思いますよ。それで中学生の時、初めて自発的に聴いた音楽がBOOWYでした。布袋(寅泰)さんがカッコよくて。ギタリストってボーカルの後ろで弾いているイメージだったけど、布袋さんは氷室(京介)さんとツートップだったから、ギターでこんなことができるんだ!ってビックリして。それでギターを練習して、その頃からミュージシャンになろうと思っていましたね。

―やっと学校で共通の話題ができましたね。

 でもやっぱり友達いなくてバンド組めなかったんですよ(苦笑)。「一緒にやろうよ」と誘っても誰も相手にしてくれなくて。家でひとり、ギターとベースとドラムをやってました。

―寂しくはなかったんですか?

 あまりそういう感覚がなかったですね。友達と遊ぶより家でギターを弾いてるほうが楽しいし。それと、学校でBOOWYの話をしても噛み合わないというか。ビジュアル面とか、暴走族の延長みたいなノリで捉えられていた面もありましたけど、「そうじゃないんだよな」とか思ったり(笑)。みんなは『ビー・バップ・ハイスクール』に憧れて、2年生3年生になるとどんどんズボンが太くなって鞄も潰れていくけど、僕はひねくれてたので、それに反抗してひとりだけ「標準服」。逆にそれがカッコいいんじゃないかと。

―ひねくれ者が一周回って普通になっていると(笑)。

 そうそう(笑)。だからめっちゃ浮いてました。今でもみんなでワイワイやるのは好きじゃない性分です。ひとりでもあまり退屈しないんですよ、頭の中でいろんなことが起こっているし。ソロ楽器に行く人ってそういうタイプが多いと思いますよ。

フラメンコギターは、ひとりでなんでもできちゃうところに惹かれたんです。ボーカルがいないとできないとか、電気がないと音が出ないのはイヤなんですよ。停電したら終わりとか考えると不安でしょうがないですから。人に頼らず、文明の利器に頼らず、ギターさえあればできるというのが最強。自分ひとりで完結したいというのが強いですね。

―無人島に行っても大丈夫みたいな(笑)。

 無人島はキーワードでした。電気がなくても音楽できるようでありたいし、どこの国に行ってもできるようでありたい。高校を出てカナダに行ったんですけど、ストリートで弾いたり、飲食店に飛び込んで「ギャラはいらないから夕ご飯食べさせてください」とか、これがあればどこでも生きていけるんじゃないかって思った。

「指が自分の想像を超えるのが自分のスタイルの特徴」

 インタビュー後のフォトセッションでは、満ち足りた表情でギターを爪弾いてくれた。優しい音色に取材陣もうっとり インタビュー後のフォトセッションでは、満ち足りた表情でギターを爪弾いてくれた。優しい音色に取材陣もうっとり

―当時はクラシックギターですよね。「ひとりでできる」からクラシックに行ったのは理解できますが、そこからフラメンコギターに変えた理由は?

 「クラシックの心」が僕の中にはなかったと思うんですよ。クラシックはもともと教会だったり神様に捧げる音楽で、そのために作曲家がいて何百年という洗礼を経て残った音が受け継がれているから、一音たりとも変えてはいけない。その制約の中でどれだけ豊かに表現できるかっていう世界だと思うんですけど、僕は昔から「作りたい」っていう気持ちが強くて、好きなように曲をいじっていたんです。クラシックではご法度(はっと)ですよね。そうすると、フラメンコに行くのは自然の流れだったと思う。

―なんでも器用にできちゃうタイプですか?

 全然できないですね。器用なミュージシャンが羨ましいです。譜面渡されてパッと弾けたりとか、一度聴いたメロディは忘れないとか。僕は全然覚えられないし弾けない。自分の曲を弾くのが一番楽ですね。

―でも、よく「超絶テクニック」と称されるじゃないですか。

 それは「指が勝手に動く」という意味だと思います。頭を通過しないで指が出る、指が自分の想像を超えるというところが、自分のスタイルの特徴なのかなと。それが出た時には自分も周囲もビックリしています。

―指が、頭で考えていたことと違う動きをしてビックリみたいな?

 こっち(頭)で考えすぎるとその通りに動いてくれちゃうから面白くないんです。考える前に「手がでちゃう」みたいなところがありますね。この感覚は最近意識してきましたが、振り返ればいつもこうやってきたという気もする。

よく、フラメンコは「パッション」という言葉で表現されるけど、まさにその通りだと思います。要するに、理性でコントロールする前に衝動がある。それが出た時にお客さんも反応してくれると思いますし。

「フラメンコギターには謎が多かった」

―20代の頃は、本場スペインと日本を往復する生活を続けていたんですよね。

 行かなきゃ話にならないくらい、フラメンコギターには謎が多かったんです。当時はYouTubeもないし、CD聴いてコンサートに行っても、どうやって弾いてるのか全然わからなかった。手がいっぱい見えて音がたくさん聞こえる、これホントにこの人が弾いてるの?みたいな。日本でフラメンコギターの教室にも行きましたけど、謎は解決しなかった。やっぱりこれはスペインに行かなきゃダメだなと。

そして実際、向こうに行って実感したのは、フラメンコ=生活なんだということ。最初はマドリードにいたんですけど、もっと地方のおじちゃんおばちゃんがやってるような土着のフラメンコに触れたいと思って、どんどん田舎に移っていきました。

―広場でギター弾いて踊って手を叩いてという光景が日常的にあるわけですね。

 「あの街ではもっと濃いフラメンコがある」と聞けば、そっちに行って。まずはその街の住人になって彼らの仲間に入れてもらおう、彼らはフラメンコでどういうコミュニケーションをして、歌があって踊りがあるのか、全部吸収しようと。

―フラメンコにどっぷり浸かっていくうちに、もう日本でわかってもらえなくてもいい、本場で極めていこうとは思わなかった?

 そういう人も結構いるんですが、僕はそういう人生は考えなかったですね。日本でやることを意識していたかもしれない。向こうでは巧いやつはごろごろいますが仕事はない。そこに割り込んでいって仕事の取り合いをする気にはなれなかったです。

●この続きは明日配信予定。『ヨルタモリ』の舞台裏が明かされる!?

●沖仁(おき・じん) 1974年生まれ。14歳より独学でエレキギターを始める。高校卒業後、カナダで一年間クラシックギターを学ぶ。その後、スペインと日本を往復し20代を過ごす。2006年にメジャーデビュー。2010年、スペイン三大フラメンコギターコンクールのひとつ『第5回ムルシア“ニーニョ・リカルド”フラメンコギター国際コンクール』国際部門で日本人として初めて優勝。その模様がTBS系『情熱大陸』で紹介され、大きな反響を呼ぶ。2013年には、さまざまなジャンルのトップミュージシャンを迎えたコラボ・アルバム『Dialogo[ディアロゴ]~音の対話~』をリリース。ソロ活動を中心に、国内外のミュージシャンとの共演、プロデュース、楽曲提供等を精力的に行なっている

●『エン・ビーボ!~狂熱のライブ~』 沖仁とジャズギタリスト渡辺香津美が熱き共演。全国4ヵ所7公演からのベストテイクを収録した2枚組ライ ブアルバム。ふたりのオリジナル曲のほか、スーパー・ギタートリオの演奏で有名な「地中海の舞踏~広い河」やチック・コリアの「スペイン」、ピアソラの 「リベルタンゴ」、日本古謡「さくら」をアレンジした「サクラ・ポル・ブレリア」、イギリス民謡「スカボロー・フェア」など全13曲収録

『沖仁 CONCERT TOUR 2015』 11月20日(金)/大阪・サンケイホールブリーゼ/18:00開場、18:30開演 11月25日(水)/東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール/18:00開場、18:30開演 『沖仁 con 渡辺香津美』 2016年1月23日(土)/神奈川県立音楽堂/16:30開場、17:00開演 詳しくは沖仁HPまで

(取材・文/中込勇気 撮影/ヤナガワゴーッ!)