嶋田先生の事務所を訪れたMHXのプロデューサー・小嶋慎太郎氏との対談が実現

今年で連載開始から36周年の『キン肉マン』。そして今年11周年となる人気ゲーム『モンスターハンター』(以下、MH)シリーズ。

その新作となり、11月28日に発売された『モンスターハンタークロス』(以下、MHX)では、なんと両作品のコラボが実現したとか! ゆでたまご・嶋田隆司先生、そしてMHXのプロデューサー・小嶋慎太郎さん。これは一体?

嶋田 今回はMHXに登場するモンスターと、キン肉マンの超人たちとがコラボしたTシャツを作ってもらったんですよ。

小嶋 モンハンシリーズを象徴するアイテムとして『こんがり肉』というスタミナが回復する食べ物があるんです。そこで“肉”といえば、キン肉マンだろ!となって、お声がけさせていただいたのがコラボのきっかけになります。

嶋田 キン肉マンは主役だからわかるけど、グレートをセレクトしたのはどうして?

小嶋 モンハンシリーズは“○○グレート”という名前の回復アイテムが多いので、グレートさんに是非、出てほしかったんです。あと、どっちの中身のグレートも大好きなので、お願いしました。

嶋田 僕も一番好きなタッグですよ。こっちの超人とモンスターが対峙しているイラストは、僕が言うのもアレですけど、違和感ないですね。キン肉マンも昔は怪獣退治をやってましたから(笑)。

(左)キン肉マンとキン肉マングレートが「こんがり肉」を掲げる。(右)バッファローマンとディノバルトがぶつかりあう! 他に2種類あり、12月29日から「イーカプコン」などで予約開始。各4000円(税別)

―こういうイラストを見ると必殺技を考えたくなったりは?

嶋田 もちろんです。超人たちがモンハンのモンスターに無茶苦茶弾かれるけど、それを覆(くつがえ)す必殺技ですよ。やっぱり4人の超人が同時に繰り出す合体技でしょうね。この一枚からスピンオフを作りたいぐらいの迫力がありますよ。

キン肉マン、モンハンーー日本を代表するキャラ同士のバトルだから、「アベンジャーズ」にだって勝てますよ。小嶋さんがこのイラストを初めて見た時はどう思いました?

小嶋 めっちゃテンション上がりました。ラフが上がってすぐ、同期のスタッフに「これ、スゴない?」と見せたら、「なんやこれー!!」って(笑)。もうラフ上がってるのに「やっぱテリーもやりたいな!」とか、さらに妄想を膨らませてましたね。

それが、ゆでたまごですから!

―では、嶋田先生がMHXを見た時の感想とは?

嶋田 まず思ったのは、ゲーム映像の進化です。映画を観てるような感覚ですよね。そして、大きな武器で巨大なモンスターを倒す、狩る。これは爽快感ありますよ。アクションはどのように考えているんですか?

小嶋 制作スタッフにキン肉マン世代が多かったんです。なので「このモンスターはバッファローマンの突進!」ってイメージを伝えることもありましたね。あと、プロレスです。「猪木じゃない。馬場の動き」という感じでした(笑)。

嶋田 それ、わかる!! 僕も原作を書いて、相棒(ゆでたまご・中井義則先生)に動作を伝える時はプロレスに変換しますよ。「ハンセンじゃなくって、長州のラリアット!」って。

小嶋 やっぱり、すぐ伝わりますか?

嶋田 お互いの共通言語がプロレスですからね。微妙な動きを表現したい時は、細かくあれこれ言うより、これが一番なんですよ。ちなみにキン肉マンで好きな試合はありますか?

小嶋 うーん。なかなか選べないけど、7人の悪魔超人編の【ウォーズマン対バッファローマン】戦ですね。大好きです。でも、大人になって【アメリカ遠征編】が好きになりましたね。

小嶋さんの『キン肉マン』愛に喜ぶ嶋田先生

嶋田 あれ、人気なかったんですよ(笑)。

小嶋 それぞれキャラが特徴的だから、「この超人と、この超人が戦ったらどうなる?」と大人がわいわい楽しめる。それもキン肉マンの魅力だなって思います。そんな特徴的なキャラクターたちはどのように生み出しているんですか?

嶋田 初めから自分たちで考えるのもありますし、読者の投稿がきっかけになるキャラもあります。そしてストーリー上、どう絡めていくか? その辺りを考慮しつつ、新キャラを作ってます。

小嶋 必殺技も初めから考えているのですか?

嶋田 それは、“カーンッ!”ってゴング鳴ってからです。もう、技のストックないですよ(笑)。即興ですね。それが、ゆでたまごですから。

ユーザーさんとも対決です!

―小嶋さんのキャラクターの生み出し方とは?

小嶋 当時、僕がモンスターを作っていた時は、キャラクターの尖(とが)った個性をまず決めていましたね。こいつはライオンだとか、Tレックス系だとか。MHは今年で11年目なのですが、毎回モンスターを作るのは大変です。それを考えると、36年は恐れいります!

嶋田 ツイッターやフェイスブックで読者やユーザーからの展開予想があるじゃないですか。僕は、ある程度は期待通りに進めますけど…。まぁ、その期待は裏切りますね(笑)。小学校の時にキン肉マンを読んでいたファンが大人になっても“ゲェーッ!”って感覚で楽しめる作品。毎週びっくりするポイントを入れる。矛盾があっても勢いで乗り切る。そこは36年間、ブレてませんよ。

小嶋 モンハンも新要素を入れて進化しています。進化しつつ、例えば“巨大なモンスターを狩猟する“達成感”などはブレることはありません。そこを変えたら“モンスターハンターじゃなくていいじゃん”となってしまいますから。

嶋田 何年もやってて、ファンの数が多くなると“それぞれの作品像”が生まれてくる。正直、みんなが納得できる作品を作るのは難しいですよ。ファンの意見はもちろん大事にするけど、“ゆでたまごが作ったものだけがキン肉マンなんだ”という部分は常に意識してますね。

小嶋 ゲームもプレイヤーごとにそれぞれのMH像がありますので、それをどう満足してもらえるかを考えていますね。ある意味、ユーザーさんとも対決です。

嶋田 ほんと、そうですよ。キン肉マンだと、新話をアップしてツイッターを見るとファンのみんなが“ウワーッ! こう来たか!”ってなるじゃないですか。この“してやったり!”の瞬間は最高ですよ。

小嶋 確かに“ウソ~!”という展開ありますもん。でも、それが面白い。

嶋田 7人の悪魔超人なのに8人いたり、死んだはずのジェロニモがいても()、“ゆでだから”や“ゆで理論”で通りますからね(笑)。細かいこと気にしてたら、勢いがなくなっちゃいますから。

※「7人の悪魔超人編」では、登場の1コマ目にプリプリマンを含めた7人の悪魔超人が出てくるが、次コマではプリプリマンが消えて8人になっていた。また「黄金のマスク編」では、悪魔将軍にぶん回されている状態のジェロニモを見ているジェロニモが登場という漫画史に残るチョンボが! しかしそれも“ゆで先生だから”アリなのだ。

小嶋 そういう部分をキン肉マン好き同士でお酒を飲みながら語るのも楽しみです。

嶋田 小学生だった読者が大人になって、お酒を飲みながらキン肉マンを語る。これはジャンプで連載していた当時から意識してました。“ここおかしいな?”って部分があっても、それが話題になってファンが楽しめる。

―コミックスだといくらでも修正する機会があると思いますが?

嶋田 確かに。修正できる機会はあるけど、それはしません。ファンががっかりするでしょ。

小嶋 そういうのは本当に嬉しいですね。

コラボを決意するポイントは?

嶋田 最近は結構マジな試合が多くて、ギャグ要素をなかなか挟めないけど、たまにスピンオフでベンキマンを描いて(※2013年の超人総選挙でベンキマンが29位になり実現)ギャグ重視の作品もやる。で、うんこが飛び交い、ファンから“ゆで狂ってる”って言われるんです(笑)。

小嶋 それ、最高の褒(ほ)め言葉ですよ。

嶋田 ベンキマンは相棒と“まだまだギャグも現役やぞ!”って意気込みで描きましたからね。連載を長くやってると、こういう展開もできるから楽しいですよ。MHも10年やっていろいろできるんじゃないですか?

小嶋 それこそMHXがそうですね。MHも10年続いたからこそ、あえて一歩踏み込んでみました。土台は一緒だけど、“こんなモンハンもどうですか?”というアプローチです。今までMHをやったことのない方も楽しめ、既存のファンも“このモンハンもいいな”と思ってもらえると嬉しいですね。

―おふたりに質問です。趣味や私生活などから仕事の発想にフィードバックしている部分などはありますか?

嶋田 “作品に活かそう!”と意識して映画を観たり、プロレスを観戦することは全くないです。でも、あの時見た試合と、なぜかシルクドソレイユ(※サーカス団)がミックスして新技のコンセプトが生まれてくる。そんな感じですね。

小嶋 僕も同じです。プロレスでも映画でも意識して見ることはないです。純粋に楽しんでるけど、終わったあとに“あれイケるな!”となりますよ。遊んだ体験や学術的な本を読んだことも、ふと思い出して仕事のアイデアになる。そんなことが多いです。

『MHX』プロデューサーの小嶋さん。帽子には悪魔将軍が!

―今回のコラボもそんな感じの発想だったんですか?

小嶋 アイテムの『こんがり肉』もありつつ、MHXの発売日が11月28日で、翌日の11月29日は【イイニク】じゃないですか。“やっぱ、キン肉マンやー!”って(笑)。

―キン肉マンは他業種とのコラボが多いですが、それを決めるポイントはありますか?

嶋田 まず、キン肉マンをおもろくイジってくれること。これは、コラボ先の担当者の熱量しかないですよ。一回、打合せをすると、その熱量は僕にも伝わりますからね。それが足りない場合はお断りしています。

小嶋 今回のコラボ、受けていただいてありがとうございます。キン肉マン、MHどちらのファンも楽しめるグッズが完成したと思います。僕も全種類Tシャツを揃えて毎日着ます!

嶋田 コラボはどちらのファンも“おお、スゴい!”って楽しめるのはもちろんだけど、なにより自分自身が一番楽しんでいるんです。キン肉マン好きの若い世代のクリエーターと一緒に仕事をする。これホントに刺激になるし、幸せなことなんですよ。

そしてね、このコラボを見て“面白い!”と思った人たちが新しいファンになるじゃないですか。彼らがキン肉マンやモンハンの制作スタッフになることだってあるかもしれない。そうしたら、また面白いことが生まれるんですよ!

―おふたりとも、ありがとうございました!

(取材・文/直井裕太 撮影/関純一 商品クレジット/(c)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.)