当時から数多くのファンを生み、そしてオタクとして目覚めさせた『カードキャプターさくら』が20周年を記念し、再放送されている

去る4月6日、Twitterになんとも懐かしい単語がトレンド入りした。“CCさくら”――1996年に漫画家集団・CLAMPが生み出した名作『カードキャプターさくら』(以下、CCさくら)の略称だ。

同作は今年、連載開始20周年を迎え、この日、NHK BSプレミアムではアニメの再放送もスタート。冒頭のトレンド入りは、それを観た視聴者らが「懐かしいなぁ」とほんのりとしたノスタルジーに浸った結果――ではなかった!?

というのも、同日のTwitterには「CCさくらは原点にして元凶」「全てを踏み外した原因」、さらには「この再放送は終わりの始まりだ」というつぶやきもちらほら…。可愛らしい魔法少女アニメであるはずの『CCさくら』だが、一体、どんな“罪”があるというのか――。

■俺のオタク人生はここから始まった…

同作は、小学4年生の木之本桜がひょんなことから魔法少女となり、魔法のカードを集める…というストーリー。特に罪深さを感じる内容でもないのだが、問題は“オタクの心を震わせる要素”がふんだんに散りばめられているという点に? そのため現在のアラサーを中心に当時、アニメを視聴した少年少女らが“オタク堕ち”してしまったというのだ。

まず、問題なのが主人公のさくらだ。「とにもかくにも、さくらちゃんの可愛さは異常」とは、『CCさくら』がきっかけで“道”を踏み外したA太さん(30歳)の発言だ。

中1の秋に同級生からのススメで同作と出会ったA太さんは、昨今の“妹萌え”に通ずるようなやんちゃなさくらと、その愛らしい寝顔のギャップに撃沈。同作がきっかけで美少女アニメに覚醒し、その後も『まほろまてぃっく』『シスター・プリンセス』と萌え系アニメに心酔しながら、完全にオタク化してしまった。

またB男さん(32歳)は、さくらとその親友・知世の友達以上恋人未満(現に原作では知世はさくらへほんのりと恋心を抱いている)の関係にも「興奮する」と意気揚々に話す。ここ数年でオタク界に市民権を得た“百合”の世界に非常に近いものがあるというのだ。

20年前の作品であることを考えると、この時点で「妹萌え」に「百合」と、とんでもない“先取り感”が否めないが、ここで終わらないのが『CCさくら』。

被害者は男だけではない。C美さん(27歳)とD子さん(28歳)も「あんなにナチュラルにBL(ボーイズラブ)要素を入れている少女漫画は見たことがない」と口をそろえて言う。

同作には長身イケメンのさくらの兄・桃矢と、さくらの憧れの人として線の細いメガネ男子・雪兎がキーパーソンとして登場するが、作中、彼らにもまた友達以上の関係を妄想せざるを得ないシーンが…。中でも桃矢が雪兎に“壁ドン”するシーンで身悶えた女性視聴者は数知れないのだとか。彼女らは「あのふたりからBLに目覚めてしまった腐女子は少なからずいる。間違いない」と確信的だ。

ちなみにアニメでは描かれないが、原作ではさくらのクラスメイトと担任の先生が濃い仲になっている描写も。C美さんとD子さんからは「『CCさくら』は性癖の闇鍋」という名言まで飛び出した。

新世代オタクもCCさくらの“楽園”に浸れる?

■『カードキャプターさくら』は、アニメ史に残る“楽園”

そんな、今ではお馴染みのオタク要素がギュッと詰まっている同作だが、某アニメ誌編集者も、その点について「確かに、そうかもしれませんね」と言う。

「当時はまだ『萌え』という言葉はなかったものの、すでに単に『可愛い』だけでなく、どこか心をわしづかみされるようなアノ感覚が随所に散りばめられていたと思います。今では妹萌え作品でお馴染みの『はわわ』や『ほえ~』といった“さくらワード”が生まれたり、各回でさくらのコスチュームが変わる設定は女のコの変身願望を投影していたでしょうから、男女共に心を掴まれるポイントはあったと思います」

では放送当時の同作の盛り上がりはいかなるものだったのか? 先の編集者がまず挙げるのが、主人公・さくらの人気ぶりだ。

「アニメ放送当時の99年前後、さくらはアニメ雑誌の表紙も幾度となく飾った人気キャラでした。人気キャラクター投票では、さくらがアニメの放送終了後もかなりの期間、ランクインしていましたね」

加えて、同作が人気を博したワケにはいくつかの“好条件”があったからだとも分析する。

「まず、深夜アニメ黎明期で作品数も少なかった当時、NHK衛星第2テレビで放送、そして地上波のNHK教育テレビで再放送され、多くの人が視聴できたことが大きいと思いますし、加えて作画のクオリティもポイントです。キャラクターデザインも素晴らしいですし、今、見返しても違和感がないほどきれいです。

また、最近では回ごとに少し絵柄が変わると『作画崩壊だ』なんて言われることもありますが、今も昔も作画監督によって変わるのは当たり前のこと。しかし、当時はどの回のさくらでも『可愛い』と評判で、視聴者の見方も今とは少し違ったのではないかと思います」

では最後に、今の中高生が視聴しても若い世代に受け入れられるのだろうか?

「『CCさくら』には、実は悪役という悪役は出てきません。それにキャラクターが死んだり、深く傷つくこともない。最近では世界観をリアルに描こうと、あまりにも重たいストーリーになったり、鬱(うつ)展開を含んだ作品も多く、例えば重要なキャラクターが死んでしまうこともある。

しかし同作はそんな予兆もありませんから、ある意味、今の若い世代にとっては“楽園”と言いますか、羨ましい世界観だと思うかもしれません」(同編集者)

数多くのオタクを生み落した伝説の作品『CCさくら』。同作特有のハッピーなストーリーは、今の若い世代にとっても新たな安息の地として受け入れられるか…。

原罪を訴える旧ファンのみならず、再臨の動向に注目である。