(左)かつみ。63年生まれ、52歳。(右)さゆり。69年生まれ、46歳。95年に結婚し00年より 「太平かつみ・尾崎小百合」の名前で夫婦漫才を始める。02年より「かつみ・さゆり」に

「22年前に1億7千万円の借金をして、毎年返しているんですが、今も1億7千万円のまま。途中、どんだけ膨らんだんだと(苦笑)」

今年7月、都内のイベントでそう告白したのは「ボヨヨーン」でおなじみの夫婦漫才師、かつみ・(実際の表記はハート)さゆりのさゆり(46歳)。

順調にいけば70歳で完済予定だといい、「うちの人生はそこから。長生きしないと(笑)」と、深刻な懐事情を漫才のネタのように明るく笑い飛ばし、会場をドヨめかせた。

そこで事の真相を本人たちに直撃! 前回記事(「1億7千万の借金を背負った芸人夫婦はなぜ明るく暮らせるのか?」)では、厳しくもツライはずの借金生活を“とにかく明るく”語ってくれたが、後編ではおふたりの「底抜けの明るさ」と巨額の借金を抱えているとは思えない「幸せオーラ」の核心に迫る。

本誌記者もすっかり魅了された夫婦漫才師ならではの絶妙な借金漫談(!?)

●「金が増えると、夢や希望はしぼんでいく」

―ここまでお話を伺って思うんですが、どうしておふたりはそんなに明るくしていられるんでしょう?

かつみ(以下、) 100万円単位で借金してる人は大体、悩んで暗くなるんです。でも億単位になってくるともう、みんなハイテンションで元気ですね

さゆり(以下、) 借金も億を超すと金利だけで年収を超えてくるんで、ウカウカしてる余裕はないんです(笑)。

―おふたりは仲もよく、とても幸せそうに見えます。ヘタしたら借金のない人よりも幸せそうで、なんかちょっと悔しいんですが(笑)。

 あー、そりゃ幸せですよ。僕らロケでいろんな国に行かせてもらいましたけど、今の日本みたいに裕福でキレイで治安のいい国はないでしょ。戦争で殺されることもない。こんな日本に生まれただけでめちゃラッキー。超幸せじゃないですか。

 借金があっても飢え死にすることはないし、命さえあればなんとかなるという覚悟があれば何も怖くない。すべてなくしたとしても、すべてなくなるだけですやん(笑)。

 それにお金があれば幸せかというと、必ずしもそうでもないんですよ。僕ね、3億円儲けた時、もう女のコがどんどん寄ってきて、世界中に彼女がいたんです(笑)。でも借金を抱えた途端、クモの子を散らしたように誰もいなくなった。みんなお金が目当てだったんです。

―よく聞く話ですが、本当にあるんですね…。

 で、その時にポッと現れたのが、さゆりちゃんだった。僕は借金があったから真実の愛と巡り合えたんです。そう思うと借金で悩んだり、暗くなったりするのは違うかなと思いますね。

―なるほど。

「借金の額はアナタの信用、能力です!」

 もうひとつ僕の経験からいえば、金が増えると夢や希望がしぼんでいきますが、金がなくなると夢や希望がどんどん膨らんでいくんです。

―逆じゃないんですか!?

 いやいや。僕ね、3億円持つ前は「3億円ってスゴイ金額やなー」って思ってたんです。ところが実際に持ってみたら、えっ、この家とこの車買うたら終わりなの!? えー、こんなもんやったんって感じで。当時は1万円のステーキを見ても全然うまそうに見えない。ポケットに100万円あったら「こんなステーキ、いつでも食えるわ」となるんです

―羨ましい話ですが。

 そうなると、みんな思うことはひとつです。「この3億円を今度は10億円にしたろ」と。夢とか希望じゃなしに、ただ金を増やすことを考えるんです。なぜかわかります? 周りがそういう人間ばかりになってくるからです。何をしたら楽しいかとか、何を食べたらおいしいかなんてまったく浮かばない。頭にあるのは、お金の「0」を増やすことばかりです。

―金はあるけど、夢や希望はしぼんでいく、と。

 ええ。不思議なもんで金がなくなって初めて「狭くてもいいから自動でお風呂が沸く家に住みたい」とか「あのステーキ、今は金がないから食べられへんけど、いつか食べたいなー」と思うようになる。あれもやりたい、これもやりたいと、夢がどんどん膨らんでいくんですよ、金はないのに(笑)

―確かに、どっちが人間らしい生き方かわかりませんね。

 私はかつみさんと一緒におって、職業だけでも、漫才師はもちろん、ラーメン店、100円ショップの女将(おかみ)に猫のブリーダーと、もうありとあらゆる職業で、つらいことも楽しいこともたくさん経験してきました。おかげでネタには尽きない人生です(笑)。

人生、いいことも悪いこともありますけど、その両方をどれだけ経験できるかが大事。考え方ひとつですけど、私は借金がある今の人生のほうがよかったじゃないかなって思ったりもするんです

友達や知り合いからは一切借りなかった

―借金やお金のトラブルに悩む読者も少なくないかと思います。おふたりからアドバイスをください。

 私たちがよかったのは、借りた先がみんな銀行などの金融機関で、友達や知り合いからは一切借りなかったこと。もし知人に迷惑をかけることになってたら大変だったろうと思います。

 そうそう。金融機関なら万が一、返済が遅れたとしても延滞金を払えば許していただけますからね。ただ、月々の返済は5回までのパスなら延滞金でOKですけど、6回目のパス、つまり半年間、返済が滞るとアウト(差し押さえ)なんで要注意ですね。

 うちらもできるなら皆さんにお返ししたいんですよ。でも、そうもいかない時は「ここはパスが3回やから、あと2回はOK」とか「ここはもう5回やから先延ばしできない」とか、細心の注意を払ってますんで(笑)。

―なんだかゲームみたいですね(苦笑)。

 心構えとしては、「借金の額は自分の信用、能力だ」と思うことです。今の日本は、その人が返せる額しか貸しません。だから借りている金額は必ず返せるんです、僕みたいにホームランを狙って大振りしすぎなければ(笑)。多額の借金をしてクヨクヨ悩むくらいなら、「オレはこんなにも借金ができるくらい信用があるんや」と自信を持ったほうがいい(笑)。

 よく借金をして「人生崖っぷち」なんていう人がいますけど、崖っぷちって、行ったこともない所をチラッと見に行くから怖いんです。崖っぷちに家建てて住んでみてください。もう日常の景色になりますから(笑)。

―順調なら、かつみさんが76歳、さゆりさんが70歳で借金返済だとか。無事完済したら何をしたいですか?

 その後よりも、返し終わった途端、嬉しすぎて死んでしまわないか心配です(笑)。

 いや、返し終わるか終わらないかぐらいで、また何か新しい商売する言うて借金してそう。銀行に「僕、これだけの借金返してん。そやから今度こんな事業やるから金貸してー」って(笑)。

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※借金はあなたとその周りの人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。なるべく金融機関から借りて、うまくやりくりしましょう。また、借金によるストレスは体に害を及ぼすことがあるので「借金の額は自分の信用」と胸を張りましょう

(取材/ボールルーム 撮影/塩川真悟)