11月20日(金)放送の第5話のワンシーン。何やらいつもとは雰囲気の違うスーさんだが…? 11月20日(金)放送の第5話のワンシーン。何やらいつもとは雰囲気の違うスーさんだが…?

テレビ東京で毎週金曜夜8時から放送中の「釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助」(以下、「釣りバカ」)が大好評だ。

ハマちゃんこと浜崎伝助役に濱田岳(がく)、スーさんこと鈴木一之助役に西田敏行という驚きのキャスティングも話題となった本作のプロデューサー・浅野太さんに制作の背景や撮影現場の舞台裏を聞いた!

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―まず、ドラマ化することになった背景を教えてください。

浅野 うちのドラマ部はいろんな制作会社さんと仕事をしていて、自分たちから企画を立ち上げることもあれば、制作会社さんから提案してもらうこともあります。今回は松竹さんから「金曜8時のドラマで『釣りバカ』を復活させてみたい」という提案がありました。松竹さんにとっては20年以上にわたり制作してきた代表作のひとつで、宝物のような映画ですよね。シニア層には知名度抜群だし、子供も楽しめる作品なので是非ご一緒しましょうと。

そして、原作の漫画はオリジナルの「釣りバカ日誌」に加えて、「釣りバカ日誌番外編 新入社員 浜崎伝助」があり、この番外編はハマちゃんの新入社員時代を描いています。こちらをベースにしてやってみたいという提案だったんです。

―ハマちゃん役に濱田岳さんを選んだ理由は?

浅野 濱田君以外には考えられなかった。モデルのように背の高いイケメン俳優がやるなんてあり得ないわけで。愛嬌があって、幅広い世代に支持される若手俳優で芝居がうまくなきゃいけない。濱田君以外にはいないんですよ。実は、濱田君の配役は1年以上前に決まっていましたが、その後、ますます注目される存在になって、auのCM(金太郎の役)などで人気に火が点いたのも追い風になっていますね。

―そして、スーさん役に西田敏行さんがキャスティングされた経緯は?

浅野 ハマちゃん役が濱田君に決まった時点では、スーさんの配役はまったく未定でした。仁義を切るわけではないですが、まずドラマ化することを西田さんの事務所の社長さんにご報告にいこうとアポを取りました。

事務所に伺う前にプロデューサーチームで話をしたんです。スーさんは三國連太郎さんのものというイメージが強い、誰がやっても必ず比較されるし、演じるほうにも高いハードルだぞ…だったら、「まさかの西田さんはどうだろう」ということに。三國さんのスーさんを超えていけるのは西田さんしかいない…という話になり、断られるだろうけどダメ元でオファーしました。それから1ヵ月間、西田さんはさんざん悩まれた上で受けてくれました。

西田さんのアドリブがスゴいんです

 西田さんがプレゼントしたという、キャスト3人お揃いの現場椅子。かわいい!! 西田さんがプレゼントしたという、キャスト3人お揃いの現場椅子。かわいい!!

―最初は「ありえないと思った」らしいですね。

浅野 でも、2009年に映画が終わった後、西田さんはいろんな人に「もう釣りバカやらないの?」って言われ続けていたんですって。「みんな待っていてくれてるんだ」という思いもあったらしくて。で、濱田君にだったらハマちゃんは託せるから、自分はスーさんをやってみようと決意していただいたわけです。

―そして撮影が始まってみて、現場はどんな感じですか?

浅野 監督は大変でしょうけど、アドリブがスゴいんですよ、特に西田さんの。ご本人いわく、脚本は演奏する時の楽譜であり、あくまでガイドライン。それをいかにアレンジしていくか、そういう気持ちでやっていると。

―ジャズですね!

浅野 ジャズなんですよ。西田さんの他にも吹越満さん(佐々木課長)、伊武雅刀(いぶ・まさとう)さん(秋山営業部長)、きたろうさん(定食屋店主)ら熟練の役者さんがたくさんいて、みんな好き放題にお芝居をしている。濱田君は達者なのでしっかり食らいついて返していくし、広瀬アリスさん(みち子さん)もすごく間(ま)や感覚がいい。現場はすごく面白いですよ!

―とはいえ、若い役者さんにとっては内心恐いのでは?

浅野 それはそうでしょう、あの西田さんと絡(から)むわけですから。特に濱田君は最初は緊張していましたね。でも西田さんは暖かい人柄で若い役者さんが大好きなんです。自らどんどん話しかけていき、現場の雰囲気を作っています。みんながやりやすいように気を遣われているんでしょうね。

西田さんは濱田君のことを普段から「ハマちゃん」と呼ぶなどプライベートでも仲がいいし、現場には西田さん、濱田君、広瀬さんの3人お揃いの椅子があるんです。西田さんがプレゼントしたもので、背もたれにはスーさん、ハマちゃん、みち子さんと書いてあります。

ハマちゃんとみち子さんの「合体」はどう描く!?

 プロデューサーの浅野太さん。「原作や映画のファンが見たいものに応えていきたい」と語る プロデューサーの浅野太さん。「原作や映画のファンが見たいものに応えていきたい」と語る

―いい話ですね! ドラマを見ていると、ところどころ西田さんがハマちゃんっぽく見えるシーンもありますが(笑)。

浅野 確かに、釣竿を持っているとハマちゃんに見えるかもしれないですよね(笑)。見ている人が最初は多少混乱するだろうなということは僕たちも予想していましたが、西田さんのスーさんを見れば必ず惹きこまれますよ。

三國さんのように演じてほしいなんてまったく思っていないし、西田さんなりのスーさんを僕たちもすごく楽しんでいます。ご本人も言っていますが、三國さんのスーさんは上品な紳士だったけれども、自分は土建屋の叩き上げという雰囲気を出していきたいんだと。

―第1話のゲストは武田鉄矢さんでしたが、これは「金曜8時」にかけて?

浅野 それは後から気づきました、そういえば金八先生だって(笑)。僕は西田さんと武田さんのケンカが見たかったんです。最初に脚本を読んだ時、こませ(魚のエサ)を投げ合ったり、幽体離脱してケンカしたりするシーンがあり、これをおふたりにやってもらったら最高だなと思って。で、よく考えたら、武田さんと濱田君は金八では先生と生徒の関係でもあったと。

―ハマちゃんは濱田さんだし、金八先生は出てくるし、キャスティングからシャレが効いてるな~と思ってたんですけど、狙ってやったわけじゃなかったんですね…。こんな国民的映画をドラマ化するにあたり、心がけていることはありますか?

浅野 原作のファン、映画のファンを裏切るものにしてはいけないというのが大前提です。「ハマザキじゃない、ハマサキです」っていう台詞も、佐々木課長がいつも太田胃酸を飲んでいるのも、みんなが見たいものにいかに応えていくかというところです。今、頭を悩ませているのは、ハマちゃんとみち子さんの「合体」をどう描くか。みんな待ってますよね(笑)。

―映画では最初から夫婦だったから日常の営みとして描けたけど、ドラマはふたりの出会いから始まっているので、そのままやったら生々しくなっちゃいますね(笑)。

浅野 そう(笑)。映画のハマちゃんは、釣りのこととみち子さんとの「合体」しか頭にない人ですが、さすがにそれをそのまま金曜8時には持ってこれないっていうのもあって(苦笑)。ただ、ふたりの恋愛線を描けるので映画とは違う盛り上がり方を見せていきたいですね。

あと、悩ましいのは、現場ではアドリブなどいろんなことが起こっているので、撮り終わったら20分くらいオーバーしたりするんですよ。この台本でこんなにオーバーするはずがない、何か計算が間違っているんじゃないか!?というほど(笑)。最近は編集する際に多少、話の辻褄(つじつま)が合わなくても、説明的な部分よりも面白いところを残そうというノリになってます。

お茶の間にドラマを復活させたい!

 本日11月20日(金)放送の第5話では、吹越満さん(左)演じる佐々木課長が「余命半年」を告げられて…!? 本日11月20日(金)放送の第5話では、吹越満さん(左)演じる佐々木課長が「余命半年」を告げられて…!?

―ところで、浅野さんはずっとドラマひと筋ですか?

浅野 元々、ドラマがやりたかったんですが、最初は人事部です。社員の給与や交通費の計算とか採用試験とか。その後、制作局に異動してバラエティ番組のADから始まり、音楽番組などのディレクターを経て、10年前にドラマ部にきました。ちょうど深夜の「ドラマ24」が始まったあたりで、2作目の助監督をやらせてもらったのが最初のドラマの仕事です。

―テレビ東京は、ドラマが看板番組になるっていう印象が薄いんですが…。

浅野 だからこそ、ゴールデン帯での連ドラは目標であり、悲願だったんです。まずは深夜の「ドラマ24」でちょっとずつ地盤を作っていった。だから、金曜8時の「三匹のおっさん」(2014年、2015年)が視聴率10%を超えた時はみんな喜びました。この枠はずっと続けていくぞ!って。

―そして、「釣りバカ」も初回から10%を超えて、大成功ですね。

浅野 激戦区なので、まだまだわからないですけどね。昔だったら、「太陽にほえろ!」とか「金八先生」とかありましたけど、今のご時世、金曜8時に家族みんなでドラマを見るという時代ではなくなりつつあるような気がします。視聴率はいいに越したことはないけれど、「お茶の間にドラマを復活させたい」という思いがあります。

実際、この「釣りバカ日誌」は子供や若い女性も見てくれているし、幅広い世代に受け入れてもらえていたら嬉しいですね!

●金曜8時のドラマ「釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助」 テレビ東京系にて、毎週金曜夜8時から放送中! 最新情報は番組ホームページまで

(取材・文/中込勇気)