家庭的な料理のレシピをトラックにのせてラップするーーそんな音楽を自ら“くいしんぼうヒップホップ”と称し、話題を呼んでいる「DJみそしるとMCごはん」

「マカロニグラタン」「のり弁」「おまんじゅう」などの家庭的な料理のレシピをアコースティックで温もりのあるトラックに乗せて、絶妙に力の抜けた心地良い声でラップーー。

そんな音楽を自ら“くいしんぼうヒップホップ”と称し、話題を呼んでいるのが「DJみそしるとMCごはん」だ。

まるで、ふたり組のような名前だが、実は女性ソロアーティスト。彼女は女子栄養大学の卒業研究で「料理のレシピをラップする架空のユニット・DJみそしるとMCごはん」としての作品(曲とミュージックビデオ)を発表し、Youtubeにそのミュージックビデオを投稿したところ、音楽関係者の目に留まり、本格的に活動をすることに。2013年のメジャーデビュー以降、「料理と音楽」をテーマにした番組『ごちそんぐDJ』(NHK Eテレ)に出演するなどTVやイベントなど多方面に活躍を広げてきた。

その魅力を最近人気のグルメマンガで例えるなら、『とんかつDJアゲ太郎』と『花のズボラ飯』を合体させたものというか…。ささやかな日常の喜びを食べ物と音楽を通じて表現しているわけだ。

今年の3月には安藤裕子のアルバムに参加するなど、その活動はますます加速するばかり。聴くとなんだか幸せで満たされた気分になってくる「DJみそしるとMCごはん」。その素顔を探ってみた。

* * *

―「くいしんぼうヒップホップ」と自分で呼んでますけど、ヒップホップのトラックで料理のレシピをラップするって、かなりユニークですよね。そもそもどんな風に始まったんですか?

DJみそしるとMCごはん(以下、おみそはん) 私は女子栄養大学に通ってたんですけど、その卒業研究として考えたのが最初です。料理の作り方をラップする架空のユニットがいたら面白いんじゃないかって。

―へ~、卒業研究で! そういうのアリなんですね。

おみそはん 私が学んでいたのが食文化栄養学科って、料理にまつわることならなんでも取り組めるような自由なところだったんです。ゼミでは料理写真の撮り方や料理本の作り方を勉強したり。私は音楽が好きで昔は楽器もいろいろやってたので、それを活かせたらいいなと思って。

とはいえ、周りのみんなは青魚のDHAが体にいいとか、マジメな卒業研究をやってたんですけど(笑)。

曲作りは料理のレシピ作りから

―音楽といったって、いろいろあるでしょ。なぜラップを?

おみそはん 大学にヒップホップ好きな友達がいて、教えてもらってるうちに大好きになったんです。PSGさんとかスチャダラパーさん、サ上とロ吉(サイプレス上野とロベルト吉野)さんとか。

―攻撃的でなく、パーティノリのヒップホップですね。

おみそはん はい。それでヒップホップって楽しいな、自分もやってみたいなって。あと、ヒップホップのメッセージ性が強くて、言いたいことをズバっと言うスタイルに憧れたのもあるし。

―ラップは多く言葉を詰め込めますもんね。トラックも自分で?

おみそはん はい。当時はヒップホップの曲作りなんて何もわからなくて「サンプリングって何?」ってところから始まってます(笑)。それでいろいろと試行錯誤してでき上がったのが「ピーマンの肉詰め」という曲です。

―「ミート・イン・ピーマン♪ Oh、イエス!」って曲ですね。

おみそはん はい。その曲にミュージックビデオを作って発表したら、学校内外の人が観て喜んでくれました。「あぁ、これで心置きなく卒業できる」と思いましたね。

そんな時、一緒に住んでた妹が「Youtubeに上げたら?」って言ってきたんです。私もせっかくだからと思って上げてみたところ、それを見た音楽配信サイトの方が声をかけてくれて。DJみそしるとMCごはんとして本格的に音楽に取り組み始めたのはそこからですね。

―それ以降、曲をリリースするようになり、メジャーデビューやTV出演にも至ったと。曲は「白和え」、「マカロニグラタン」、「のり弁」に「ショートケーキ」、「まんじゅう」と、聞いてるだけでお腹が減ってきますが、どんな風に作ってるんですか?

おみそはん まず最初にメニューを決めて、料理を試作します。で、レシピが決まったらトラックを作って、詞を書きながら録ってますね。

―メロディや詞より、まず料理ありきなんですね。

おみそはん そうなんです。だから料理のレシピができないと曲作りもなかなか進まないんです(笑)。

ライブでは料理を作って観客も参加

―トラックもやっぱりレシピから?

おみそはん ポテトサラダの曲を作った時は、ジャガイモをマッシャーでつぶす感じを出したいから打楽器だけのトラックにしたりもしました。安藤裕子さんとステーキの曲「霜降り紅白歌合戦」を作った時は、サックスを入れて赤身肉のプリプリした感じを出したり。レシピからどんなトラックにするか、イメージを広げることは多いですね。

―料理を作るように曲を作ると。まさにくいしんぼうヒップホップ! 興味深いのはメジャーファーストアルバムのタイトル曲『ジャスタジスイ』。アコースティックな感触のする親しみやすい曲ですけど、自炊の楽しさをラップしつつも、ひとり暮らしを始める時のワクワク感やドキドキ感もあります。架空のユニットというより、リアルなおみそはんさんが伝わってきました。

おみそはん 自分の考えてることや気持ちを曲にするのは最初すごい照れがあったんですよ。だけど、ラップってメッセージを伝えるものだと再認識することもあり。私も野菜を切るのが楽しいなとか、スープっていい匂いだなとか、すごく些細なことなんだけど、普段、料理しながら思うことは多いし。それを誰かに伝えたいと思って。

あと私、普段から料理に関する言葉で話すことが多いんです。例えば「あのコ、ほっぺが美味しそう」とか「あの男の人の二の腕、北京ダックっぽくてカッコいい」とか(笑)。そういう感覚も曲にしたら楽しいし、料理を身近に感じてもらえるんじゃないかなって。

―ライブでは実際に料理を作っちゃうんですよね。材料を入れたケースを半ばむりやり客席に渡して、お客さん同士でパスしてもらいながらシェイクしてもらって、歌い終わったころには、アイスクリームが完成みたいな(笑)。

おみそはん あははは。アイスクリームやティラミスはいいけど、過去には失敗もたくさんありましたけどね。味噌汁を作ったらダシの匂いが会場中にこもっちゃったり、アスパラベーコンを作ったら煙がもくもく出ちゃったり(笑)。でも、料理も音楽も大勢だと楽しいじゃないですか。みんなでシェアしたいなって思うんです。

―ライブで実感するのは、とにかくほのぼのしてること。しかも、お客さんは小さい子供からおじいちゃんまで信じられないほど幅広い。ヒップホップのライブとは思えないですよ。

おみそはん ライブには来られなくても、3歳の子が私の出ているTV番組を見ながら歌ったり踊ったりしてる動画を送ってくれる人もいるんです。料理って世代関係なく共通して語れますし、食べるのが嫌いな人って少ないですから。ライブなどで満たされた表情のお客さんを見て、改めて料理の偉大さを感じますね~。

ラップ界の平野レミさんになりたい!

―ちなみに最近は料理男子もいますけど、男の人にオススメの料理なんてあります?

おみそはん う~ん、なんだろう。パスタですかね。クリームソースの中に海苔(のり)をちぎってからめるだけでもいいし、手順は簡単なのに美味しいものがたくさんできますから。得意なパスタがひとつあるだけで女のコも「おっ」と思うだろうし、彼女がいる人にはオススメです。

―是非やってみます。それにしても、ご飯を作りながら楽しく歌うっていうと、僕ら的には平野レミさんみたいな方を思い出しちゃうけど。おみそはんさんはその系譜を継ぐ人というか。

おみそはん 平野さん、大好きです! すっごい憧れです! TV番組の収録でお目にかかったんですが「料理は誰でもできるけど一緒に歌う人はいないから素晴らしいじゃない~!」って褒(ほ)めていただきました。

―では将来の目標も…。

おみそはん はい。ラップ界の平野レミさんになれたら本当に嬉しいです(笑)。今後も自分の半径3メートルくらいのごく身近な世界を大切にしながら、毎日のごはんが美味しくなるようにラップしていきたいと思いますね。

(取材・文/大野智己 撮影/下城英悟)

■DJみそしるとMCごはん「おいしいものは人類の奇跡だ」をモットーに料理レシピほか料理や食にまつわるあれこれを歌う女性HIPHOPアーティスト。自身の“音楽×料理”番組、「ごちそんぐDJ」(NHK Eテレ)も好評レギュラー放送中。最近では、安藤裕子の2016年3月2日発売アルバム「頂き物」収録の「霜降り紅白歌合戦」を共作共演し、その異色のコラボに注目が集まっている。最新情報はTwitter、オフィシャルサイトをチェック。http://misosiru.jp/