あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』。
第15回のゲストで芸人の玉袋筋太郎さんからご紹介いただいたのは、大先輩で師匠と仰ぐビートきよしさん。
80年代の漫才ブームにツービートで一世風靡、コンビを組む相方のビー トたけしが“世界の北野武”となる中、独特の存在感を発揮し続け、リスペクトされるその素顔とはーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)
―玉袋さんからのご紹介ですが、きよし師匠も意外と業界内では友達を作らないそうですね。
ビートきよし(以下、きよし) そう、業界の人間というかタレントだよね。ほら、あんまり仲間と付き合ってると愚痴が多いじゃないですか。そういうのが嫌なんだよね。同じ業種の人と付き合うよりも、いろんな社長連中のほうがなんかプラスになるじゃないですか? 自分でもゴルフコンペやったり、パーティーやったりしてるんでね。そういう人たちがお客さん連れて来てくれるんですよ。
―社長連中って…さすがおつきあいの相手が違いますけど(笑)。
きよし いや、結構、世話になってる人達いっぱいいるんです。横浜は特にね、繋がりがないとダメなんですよ、何やるにしても。繋がりがあると、じゃあ10人連れてってやるよとかね。そういうのが多いんです。
―師匠はもうずっと横浜のほうに住まれていて?
きよし もう30年以上ですね。あのね、横浜って遊んでてもすぐ仲間になっていくんだよね。すごい気さくなんですよ。ものすごく気取り屋さんが多いかなって思うんだけどそうじゃないんです。東京みたいに気取ってないの。
―確かに僕も、よく関内とか伊勢佐木町に飲みに来た時期があるんですが。よく言えば、すごく内々で仲良くなって、地元大好き!みたいな人が多いなと。
きよし そうそう、だからお店もね、同じお客さんが回ってるだけなんですよ。次、ここ行こうとか、あそこ行こうとか。他の新しいお客っていうのはなかなかそうはいないんです。
―確かに、横浜が好きすぎて中に籠(こ)もりがちな印象も…。お店で働いてる女のコ達も、別に東京行かなくたって、横浜がいいしみたいな感じで。
きよし 楽なんでしょうね。特に今の飲み屋の女のコなんか、金使ってね、こっちが楽しませてあげないとイイお客じゃないからね。
―ははは、楽しませてもらうよりも、こっちがサービス精神旺盛じゃないと?(笑) 結構、師匠もそのてのお店は行かれるんですか。
きよし 僕、あんまり女性がいる店ってね、行かないですね。でも、横浜もだいぶ寂れましたよ。その30年ぐらい前はね、すっごい賑(にぎ)やかでしたけど。
やっぱり暴対法がなかった時代は、みんなあっちのシマ、こっちのシマっていうのがあったでしょ。で、そういう人達が変な奴が入ってこないように全部見張ってたのもあるわけじゃないですか。だから堅気の人達も安心してこれたと思うんですよ。
で、暴対法ができてからね、仕切れなくなっちゃったんで変なのがいるんですよ、今。福富町のほうでも中国人のぼったくりの店がすごい多いのね。だからお客さんこなくなっちゃうんだわ。だんだんだんだん寂れて、もうどうしようもないんです。
「バカなこと言ってんじゃない!」
―90年代にバブルが弾けて、まず様変わりして。あとやっぱり、黄金町とかアブない色街も2000年代に一掃されちゃって。猥雑(わいざつ)さとか混沌とした面白みもなくなりましたよね。
きよし そうなんですよ。だけど、やっぱり世の中ってそういう色気がないとね。はけ口がなくなってくるから、変な犯罪のほうに走っちゃうんだよね。昔はなんでうまくいってたかって、ああいうのは必要悪としてさ、そんなに厳しくなかったじゃないですか。今はもう規則で全部縛り付けるからいけないんですよ。
―表向きには道徳心とか綺麗事ばかりで。裏に裏に深化してますよね。
きよし そうなんですよ。綺麗事でもなくて、格好だけなんじゃないですか、表向きの。ハートがないよね。規則でがっちり肩身狭くして。昔は、例えば違反やってもね、もう少し人情のあるおまわりさんもいましたよね。でも今は規則規則だから、反発心だけが生まれてくるじゃないですか。
―遊びの部分というか、ちょっとバカやっても許されるって寛容さはどんどんなくなってる気がします。
きよし 好き勝手なことやってたから個性っていうのができ上がってくるじゃないですか。遊んで遊んで、自分の個性っていうのを作り上げるでしょ。今は遊ばないからサラリーマン化しちゃってさ。喋りはうまいんだろうけど、味も個性も何もないんだよね。
―それはまさに若手芸人に対してもってことですね(笑)。
きよし そう。だからもっと遊べばいいんだよね。で、週刊誌見ると、例えば女遊びしてるとか、そんなことは書かれたっていいんだよ、芸人なんか。うちの相方なんか、俺すごい偉いなって思うのがさ、いまだに女作ってよ。平気で喋るじゃない(笑)。あれじゃなきゃね、やっぱダメだと思う。
―ははは。それどころか今はもう男もイクメンになって、食事や家のこともして、子供の面倒も見なきゃイイ旦那じゃないくらいな風潮ですからね。
きよし 何を言ってんだって。俺、いまだに家にあんまり帰らないから(笑)。
―はははは、実は玉袋さんが「いや~、きよし師匠は本当にすごいんですよ」とおっしゃってて。限定解除で自由すぎると。で、メッセージはありますか?って聞いたら「是非、総理大臣になってください!」って(笑)。
きよし バカなこと言ってんじゃない! 俺が総理大臣になったら…って、なるわけないんだよ。もしなったら大変だろうね。もう、ブーイングばっかりでさ。
―早くも“バカなこと言ってんじゃない”をいただきました(笑)。これをいただいとかないと。
きよし あ、そう(笑)? でも、あれですよ、僕が総理大臣になったらカジノ法案には賛成ですよ。
―(笑)。でも、たけし師匠も国民が総理大臣になってほしいランキングみたいなアンケートで常に上にくるんですけど。やはり破天荒というか、堅苦しい世の中をバッサリ風通しよくしてほしい的なことはあるのかなと。
きよし そうだよね。堅苦しすぎますよ。TV番組とかも、僕らの時代は色気もあったしさ、必ず深夜放送とか。今、何もないですもん。
「いい加減にしろっつーの!」
―『独占!おとなの時間』とか『11PM』とか子供もこっそり夜中に観て、それでちょっと大人になっていくみたいなところもありましたもんね。今はそれがネットになって、逆にますます表に見えづらくなってるんでしょうが。
きよし で、TV局ってクレームが付いちゃうとすぐやめちゃうじゃない。だけど、やっぱり世の中にはこういうものもないと。必要だからやんなきゃダメだっていう人達がいないとね、面白くないじゃない。今、観てても何も面白くもなんともない。似たりよったりの番組ばっかりでさ。
―結局、情報番組とか○○先生が何を教えてためになるみたいなのが多いですよね。
きよし そうなんですよ、クイズ番組とかね。まぁそれも必要なんだろうけど、どっかの局がこういう番組をやると、みんななっちゃうじゃないですか。あれがおかしいよね。昔は局によってカラーがあって、TBSはドラマとか、フジテレビはお笑いとかね。
―その中でここ数年、テレ東なんかがお金もない中でどうやって面白い番組作るんだってところで。違った視点というか、アイデア勝負で奮闘してますが。
きよし テレ東、いい番組作るよね。MXテレビもいいな、俺。だって、言いたいこと言ってくれって言うんだよ。クレーム付かないの?って聞いたら、大丈夫だからって。
―「うちは誰も見てませんから」って言うらしいですね(笑)。
きよし で、さんざん言いたいこと言ったらさ、後で「きよしさん、クレーム付かなかったですか?」って。いい加減にしろっつーの! なんで本人にくるんだよ(笑)。
―以前、第6回のゲストで板東英二さんにも登場いただいたんですけど。いろいろあって、まだTVはなかなか難しいという中で、MXテレビでは復活されたりして…。
きよし だから昔の人達、お笑いの連中だって、ギャラとかそういう話じゃないと思うよ。そういう本物を出さないで、何か知らないけど、ああいうね。…まあ今の彼らを批判するわけじゃないけど、やっぱり視聴者っていうのは特に今ね、年配の人が多いじゃないですか。家にいるわけだし。そういう人達が楽しめる番組作らない限りは盛り上がらないよね。
我々の漫才ブームの時代に見てた人達って、もう年配の人が多いじゃないですか。そうすると、ああいうお笑いを見たいわけですよ。でもやんないでしょ? お笑い番組なんて金もかからないのにね。セットもスタンドマイク1本あればいいんだから。で、今、お笑いの主流っていったらモノマネくらいでしょ。あれが一番盛り上がってるみたい。
「だから、もういいじゃんって」
―芸人の仕事もコメンテータ-にリポーター、司会とかがメインで増えて。以前、あるインタビュー記事で師匠が「旅番組で語ってるみたいな、そんな仕事を受けるだけなら、俺は面白くね~し、芸人の仕事じゃねー」と。
きよし だって、昔はさ、僕らの時代ってみんな分かれてたんだよ。俳優さんとかアナウンサーとか、我々芸人でも。それがなんだかワケわからないのゴチャゴチャですよ。アナウンサーがお笑い番組やってたり、芸人がみんな司会やってさ。だったら、せっかくアナウンサーの勉強して試験受けて、一生懸命やる必要ないじゃないですか。
―師匠がなんでもかんでもやらないのは、俺がやることじゃねぇ!という理由が一番ですか?
きよし あのね、なんで出なきゃいけねーのかなって思う番組があるんですよ。これ、俺じゃなくたっていいじゃんって。誰だっていいなら出たくないじゃないですか。ビートきよしじゃなきゃダメだって言われて出るのとね、意味が全然違うでしょ。
―自分の本分というか、そこにこだわりであり自負心が…。
きよし でね、今の時代っていうのは、すぐポッと出て、すぐ消えていくでしょ。そういう番組出てれば自分も消えていっちゃうじゃないですか? だったらイヤだし。くだらなくてもワッと盛り上がってないとダメなわけで、僕はそれできないんだわ。
そういう番組出てると、「なんかこの間、TV出た時、イヤそうな顔してたね」って言われるんだよ(笑)。自分でやってても、なんでこんな番組作っちゃうんだろうって思っちゃうんだよね。
―ある意味、ツービートであり漫才ブームで一世風靡された時代っていうのがあって。その理想とのギャップも?
きよし その時はね、やっぱり芸が勝負だからさ。『THE MANZAI』の対決なわけじゃないですか。誰が一番笑いとるかっていうね。熟練であろうが新人であろうが、もう板の上に立ったらすぐ反応がくるわけでしょ。俺たちは何十年もやってるんだよって言ったって、1日しかやってねーやつにバっと笑いとられちゃったら負けなわけですよ。
それぐらい真剣になってやってましたからね。もう、『THE MANZAI』のトリなんか胃が痛くなってくるんですから。勝たなきゃいけないって意識がすごかったですよね。
―その最高潮の時代を経験されてしまうと、一方で売れなくなる寂しさであるとか、消えたように言われる怖さもあって。なんでも仕事やります的な執着も生まれるのではと…。
きよし だから、僕はね、すごい楽天家なんだろうね。人それぞれだから、もういいじゃんって。やっぱりその時代、その時代に合った人が売れるわけじゃないですか。いくら昔売れたって、売れなくなる奴いるわけでしょ。これはしょうがないことだわ。
ツービートだってね、あの時代にあのネタをやって、すごい批判があったわけですよ。時代がそうなってなかったら、もう俺らボロクソですよ。先見の目があったって言えばあったんだろうけど、時代がそういうほうに向いてきちゃったんだよね。
「TV出なくていいやって」
―それこそ景気もイケイケで日本人が自信を持てた“ジャパン アズ No.1”の時代でした。そこに“毒ガス”を放ったわけで。
きよし でも随分、怒られたよ。漫才やってると、お客さんが目の前に来てね、「バカヤロー、てめーこの野郎ー!」って怒鳴られるんだもん。そんな時代だったのが変わってきちゃって。当時はすごい刺激があって、そうだそうだ!って感覚になったんだろうね。
―そこで、どこか客観的に冷めた視点もあって、自分が時代にそぐわなくなったなら、それはしょうがねーわみたいな?
きよし そうそうそう、しょうがないし、TV出なくていいやって感覚なんですよ。それだったら、目の前にお客さんがいて、喜んでる顔を見ながらやるのが好きだしね。どんな小っちゃな劇場でもいいのよ。
―ただ、実際はそうもいかず。それこそ、たけし師匠がどんどん出ていって、コンビで漫才ができなくなっていくわけですよね。他に誰かと組んだらといっても、できるものじゃなく…。
きよし まぁね。やっぱり相方とのコンビがすごく印象的だったんで。それは違うやつとやったって、そこまでいかないですからね。で、関東の漫才には寄せ小屋がないから、ある程度やったら、別々の仕事やんなきゃいけないわけですよ。だから、それもしょうがない。
だって、やっぱりコンビって陰と陽、プラスマイナスだしね。で、自分はこういう役を引き受けちゃったんだから。それで徹してきて、売れたわけじゃないですか。そんなもの変えろつったって、そう簡単に変われるものじゃないしね。
―役回りを果たす人間がいてこそと。そこで割り切れるのもなかなかできないものですが。
きよし だから、なんで相方みたいにやんないの?って言われるけど、やったら絶対死ぬんですよ。個性が全然違うから。自分の個性を活かしながらやっていかないといけないわけですしね。まあそれで相方はさ、乗っちゃってるから。
そうやって相方が売れたから俺だって引っ張られてるわけですよ。相方売れなくなったら、もうどうしようもなんないと思うもん。売れててネタで使ってくれるから、僕を宣伝してくれてるのと一緒でしょ(笑)。それはすごい嬉しいですよ。相方の優しさでコンビ解散しないでずっとやってくれてるし。
―そこまでの関係性であり、もう他の誰にも求められないというか。代えが利いてどうこうではないんでしょうね。
きよし いや、この年になってくるとね、もう仕事は趣味みたいな感覚でやってますしね。だから相方がバーンと売れて、世界の北野なんてすごいなと。売れててくれたら俺も引っ張られてずっといけるから(笑)。で、ゴルフ行ったりなんかして、仲も悪くないしさ。いろいろ遊んでるから、まぁ全然いいんじゃないですか。
●この続きは次週、1月31日(日)12時に配信予定!
●ビートきよし 1949年12月31日生まれ、山形県出身。72年にビートたけしと漫才コンビ・ツービートを結成。80年代、漫才ブームに乗り一世風靡。早口の毒舌でまくしたてるたけしに対する「よしなさい!」というツッコミは流行語になった。その後、『オレたちひょうきん族』『スーパーJOCKEY』などTV番組でも活躍。漫才ブームが終焉を迎えると共にコンビでの出演は減ったが、解散したことは一度もなく、現在でもツービートとして舞台で漫才をすることがある。舞台、ラジオでにも出演、12年に東邦出版から発売された『相方 ビートたけしとの幸福』も好評発売中
(撮影/塔下智士)