伝説の格闘マンガ『TOUGH』の新作をスタートした猿渡哲也氏(左)と12月29日にリング復帰する高阪剛氏 伝説の格闘マンガ『TOUGH』の新作をスタートした猿渡哲也氏(左)と12月29日にリング復帰する高阪剛氏

発売中の『週刊プレイボーイ』1・2号から漫画家・猿渡哲也の新連載『TOUGH外伝 龍を継ぐ男』がスタートした。累計1千万部超の『高校鉄拳伝タフ』、『TOUGH』の“外伝”となる本作は、猿渡にとって3年ぶりの本格・格闘マンガである。

一方、9年ぶりの復活を遂げる男がいる。“世界のTK”こと格闘家・高阪剛(こうさか・つよし)が12月29日の「RIZIN」で現役復帰戦に挑むのだ。

16年間にわたり交流を深めてきた両者の対談。その前編では、スポットコーチとしてラグビー日本代表を支えた高阪がW杯での大躍進の理由を語ったが…。(前編→「ラグビー日本代表、快挙の裏にあった意識改革」)

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猿渡 (高阪は)年齢的には45歳。現役復帰するには覚悟も必要だったと思うけど、誰かに触発されたりした?

高阪 あるとすればマーク・ハント(41歳)です。マークがUFCに出た時、グラウンドの展開とか難しいんじゃないかと思ったのに試合を重ねるごとに適応して、今はタックルも押さえ込みもできるようになったんですから。

猿渡 それにしてもハントと戦ったTKの引退試合(2006年5月)はすごかった。ハントに何度倒されても立ち上がってきて。

高阪 あの試合は、勝っても負けてもこれで最後にしよう、感じるままに動こうと決めていたんです。うまくやろうと思えばいろんなやり方はあったんですが、リングに上がった瞬間、マークが向かってくるのがわかったので、自分も「勝負」をしようと。

猿渡 そんな感じだったね。

高阪 技術的にはああいう試合をしちゃダメなんですけど、お客さんは格闘家の「気持ち」が見たいはず。そういう面ではプロとしての役割を果たせたかなと思いますね。

猿渡 その「プロとしての役割」という言葉は刺さるな。俺の話になるけど、最近、ヤングジャンプで連載していた前の作品が終わって、本宮ひろ志先生(マンガ家。代表作に『サラリーマン金太郎』など)のところに挨拶(あいさつ)に行ったのよ。

その時に先生から、「自分の描きたいものを描いていてもダメだ。求められるものを描いてこそプロなんだ」と言われて…よし。俺、格闘漫画もう一回描いてみようかなと思った。

高阪 周囲の期待に応えるのもプロの仕事ですよね。

復帰戦は「最初の30秒が大事」

猿渡 そうね。でもTKは9年間のブランクの間、戦いたい気持ちが萎(な)えることはなかったの?

高阪 年を重ねてくると、気持ち的にダウンしている時でも「この状態は長くは続かない、いつか上がる」と自分でわかるんです。で、上昇しだした時は「やろう」と頑張れる。このメンタルは格闘技をやっているからこそ培(つちか)われたものだと思う。

それは試合中も同じで、息が上がって思い通りの攻撃ができなくても「あと15秒したら動けるようになる」とか、そういうことをイメージできれば苦しい時でも乗り越えられるんです。もちろん、訓練を積んでいるからこそできるんですけど。自分は常にそういう考え方でやってますね。

猿渡 復帰戦の相手はジェームス・トンプソンか。猪突猛進型だから序盤がキモだね。

高阪 最初の30秒が一番大事かもしれません。しかも、初日29日の第1試合です。

猿渡 要するに、RIZINというイベントはこれで始まりますっていうことだ。

高阪 PRIDEが消滅してから8年間、ファンや関係者の時計の針は止まっていた。その針を再び動かす役目を担(にな)う第1試合をやってくれないかと、高田延彦統括本部長に言っていただいたんです。

猿渡 そうだよね。自分が格闘漫画をもう一度描くのも、最近寂しい“格闘界”がもう一度盛り上がればという気持ちがある。だからぜひ、TKには盛り上げてほしい。

高阪 一瞬も目を離せない試合をしますので、楽しみにしていてください!

■猿渡哲也(さるわたり・てつや) 1958年6月25日生まれ、福岡県出身。『海の戦士』(『週刊少年ジャンプ』)でマンガ家デビュー。代表作『高校鉄拳伝タフ』『TOUGH』はコミックス、リミックス合わせて累計1000万部超の大ヒット。発売中の『週刊プレイボーイ』1・2号から新連載『TOUGH外伝 龍を継ぐ男』がスタート

■高阪 剛(こうさか・つよし) 1970年3月6日生まれ、滋賀県出身。格闘家。自身のジム「ALLIANCE」で後進の育成にあたる傍ら、大躍進を遂げたラグビー日本代表のスポットコーチを務めた。12月29日、新格闘技イベント「RIZIN」で9年ぶりにリングに復活する

(取材・文/中込勇気 撮影/橋爪英典)