大・大・大プロレスファンだと公言するファンキー加藤(元FUNKY MONKEY BABYS)が、53年にわたる格闘技人生に幕を閉じた天龍源一郎と感動の対面を果たした。
少年時代の夢はプロレスラーかミュージシャンだったと語る加藤に、天龍は「プロレスを選んでいたら今頃、体がガタガタになっている」と苦笑混じりに語った。(前編記事→「背負ってきた人生をさらけ出す仕事ですよね」)。対談後編では両者のトークが熱を帯び、人生哲学を語り合う。
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加藤 そこまで苦しい思いを続けてこられた格闘人生ですが、それでも後悔されたことはないんですか?
天龍 それはないですね。13歳の時に相撲から話があって。悩んで、迷って、行くか行かないか二者択一になった時に見えたんですよ、農家を継いだ時の50年後の自分の姿が。結婚して子供を育てて、子供に家督を譲って孫に囲まれて…。人生の終末まではっきりと見えた。
加藤 13歳でですか!?
天龍 で、そうなった時に、もしあの時、相撲にいっていれば、もしかしたら横綱になれたかもしれないとか思うような気がしてね。それがすごくイヤだったんです。
加藤 ふり返ると、全日本プロレスを辞める時も、新団体SWSに加わる時も、ご自身で設立されたWARの時も、天龍さんの人生は二者択一を迫られることが多かったような印象があります。
天龍 確かに…そうかもしれないですね。
加藤 先ほど、後悔はしていないっておっしゃっていましたが、右か左か、答えを迫られた時、何を判断基準に決めてこられたんですか。
天龍 突き詰めていくと、性格でしょうね。それも、思いっきりひねくれた(笑)。こっちに行けば楽だってわかっているのに、ついつい、こっちのほうが面白そうだぞって思っちゃう。
加藤 毎回ですか?
天龍 だって、ほら、性格はそんな簡単には変わらないから。でも選んだ道を後悔したことは一度もないです。それって加藤さんも同じでしょう?
加藤 僕は天龍さんほど多くの岐路に立たされたことはないですけど…。ファンキーモンキーベイビーズを解散して、じゃあ自分はどうしようと思った時、胸躍るほう、わくわくするほうをチョイスしようと。
「初めて『あー、オレはプロレスラーなんだ』と思えた」
天龍 でもね、そうやって自分で選んだ道だから、何がなんでも成功したい、スポットライトを浴びたいと思える。
加藤 そうですね。自分でチョイスした以上、誰かの責任にはできないし。
天龍 オレが保証してもなんの得にもならないけど、加藤さんのこれからの人生も、大バカだけど楽しいはずですよ(笑)。
加藤 天龍さんはずっと楽しかったですか?
天龍 山あり谷ありでしたけど、おしなべて考えるとね。特にプロレスラーとして自分のスタイルを確立できてからはすごく楽しかった。
加藤 それって、ラグビーから転向した阿修羅・原さんと“龍原砲”(りゅうげんほう)を組んだ頃(1986年)ですか?
天龍 その2年前、長州力選手たちが全日本プロレスに乗り込んできてからですね。リングに上ったら、バババッと一気にエネルギーを爆発させて、相手の技を受けてやろうとかは考えない。とにかく力で押しまくって、タンクが空になった時には勝負がついているというね。それ見て、こういうスタイルもあるんだと刺激を受けて。これだったらオレにもできるかもしれないって、自分の中に希望を見いだしたのを覚えています。
加藤 それまでの全日本とは違っていたんですか?
天龍 ジャイアント馬場さんが器用だったこともあって、全日本はひとつひとつの技をきれいに繰り出し、それをテンポよく、すっすっとつないでいくプロレスが主流だったんですよ。オレもそれを目指していたんだけど、元々が大相撲だったから動きが重くて、技もゴツゴツしている。流れるような華麗なプロレスとは正反対のところにいましたからね。早くジャンボ(鶴田)に追いつきたいけど、どうしても追いつけない自分がいて。イライラしてました。
加藤 これだ!というものをつかんだ瞬間というのはあったんですか?
天龍 この試合…というのはないけど、毎日、長州選手たちと闘っていくたびにどんどん手応えを感じていって。2年間、毎日のように闘って、飽きたことがなかったですから。初めて「あー、オレはプロレスラーなんだ」と思えた。
加藤 僕らの場合もファンモンを結成した頃、ケツメイシさんとかリップスライムさんとかトップリードされているグループがあって。最初はその諸先輩方のライブのやり方とかスタイルをまねようとしていたんですが、それって結局、二番煎じの最たるもので。どんなに頑張っても追いつけるはずも追い越せるはずもなくて。
天龍 どんな世界でも、最初はみんなコピーから入るんだけど、その中から自分のカラーを打ち出していくところが一番の悩みですよね。
「天龍さんにお詫びをしなきゃいけないことがあって…」
加藤 だから僕らは真逆のことをしようって決めたんです。汗をかかず、スタイリッシュにライブをこなしていくのがおしゃれで前衛的だったんですけど、とことん泥くさく、がむしゃらにステージを走り回って、暴れまくって、水をバンバンかけまくって、お客さんから嫌われるくらい全力でやろうと。それが今のスタイルにつながってきました。
天龍 オレはそれに気づくのに10年かかったけど、加藤さんたちは早く見つけた。この差は意外と大きいんですよ。
加藤 そう…なんですか?
天龍 これは若いやつらに言ってることなんですけど、トップに立つなら、早く立ったほうがいいと。早くトップに立てば、それだけ早くいろんな人と出会えるし、勉強もできるし、チャレンジもできる。オレのように遠回りすればするほど、トップに立った時にどうしようかって、臆病になって、やりたいこともできなくなっちゃうぞってね。そのためには、苦手なことはやらなくていいから、得意なことだけやって、すっとトップに立っちゃえと。
加藤 確かに。
天龍 トップに立ったら立ったで、お客さんに嘘をついちゃいけないとか、チケットを買ってくれたお金の分はお返ししなきゃいけないとか、背負わなきゃいけないものはいっぱいあるけど、それはトップに立ってから考えればいい。どれだけ早くトップに立てたかで、その先の10年も変わってくるんですよ。
加藤 ファンモンを結成して10年なんですが、ふり返ってみると、当初から長期のプランというのはひとつもなくて、ただ目の前のステージや目の前の楽曲制作をひとつひとつ、目いっぱいのエネルギーを注ぎ込んで、ここまでたどり着くことができたような気がします。だから、この先の10年も一歩ずつなんだろうなと。
天龍 偉そうに補足させていただくと、みんな、すぐ明日があるっていうんだけど、そうじゃないんだよね。小さな会場のライブで、「3日後の東京ドームで素晴らしいライブを見せるから来てくれ」って言ったって、今、目の前のライブが面白くなかったら誰もドームには来ない。今日、一生懸命やるから明日があるし、明日、目いっぱい頑張るから明後日につながる―その積み重ねだと思うんですよ。
加藤 僕、ひとつ天龍さんにお詫びをしなきゃいけないことがあって…。
天龍 金返せってやじったとか?
加藤 いや、あの中学生の時、八王子・卸売市場の野外の試合で天龍さんの入り待ちをしていたんですけど、その時、僕の傘の柄(え)が思いっきり天龍さんの目に刺さってしまって。
天龍 思い出した。そうか、あれは加藤さんだったのか。
加藤 マジですか!?
天龍 嘘、嘘。
「天龍さんはこれからどうされるんですか?」
加藤 やめてくださいよ、そういうのは。でも、あの瞬間は本気で殺されると思いました(苦笑)。だけど天龍さんはそんな僕の手を優しく包んで握手してくれて。あれがあるから僕、小さい子供に握手を求められたら、時間が許す限り、握手をするようにしています。
天龍 そういうイイ話はどんどんしてください(笑)。
加藤 じゃあ、もうひとつ。天龍さんの「お客さんというのは、命の次に大事にしているお金を使って会場に来てくれているんだ」という言葉もすごく大切にしています。
天龍 それは覚えているよ。
加藤 グループを解散してソロになって3分の1からのスタートになって、自分の思い通りにならないこともたくさんあって、もう一度、自分の足元を見つめた時、その天龍さんの言葉を思い出したんです。命の次に大切なお金を使って見に来てくれるお客さんに対して、じゃあ、自分は何ができるんだろうって。今もステージに立つ時、深く自分の中で考え続けているんですよ。
天龍 そうやって悩むことは大事だと思うけど、たぶんね、その答えは加藤さんの中では出ているんだと思う。で、それを実践している。だから、ファンは加藤さんについてくるんだと思います。
加藤 今の言葉、胸に刻みつけておきます…。天龍さんはこれからどうされるんですか?
天龍 何もないです。これまでと一緒で、一生懸命生きていれば、何かがつながっていくんじゃないかと思っているから。今を一生懸命生きていれば明日は来るだろうという淡い期待だけです(苦笑)。
加藤 いつか、何か一緒にやれることがあったら、すごく光栄なんですけれども。
天龍 オレと?
加藤 天龍さんがラップをやるとか。
天龍 ラップは自信ないけど、ピアノならひけるよ。
加藤 マジですか!?
天龍 ホントだって。縄つけたら、5mくらいなら軽く引けるから(笑)。
■天龍源一郎 1950年2月2日生まれ、福井県出身。2015年11月15日をもってプロレスラーを引退。現在バラエティ番組への出演など活躍の幅を広げている。公式サイト『天龍プロジェクト』
■ファンキー加藤 1978 年12月18日生まれ、東京都出身。2016年4月16日に「I LIVEYOU in名古屋」が開催。主演映画『サブイボマスク』は来夏公開予定。詳しくは公式サイトでチェック!
(取材・文/工藤 晋 撮影/熊谷 貫)