ダッフィー人形がまとっているのはM子さんお手製という手下衣装 ダッフィー人形がまとっているのはM子さんお手製という手下衣装

自分が愛着を持っていた人やモノがいなくなってしまった時に起こる「○○ロス症候群」――。

2年ほど前にはNHK朝ドラの『あまちゃん』が最終回を迎えた後、俗に言う「あまロス」に陥ってしまった視聴者が続出。また今年9月には最後の大物独身タレントとして“日本女性の共有物”だった福山雅治の結婚発表で「福山ロス(別名、ましゃロス)」が列島を覆い尽くした。

そして今年11月1日、千葉県浦安市の舞浜にて大量の新たな「ロス症候群患者」が生まれてしまったという。

東京ディズニーリゾートくらいしかない舞浜で、一体誰が、何を“ロス”したというのか――? その答えは、まさしくその“ディズニー”の中にあった。

■今年のハロウィーンに突如として舞浜に現れた「手下沼」

ここ数年の間で異様な盛り上がりを見せる日本のハロウィーン文化。夢の国・ディズニーランド、そしてディズニーシーでも9月上旬から毎年恒例のハロウィーンイベントを実施した。

中でも今年のディズニーシーは、ディズニー作品に登場する悪役キャラ「ヴィランズ」が主役。園内には至るところにヴィランズのモチーフが飾られたり、ヴィランズキャラがパレードに参列したりと、各所にディズニーらしい徹底した世界観づくりが施(ほどこ)されていた。

そんな恒例の楽しい催しに、今年はトンデモない“ダークホース”がいたのである――それが、ヴィランズの「手下」たちだ。

本来なら悪役キャラの手下など一種の雑魚キャラであって、彼らが表舞台に立つことはない。だが、さすがは細部にまで一切手を抜かないディズニー。期間中はこの手下を演じるショーキャストにも超がつく美男美女を揃えてきたのだ。

イベントがスタートした当初はそこまで話題になっていなかった手下たちだが、シルバーウィークで現地を訪れた来場客が「えらくカッコイイ手下がいる」とネット上で騒ぎ始め、気がつけばファンはトンデモない数に爆増…手下見たさに全国から舞浜詣(もう)でに繰り出す人々(主に女性)が続出してしまったという。

とはいえ、手下たちはハロウィーンの期間限定キャラ。そのため、イベントが終了した11月1日と同時に大量の“手下ロス”患者が生まれてしまったというわけだ。

小悪魔イケメンの笑顔にノックダウン

 愛する手下の手作り衣装をダッフィー人形に着せ、“出勤”するM子さん 愛する手下の手作り衣装をダッフィー人形に着せ、“出勤”するM子さん

■小悪魔イケメンの笑顔にノックダウン

はたして、その期間中、ディズニーシーに突如として現れた“手下沼”の深さはいかほどだったのか――実際にずっぽりと浸かってしまった手下ロス患者に話を聞くことができた。

都内で看護師をしているM子さんは、なんと期間限定の手下に会うためだけに5万9千円の年間パスポートを購入したという正真正銘の手下フリークだ。期間中、週5~6回の来園は当たり前。夜勤の日は始発から舞浜に向かい、手下に会ったら都内にとんぼ返り。ナースのお仕事をした後に家で仮眠をとり、再び始発で舞浜に行く日々を送ったというから驚嘆せざるを得ない。

「初めはツイッターで回ってきた写真を見て『まぁ、カッコいいね』くらいにしか思っていなかったんです。けれど、実際にシーに行って本物に会ったら『どうしよう…好き?』ってひと目惚れしちゃいました」

M子さんを一瞬にして落とした手下たち。中でも彼女の心を奪ってしまったのは『不思議の国のアリス』に登場するハートの女王の手下「ジャックハート」とか。アイドル系の愛くるしい笑顔にどこか小悪魔的なズルさも感じるイケメンだが(写真をお見せできないのが残念)、カッコいいのは外見だけではない。その対応までもが “神”であったという。

手下たちには園内にある「セイリングデイ・ブッフェ」というレストランで会うことができ、店内では手下が客席の近くまで来て接客をしてくれたのだとか。人気アイドルならば“推し”が目の前数十センチに来てくれることなど、サイン会等を除いてなかなかないが、この手下たちは話しかけるとキャラになり切って受け答え。それどころか、お願いすればサインはくれるわ、肩を抱いて写真は撮ってくれるわ、トンデモない大サービスっぷりだったのである。

「私はAKBも大好きなんですが、結構なお金を払って一瞬しか手を握れない握手会に比べると、あまりにもぜいたく。おまけにジャックハートはちょっとチャラい性格をしてるんで、私が他の手下と喋っているとカワイい笑顔で『俺に鞍替えしちゃえよ!』と、女心を弄(もてあそ)んでくるんです…そんな、私はジャックひと筋だよ!って」(前出・M子さん)

また、このレストランの他に1日1回行なわれる園内のショーでも会うことが。そこで1対1で話すチャンスはほとんどないが、その代わり複数の手下同士の“絡み”を見ることができたのだ。手下沼に落ちてしまった、うら若き乙女たちには、この手下同士を勝手にBL(ボーイズラブ)的な意味で組み合わせ、妄想しハマってしまった人も結構いたという。

「会うまでの苦しみすらも幸せ」

そんな“会えるアイドル”ならぬ“会える手下”として大人気となった彼らだが、必ずしもいつもいるわけではなかったらしい。彼らにも休みは必要なため、“出勤日”をなんとなく予想して来園しなければ無駄足になってしまうのである。

また、手下に謁見(えっけん)すべく舞浜に足しげく通う手下ラバーが増えれば増えるほどレストランの待ち時間は長くなり、ショーの良い席が埋まってしまうのもあっという間だったとか。いくら待ち時間がディズニーの醍醐味(だいごみ)とはいえ、10月後半にはなんと前出のレストランが驚きの待ち時間600分(10時間)越えを記録。

最終日には開園1時間もしないうちにその日の案内分がすべて終了してしまうという事態。人気アトラクションも真っ青である。

もっとも、彼女らにとってはそんな待ち時間さえもドキドキが止まらない幸せな時間? 恋する乙女だけに許された魔法のひと時だったというワケ。

こうしておよそ1ヵ月の間、心を掴んで離さなかったディズニー「ヴィランズ」の手下たちだが、ハロウィーンが終わってしまった今、彼女らの心にはぽっかりと穴が開き、完全に手下ロス状態に。M子さんもジャックハートに会える最後の日には彼の目の前で大号泣したという。

すると、彼はM子さんの肩を抱きながら「俺はトランプに戻る定めなんだ…出会いもあれば、別れもあるよな?」と慰め、去っていったという。

子供や家族連れ、カップルだけでなく腐女子にも“新しい夢”を与えてくれた今年のハロウィンイベント。1年後、またあのイケメンたちは舞浜に帰ってきてくれるのだろうか…手下ロスに苦しむ乙女たちは今、本気で再会できることを願っている。