アイドルヲタがアイドルと仕事するのは幸せなのか――。
『中年がアイドルオタクで何が悪い!』の著者・小島和宏氏は、80年代・アイドル黄金期をアイドルヲタとして過ごした。90年代には『週刊プロレス』のエース記者として活躍してきたが、現在は特にももいろクローバーZの公式記者として有名な人物。一時はアイドルから離れたが、再びアイドル界隈に戻ってきたのだ。
そこで、同じく中年ですっかりAKB48オタクになってしまった本誌記者が、趣味を仕事にするということ、アイドルとの距離感などについて話を聞いた。
―小島さんのアイドル歴は?
小島 80年代に伊藤つかさから入って、そこから(松田)聖子ちゃんとかキョンキョン(小泉今日子)に流れ、高校時代におニャン子クラブにハマり。おニャン子が解散した時は大学生だったんですけど、みんな代々木に集まって、俺らの青春も終わりだなーって。
―アイドル黄金時代を過ごしてますね。モーニング娘。はどうだったんですか?
小島 2周目のアイドルブームがそこですね。ちょうどフリーになったタイミングで『ASAYAN』を観て、なんだこりゃって。お金と時間がある程度あって、この歳でハマったらヤバイなっていうのはあったんですけどね(苦笑)。
―結局ハマってしまったと。でも仕事では関わってないんですよね。
小島 仕事にしたくなかったんです。趣味を仕事にしちゃうとプライベートがなくなるし、趣味は趣味として。
―それがなぜアイドル関係の仕事をすることに?
小島 最初はBUBKAの『AKB裏ヒストリー』です。劇場に行ったらおかしなことになると、断ってたんですけど、行ったら案の定(苦笑)。ただ取材はAKBのヲタだけでしたね。でも取材したおかげで、見てなかった時期の穴が埋まって、すごく助かりました。
―最初はアイドルと会わず、周辺取材で記事にしてましたよね。実際にアイドルと会うようになって、何か変わりましたか?
小島 嬉しいというより、マズイなと。ももクロも今はオフィシャルでやってますけど、最初の1年は客でひたすら観に行って、勝手にレポを書いてたんです。いろんな編集からインタビューやりましょうと言われたんですけど、会って幻想が失われたら嫌だから拒否。でも、どうにもならなくなってメンバーと会うことに…。
―会ってみて、どうでしたか?
小島 あのコたちって裏表がなくて、会ったらそのままだった。幻想が壊れなかったからこそ、今まで仕事が続いてる感じはありますね。
ももクロメンバーの非道な洗礼?
―でも仕事になることで失われることもありますよね。
小島 関係者席を用意しましたと言われると、『あぁ、騒げないなぁ、ここ』と。最初は座って観てなきゃいけないのが嫌でしたね。サイリウムをもらっても振れないですし。
―あそこで応援できないですよね。振りコピしたくなるのをメモるフリして抑えたり。
小島 そうそう、だからメモは大事ですよね。振りコピのように手が動くから、何を書いてあるか読めない時もあるけど(笑)。趣味としてライブで騒いでストレス発散してたのが封じられてしまって。だからあまり取材してないBABYMETALで騒ごうとライブへ行ったら、そこでモノノフ(ももクロファン)に見つかったり。あとはHKT劇場でモノノフに「なんで」って言われたことも。
―モノノフの間で有名ですもんね(笑)。でも、ももクロもAKB48も取材している人って小島さんぐらいじゃないですか?
小島 あんまりいないと思います。でもそれはもう物理的な問題ですよ。僕もAKBの姉妹グループはHKTだけに絞りました。根っからのDD(誰でも大好き)だから、あの現場もこの現場も見たいんですけど、これだけ増えちゃうと無理。
―現場がかぶっちゃうのもあります。
小島 そうなんですよ! 今月末のたかみなの卒コンが、ももクロのドームツアーと重なってしまって…。やっぱり全部は不可能なんですよ。アイドルとの信頼関係の作り方は、いかに現場に行ってるかなので、生で観なきゃとは思うんですけど。
―例えば、ライブと原稿の締め切りが重なったらどうしてるんですか?
小島 割とライブ優先です(笑)。現場で別の原稿を書いたりして、なんとかして。『いい加減、アイドルの現場に行くの止めてもいいじゃないですか』って言われるんですけど、アイドル以外の仕事をしている編集者からは(苦笑)。
―ももクロでは、あーりん(佐々木彩夏)推しだと。それは本人も知ってるんですか?
小島 バレてますね。でもあのコはプロだし、今では僕も完全に『箱(グループ全体)推し』なので。ニュートラルな立場でいないといけないですもんね。距離を取らないと『推し補正』(推しのことは良く見えてしまう)が絶対入るので。まあ仕事でやると推しは作れなくなりますよ。
―なかなか特定のコを応援できないですよね。運営や編集部の意向とかも考えちゃうし。
小島 そうそう。でも、ももクロは申告制なんですよ。最初に取材とかに入る時、5人に囲まれて、あなたは誰推しなんですかって聞かれる。箱推しというキレイ事は許しませんよって。
「アイドル好き」は恥じらうべき?
―それはツライ! でもそういうヲタ感を歓迎する運営と、排除する運営ありますよね。
小島 気持ちのわかってる人が作ったほうが、ヲタに届くと思うんですけどね。ヲタはコイツわかってねーなってアンテナがすごいから。
―記事を書く時もですよね。ヲタ向けか、一般向けかなど。
小島 難しいですね。一応、媒体で分けて、全然違うことを書いてます。この媒体だとヲタ成分30%とか、こっちは90%まで振り切ろうとか。
―あとアイドルヲタって、プロレスオタクだった人が多くないですか?
小島 2000年ぐらいからのプロレス暗黒時代にアイドルへドバっと流れたんですよ。去年、ももクロの本を出して、ライブ会場でサイン会をやったら、並んだのがプロレスファンばかり。週プロの昔の記事を持ってきてくれる人がいたり。お互いに『まさかこんなところで会うとは』みたいな話をしました。
―アイドルって意外とプロレスのギミックを使いますよね。共通点が多い印象です。
小島 それはスタッフがプロレスオタクの世代だった人が多いから。40代でプロレスの黄金時代を通ってる人が、演出の手法としてプロレス的なものを使いたがるんですよ。AKBもももクロも興行的にそうですよね。
―常にサプライズを仕掛けてストーリーをと。逆に最近はプロレスがアイドルの手法を取り入れることもあります。DDTの総選挙は驚きました。
小島 あれは僕とDDTの高木大社長でAKB総選挙を見に行って、「これだ!」と。その数日後に総選挙をやるって発表したんです。高木大社長は『AKBから盗み取れ、プロレスが失ったもの全部持ってる』って。
―アイドルが好きな芸能人もいたり、最近はアイドル好きを公言してもいい世の中になりつつあるのかなと思うのですが。
小島 かといって、僕はアイドル好きですよーって言うつもりは全くないんですけどね。まあ本のタイトルはあれですけど(笑)。世間から見たら、それはちょっとおかしいですよねって気持ちは常に持ち続けなきゃいけないとも思うんです。
―いつか音楽好き、車好きと、アイドル好きが同列に並ぶ時代が来たり。
小島 いずれそういう時代が来るかもしれないですけど。でも僕はこのまま「ちょっと恥ずかしいな」ぐらいが、良いのかな?
(取材・文/関根弘康)
●小島和宏(こじまかずひろ) 1968年生まれ、フリーライター。89年、大学在学中に週刊プロレスの記者になる。その後、フリーで活躍を続け、近年はももいろクローバーZを中心にアイドル関連の記事を手掛ける。近著は自身の恥も晒(さら)した『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』や漫画家・所十三との共著『ももクロ画談録』(4月5日刊行予定)など
■『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』(ワニブックス 1296円[税込]) アイドルにハマった著者がアイドルオタクとして、“究極の大人の嗜(たしな)み”であるアイドルの魅力を語る一方で、アイドルを“仕事”とする苦労や悲哀を明かした一冊