65歳となった今も年間100本ものライブ活動を行なう、伝説のカリスマ・遠藤ミチロウ 65歳となった今も年間100本ものライブ活動を行なう、伝説のカリスマ・遠藤ミチロウ

伝説のパンクバンド「ザ・スターリン」のヴォーカル、遠藤ミチロウが初監督まで務めた自身のドキュメンタリー映画『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』が全国順次公開中だ。

遠藤ミチロウは1980年、ザ・スターリンを結成。自主制作ソノシート「電動こけし/肉」をリリース。全裸になったり、豚の臓物を投げたりと型にはまらない過激なパフォーマンスが話題を呼び、82年メジャーデビュー。

85年の解散以降はソロ活動や様々なユニットを結成し、65歳となった今も年間100本ものライブ活動を精力的に行なっている。グループ魂、YUKI、黒猫チェルシーから千秋まで影響を受けたと公言するバンドマン、芸能人は数多い。

この映画はそんなミチロウが還暦を迎えた2011年に行なわれたザ・スターリン再結成ライブ、還暦ソロツアー、東日本大震災への復興支援企画「プロジェクトFUKUSHIMA!」(大友良英ら同郷の福島出身ミュージシャンらと立ち上げた復興イベント)などの活動を追いかけ、様々なライブ映像やプライベートの舞台裏まで、見たことのないミチロウの姿を赤裸々に晒(さら)している。

活動を続けて35年ーー。伝説のパンクス、遠藤ミチロウは何を考え、この映画で何を見せようとしたのか? 映画製作の裏話から音楽活動までを語ってもらった。

***

―映画を観させていただきましたが、今回、ご自身で監督したのはどのような経緯で? 

遠藤 元々、映画会社から僕のドキュメンタリー映画を撮りたいってお話をいただいたんです。いいですよってお話したけど、肝心の監督が決まってなくて。だったら自分でとお願いしたんです。

―映画の内容もご自身で決めたとか。 

遠藤 ちょうど還暦になった頃で、記念イベントをザ・スターリンでやったんで、そこから始めて、地方のライブ模様を織り交ぜたロードムービーを撮ろうかと。でもその直後に震災が起こっちゃって。ただのロードムービーでなく「プロジェクト FUKUSHIMA!」に向かっていく様子も収めた内容になりましたね。

―普段のライブも尋常じゃない数をこなす中、監督業は大変だったんでは? 

遠藤 そうなんですよね。年200本以上やってたから、ゆっくりできる時間がなかなかなくて。撮影後、編集のチェックをしたり、音源の著作権をクリアしたりで3年くらいかかったところで、今度は病気になって数ヵ月間入院しちゃったんです。結局、撮影から公開まで丸5年かかりました。

俺もチ●チン出しちゃえって

―かなり難産だったんですね。それだけ貴重な映像が収められてるわけで…特に各地でのライブ風景はもちろん、ツアー先でのオフショットから実家のシーンまで。今まで見せてこなかったプライベートをかなり赤裸々に描いています。やはり遠藤監督だからこそ撮影できたというか(笑)。 

遠藤 実はそこが一番大変だったところで。主人公と監督って逆の立場でしょ。主人公としては撮られたくないけど、監督としては是非撮りたいってシーンがあったりとか。

―実家でお母様が出てきましたよね。ああいうシーンですか? 

遠藤 そうそう。すごく嫌でした。親戚まで出てね。しょーがねーなって思いながらも、結局、監督の立場で撮りましたけど(笑)。

―普段は素朴で物腰の柔らかい素顔の遠藤さんですが、ライブではやはり鬼気迫るものがあります。冒頭にあるザ・スターリンの復活ライブでも大量の爆竹を鳴らしたり、豚の臓物を客席に投げこんだり、往年と変わらずビックリするくらい激しい姿ですよね。 

遠藤 あの時の会場はメンバーがオーナーのライブハウスなんです。だから普段、禁止されてることも全部やらせてもらいました。あれで全裸になっておしっこしたら(80年代初頭)昔のザ・スターリンのライブそのまんまです(笑)。

―当時は変態バンドとか最も危険なバンドなどと言われ有名だったわけですが、そもそもなぜあんな過激なことをやるように? 

遠藤 最初は普通に演ってたんですよ。で、そのうち物足りなくなって客席に降りて歌うようになったんです。でもまだ物足りない。それで演りながら、今度は店の生ゴミをぶちまけたんです。そうしたらお客さんが怒って帰っちゃったんですけど、次のライブでは逆に増えてしまって。それでこれはおもしれーぞと(笑)。

―怖いもの見たさみたいな感じですかね。 

遠藤 で、ジョージ・オーウェルの『アニマル・ファーム』って小説がソビエトの未来を描いてて、政治家がみんな豚になってるんです。で、スターリンだし、豚の臓物を投げるようになったんですよね。

―それが伝説化しちゃったと。ザ・スターリンがいなかったら30年後にBiSがライブで臓物を投げることもなかったかも(苦笑)。でも全裸ってのはさすがにやりすぎだとは?

遠藤 ドアーズのジム・モリソンの影響ですね。僕、大好きでね。彼がチ●チンを出してたので、俺もやっちゃえって。

客は敵で、戦争するイメージだった

―やっちゃえって(笑)。 

遠藤 当時はRCサクセションが「愛し合ってるかい!」ってライブで叫んだりして、ロックバンドは客ととりわけ熱いコミュニケーションを取ろうとするのが普通だったんです。でも僕らは逆で、客は敵で、それこそ戦争するイメージだった。そして戦いだからこそ客も興奮したんですよね。

―RCとは違った意味で挑発的でしたもんね。「嫌ダッと言っても愛してやるさ!」って歌ったり…。今回の映画でアコースティックギターを抱えて、ひとりでライブするシーンがありますが、ザ・スターリン解散以降はバンドでなくギターを抱えて、旅しながら全国を回って活動を。なぜこういうスタイルに?

遠藤 元々、ミュージシャンになる前から旅が好きだったんです。学生の頃から日本全国を回ったり、東南アジアを放浪したり。将来、何になりたいというのもなく、旅人になるのが夢でしたし。

―では、なぜミュージシャンに? 

遠藤 学生の頃に彼女と同棲したんですけど、旅してばかりいたら愛想を尽かされて出ていかれて。それがすごくショックで失恋の歌を作ったんです。そしたら、それが面白くて自分で歌うようになったんです。

―最初はラブソングからなんですね(笑)。 

遠藤 で、音楽をやりたくなって東京に出たら、たまたまパンクが盛り上がってバンドを組むようになって。元々、ひとりでやりだしたし、旅に出て歌うことは僕にとって自然なことなんですよね。

―ザ・スターリンの激しいイメージが強かったので、アコースティック一本というのは意外に思えました。

遠藤 フォークになったのかとか言われたんですけど、フォークもパンクもないんです。歌うことだけが重要で。ただソロを始めた頃は僕にとってアコースティックでやることのほうがパンクで、当時はアンプラグドパンクなんて言ってましたけどね。

―歌うことだけが重要、ですか。なるほど。その後、アコースティックのバンドを組んだり、チェロを取り入れたトリオをやったり、ザ・スターリンを再三復活させたり…最近ではなんと音頭までやったり、様々な形態で表現してますよね。 

遠藤 それこそドアーズもモーツアルトも音楽のスタイルは違うけど、それぞれに時代においてパンクっちゃパンクですからね。僕にとって音楽の形態はその時々で変わっていくのが当たり前なんです。

怒ることで楽しんでいる

―そこでひとつお伺いしたいのが、今までの活動を見ると遠藤さんは、自分から敢えて嫌われようとやってきたようにも思えて。過激な歌もパフォーマンスもですが、そもそもザ・スターリンって名前からして、わざわざ火種を作ろうとしているような…。

遠藤 当時、世界で一番嫌われてるヤツをバンド名にしようと付けましたから(笑)。ヒトラーかスターリンかで悩んだ、みたいな。

―とことん挑発的というか。 

遠藤 僕は中高の時、みんなに嫌われない、誰からも好かれるタイプのコだったんです。それが自分ではすごくイヤで。確かに、だからこそ偽悪みたいなことをずっとやってきたのはありますね。

―今の時代、SNSで炎上を怖がったり、嫌われることに過敏になってる気がするんですけど。嫌われるのが怖くはないんですか?

遠藤 僕は人と同じことをやるのがイヤなんです。人と違うこと、やりたいことをやって嫌われるならそれは仕方ないとは思いますね。それに「理解」ってなんか胡散(うさん)臭いでしょ(笑)。理解されるより、誤解されるためにやるくらいのほうが最終的には相手に近づくんじゃないかな。

―誤解は理解の第一歩と。実際、影響を受けたバンドやアーティストは同世代から10代まで数限りなくいますもんね。…ちなみに先ほどおっしゃった、ご病気は大丈夫なんですか? 

遠藤 免疫が乱れて狂ってしまう膠原(こうげん)病を患(わずら)ってるんですけど、この病気って治らないんですよね。薬で抑えていくしかない。

―(絶句)。でもそれだと音楽活動、いや普段の生活から…。 

遠藤 脚が痺(しび)れて外を出歩けなくなったり、リウマチでギターを弾けなくなったりしましたね。あと人混みもダメだし、紫外線も浴びちゃいけないし。

―それで野外フェスとかも…。 

遠藤 ダメですね。昔みたいにあちこち行けなくなったんで、ライブを年100本くらいに抑えているんですよ。

―それでも100本ですよ! もっと控えたほうがいいんじゃ…? 

遠藤 やらないと食えないから(笑)。ただ不自由になったことで今まで当たり前だと思っていたことが外から見えるようになったし。苦しんでいる人の気持ちもわかってきた。そうなると歌いたいことも増えてくるんです。自分の中で感じる矛盾や悲しみとか。

―昔からずっと世の中に怒っているイメージがありますけど、それが尚更…? 

遠藤 いや逆ですね。怒ることで楽しんでいるんです。嫌な気持ちって形にできないから悶々(もんもん)としてるわけで、歌にすることでそれがなんなのかわかって癒されるんだと思う。

僕も歌って表現がなかったら自殺するかもしれないですよ。今までもこれからも歌にして、歌うことで自分も救っていくんですよね。

(取材・文/大野智己 撮影/グレート・ザ・歌舞伎町)

『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』 監督:遠藤ミチロウ 出演:遠藤ミチロウ、THE STALIN Z(中田圭吾、澄田健、岡本雅彦)、THE STALIN 246(クハラカズユキ、山本久土、KenKen)、NOTALIN’S(石塚俊明、坂本弘道)他。製作・配給:シマフィルム株式会社 新宿K’s cinemaにて公開中。以後、フォーラム福島、フォーラム山形、フォーラム仙台(3月下旬公開)、名古屋シネマテーク、第七藝術劇場、立誠シネマプロジェクト(4/9公開)他。詳細はオフィシャルサイトにて http://michiro-oiaw.jp/