経営コンサルタントの長尾一洋氏が『キングダム』から学ぶ乱世のリーダーシップをAKB48グループ2代目総監督を務める横山由依にレクチャー!

昨年12月に高橋みなみからAKB48の総監督を引き継いだ横山由依。戦国時代ともいわれるアイドル界で、リーダーとして300人以上のメンバーを従え、どんな道を歩んでいくのか? そのヒントは人気マンガ『キングダム』に! ?

計2250万部突破の大ヒットコミック『キングダム』を読み解き、乱世を生き抜くリーダーの条件を探る―

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経営コンサルタントの長尾一洋(かずひろ)氏が著書『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』を出版し話題を呼んでいる。今、この本を最も必要としている人物は誰か? AKB48グループ2代目総監督を務める、横山由依ではないか!?

そんな編集部の想像は、対談の初っぱなから的中した。

横山 本の題名を伺った時に「もしかしたら…」と感じていたんですが、序章の数ページを読ませていただいた瞬間、「この本は私のバイブルになる!」と思いました。

長尾 嬉しいですね。『キングダム』には「リーダーの思いを引き継いでいく」というテーマがあるんです。信(しん)という少年は、大将軍・王騎(おうぎ)の「国王が掲げる中華統一の理想を叶(かな)えたい」という思いを引き継ぐことで、リーダーとして成長していきます。横山さんが今それと同じ状況にあるのかもしれないということは、アイドルに詳しくない僕の耳にも入っています(笑)。

横山 はい。先日、グループを卒業した高橋みなみというリーダーから、「総監督」という肩書を引き継ぎました。本の序章でいろいろな企業の2代目、3代目の方々を集めた勉強会をされてきたと書いてありました。私もぜひ参加したいです(笑)。

初代にしかわからない苦労もありますけど、引き継ぐ人も大変なんだなってことを、今まさに実感しているところなんです。

長尾 初代、企業でいうところの創業者は、自分のスタイルで思うままに自由にやれる。ところがトップの立場を継いだ人は、「初代はこうだったのに」と常に比較されるんです。

横山 そうなんです! 人から比べられるし、自分も比べてしまいます。「たかみなさんはこうだった」「たかみなさんが前にやっていたことが正解なんじゃないか」と。

長尾 そうやって悩んでいる姿はきっと、周りから頼りなく思われちゃいますよね。

横山 よく「頼りない」っていわれます(苦笑)。

長尾 でも大丈夫。「やるしかない」って覚悟を決めれば、誰もがリーダーになれるんです。…この本で一番伝えたかったメッセージ、早々と伝えてしまいました(笑)。

引き継ぐ大変さを実感しています!

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横山 本では「リーダーの条件」を10個挙げていますね。

長尾 『キングダム』は、リーダーシップにまつわる事例が豊富なんです。10個で打ち止めにするのがひと苦労(笑)。

横山 例えば「人を巻き込み同志とできるか」「率先して範を示せるか」「前向きさ、明るさを持っているか」…。ほんまにその通りだと思うことばっかりでした。

長尾 信は奴隷の身分からスタートし、大将軍まで上り詰めようとしている。何も持たない最下層からはい上がっていく、成り上がりの面白さが『キングダム』の大きな魅力です。その過程で、自分の部隊をまとめるためのリーダーシップの手本となる将軍たちと出会うことになる。横山さんはどうでしたか?

横山 AKB48は、グループの中でチームがいくつかに分かれているんですが、そのチームごとにキャプテンがいるんです。私がキャプテンになったのは、4つ目のチームの時なんですね。それまでにいろんなキャプテンを見てきたんですよ。

NMB48という姉妹グループと兼任で活動をしていた時は、山本彩(さや)ちゃんというリーダーを見ることもできました。「いろんなリーダーの形があっていいんだ」と知ってからキャプテンになれたことは、すごくよかったと思っています。

ただ、「総監督」ってなるとひとりしか見ていないから、私もたかみなさんのマネをしなきゃいけないと思ってしまって…。

長尾 やっぱりそこの問題にぶつかりますよね。偉大なリーダーだったんですね。

横山 私が総監督になったばかりの頃は全然うまくいっていなかったです。それなのに、強がっていたんですよ。「大丈夫?」って周りに言われても、「全然大丈夫」って言ってて。でも、ある時、メンバーが「弱音も吐いていいんだよ」って言ってくれて…。弱さを隠し続けるのが強さじゃない、弱さを出せるのも強さなんだってわかったんです。

長尾 そこから変わった?

横山 変わりました。たかみなさんのマネでは勝てない、と思ったんです。

長尾 だって、誰もたかみなさんにはなれないんだから。

横山 そうなんですよね。たかみなさんは、なんでもできるリーダーでした。背中で引っ張るしスピーチも完璧でカリスマ性もあって、先陣を切るっていう感じのリーダーです。でも私は、できないことはできないって正直に言う。そうすることで、自分ができないところを周りがカバーしてくれるっていうスタイルに変わってきたんです。

長尾 信も自分ひとりの力で成り上がっていったんじゃありません。助けてくれる仲間の存在が大きかったんです。リーダーは完璧じゃなくてもいいんですよ。自分のダメなところ、できないところを補ってくれる人がそばにいてくれればいいんです。

リーダーは完璧…じゃなくてもいい!

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長尾 横山さんがリーダーシップに目覚めた瞬間って、いつなんでしょう?

横山 最初の頃は「AKB48が大好き」って気持ちだけで、毎日ただ楽しく過ごしていました。でも、たかみなさんと同じチームになって、すぐ近くでお仕事を見る機会が増えた時に「この人を支える役割をしたい」と思い始めたんです。

ああ見えて、たかみなさんって緊張しいで、スピーチの前に嗚咽(おえつ)していたりするんです。このグループをもっと良くするためにと頑張って、こんなにもプレッシャーを感じている人を助けたいなと思ったのが、目覚めたきっかけだと思います。

長尾 つまり、強いリーダーの、強さの中にある弱さを見つけた。さっきの横山さんの話と共鳴していますね。興味深いなと思うのは、『キングダム』も同じ構造を持っているんですよ。

信にとって、秦(しん)の若き国王・政は、親友を死に至らしめた仇敵(きゅうてき)なんです。ところが、政の弱さを知ることで、支えようと思うに至る。さっきまでお話を聞いていて、AKB48におけるたかみなさんは王騎なのかなと思っていたけど、やっぱり政なのかもしれない。横山さんは、信ですね。

横山 信なんや、私!(笑)

長尾 さっきツーショット写真を撮られていた河了貂(かりょうてん)は、信を助ける若くして軍師の才能を持った少女です。横山さんにとっての河了貂は誰なのかな。

横山 高橋朱里(じゅり)かもしれません。すごく熱い気持ちを持っているんですよ。若いのに話し方も私よりしっかりしているし、同世代のメンバーを積極的に引っ張ってくれます。

長尾 羌カイ(きょうかい)はどうかな? 戦士でありながら、客観的な分析力に長(た)けている人物です。

横山 今ぱっと思いついたのは、入山杏奈ちゃん。戦士ってイメージはないんですけど、私が総監督の仕事について不安がっていた時に「最初はできなくて当たり前だよ」とか、ポジティブな言葉をふとかけてくれたんです。あと、私が失敗した時に怒ってくれるのは、木﨑ゆりあちゃんですね。リーダーに対しては注意しにくいというか、何も言えない感じがあるじゃないですか。そこを、あえて言ってくれるんです。

長尾 今のお話を聞くと、木﨑さんという方は信の軍団にいる渕(えん)という副長かな。戦場で頭に血が上ってしまった信に、ズバッと厳しい進言をするんです。

横山 すごいですね! AKB48の中で『キングダム』ができてきましたね(笑)。

アイドル界も「乱世」。AKBのライバルは?

★AKB48メンバーを『キングダム』のキャラに 置き換えると……【高橋朱里=河了貂】年齢は若いが、人を動かすリーダーの気質あり。チーム4のキャプテンで横山からの信頼を受ける朱里がぴったり!?【入山杏奈=羌カイ】信とタメを張る武力ながら秘めたる美貌。AKBのビジュアルクイーンである彼女も他のアイドルに負けない戦闘力を持つ【木﨑ゆりあ=渕】酸いも甘いも噛み分けた大人な存在感で隊を支える渕。ゆりあもSKE48とAKB48をどちらも経験したベテラン戦士だ

■アイドル界も「乱世」ーーAKBのライバルは?

横山 実は、少し前から「アイドル戦国時代」と呼ばれているんです。

長尾 そっか、アイドル界も「乱世」なんですね。

横山 「乱世」です(笑)。いろんなグループが出てきているんですが、AKB48のライバルは昔のAKB48なんじゃないかと思っています。「あの頃がピークだったね」といわれる頃のAKB48を、今のメンバーで超えたいんです。

長尾 それはいい目標だと思いますよ。信たちの若い世代もね、王騎を含む「六大将軍」の時代を超えようと、命がけで戦って成長しているところなんです。

横山 その場合、どう戦っていけばいいんでしょうか。

長尾 今いるメンバーの思いを受け取るだけでなく、過去に卒業した人たちなどいろんな人の思いを受け継ぐ、それをプレッシャーと感じるんじゃなく「受けて立つ!」という気持ちが力になっていくんじゃないでしょうか。

私が経営コンサルタントとして30年来、見続けてきた企業の2代目、3代目のリーダーたちも、そうやって偉大な先代を乗り越えていきましたよ。

横山 結局、どこも一緒なんですね。アイドルもそうだし、、企業もそうだし、戦国時代も一緒。「みんな、そうやって戦ってきたんだ」と思うと、少し気が楽になりました。

長尾 本質は一緒なんです。いつの時代であれ、戦っているのは同じ「人間」ですから。

横山 たかみなさんが卒業して、本当の意味で2代目総監督としてひとり立ちするタイミングでこの本を読ませていただけて、本当に嬉しかったです。「やるしかない」と思って、乱世を戦います!

(取材・文/吉田大助 撮影/佐賀章広 デザイン/中山真志 (c)原泰久/集英社)

「『キングダム』で学ぶ乱世のリーダーシップ」 原 泰久(原作) 長尾一洋(著)/集英社刊大人気マンガ『キングダム』を『まんがで身につく孫子の兵法』の著者が「リーダーシップ」をキーワードに読み解く。現代という「乱世」を生き抜くリーダーの条件を10箇条で解説

横山由依 1992年2月8日生まれ、京都府出身。チームAキャプテン(9期生) ニックネーム=ゆいはん 昨年12月8日より、AKB48総監督に就任