イントロが鳴った瞬間に吐き気をもよおすほど『それが大事』を歌うが、キツい時期もあったという立川さん

1991年にリリースしたシングル『それが大事』が国民的ヒットを記録し、一世を風靡(ふうび)した大事MANブラザーズ・立川俊之(たちかわ・としゆき)

昨年、その後の紆余(うよ)曲折を経て出演した『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)が“神回”と称されるほどの衝撃を与え、再ブレイクが噂されている。

今回、実に24年ぶりに登場した『週刊プレイボーイ』本誌で、今、何が一番大事なのかを直撃した。

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―『しくじり先生』、かなり話題になってましたよね。

立川 オンエアの後はホントどこ行っても「あ、しくじりだ!」って言われてましたけどね(笑)。

―まあ、『それが大事』は累計で160万枚のセールスを記録しているわけで、実際はそこまでしくじってないのに。

立川 しくじりをどうとらえるかだとは思いますけど…。

―今回、『それが大事』を2016年バージョンで再録されてますが、原曲を作った当時のことって覚えてます?

立川 あの時は1枚目、2枚目のシングルが全く売れず、レコード会社から「次の曲がダメなら解雇」って言われてたんですよ。だからあのサビは、自分の気持ちを鼓舞する意味もあったというか。

―それであんなに何度も何度も同じフレーズを繰り返しちゃったんですね。「♪負けないこと 投げ出さないこと 逃げ出さないこと 信じ抜くこと」って、トータルで8セットも歌ってますから(笑)。

立川 それね、世間からは「しつこい」って言われ、自分自身、ライブで歌いながら「長いな、これ」って思ってたんで、09年バージョン(『それが大事~完全版~』)では数回カットしました(笑)。

―まさかの(笑)。でも、いやらしい話、あれだけのヒットを飛ばすと生活も一変したんじゃないですか?

立川 一変も何も、それまで風呂なしトイレなしの四畳半に住んでたのが、いきなり都心のマンション暮らしですよ。で、気がつけば会社から車を支給され、バイトしなくてもいいわけで、そりゃ人間も変わりますよ。

―調子に乗ってしまったと。

立川 乗るものといったら、クルマと調子ですよね(笑)。

イントロが鳴った瞬間、吐き気をもよおし…

―ちなみに、そういう生活ってどれくらい続きました?

立川 96年にバンドが解散するくらいまでですかね。

―その後、『それが大事』級のヒットを出せず葛藤していたという話ですが、とはいえ世間的にはあの曲のイメージが強いし、散々聞かれたそうじゃないですか、「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くこと。どれが一番大事?」って。それに対してはなんと?

立川 いや、正直もう、どれも大事じゃないっていうか…何が大事なのか全くわかんなくなってましたよね。なんだったら30代の頃、『それが大事』を歌うのすらキツい時期もありましたから。

―すると、ライブでもセットリストから外したり?

立川 いや、さすがにそれはお客さんが許してくれないから(笑)。イントロが鳴った瞬間、吐き気をもよおしたこともありましたよ。出だしのシャウト、♪ウォウオ~で、そのままオェーッてえずいちゃうみたいな(笑)。

―もはや『それが大事』が大事じゃなくなっていたと。

立川 で、自暴自棄になって酒に溺れたりね。印税はほとんど飲み代に消えました(笑)。

―そんな状態からはどうやって脱出したんですか?

立川 う~ん、脱出したのかはわからないけど、最近気づいたのは、僕は自分の業(ごう)を見失ってたんだなってことで。

―業というと?

立川 僕、「それが大事の人」なんですよ。

―知ってます。

立川 いや、だから自分はどこまでいっても「それが大事の人」なんです。もちろん、そこに矜持(きょうじ)はある。ただ、隣の芝生が青く見えて、自分の役目とはかけ離れた曲を書いたりしちゃってたんですよ。

―それはどんな?

立川 こんなオッサンに「キミを離さない」なんてラブソング歌われてもねぇ(笑)。僕はそういう役割じゃないし、それに気づいて、いろいろ開き直れるようになりました。

―そういう経験を踏まえてあらためて聞きたいんですが。結局、今、何が一番大事?

立川 それは負けないことでも、投げ出さないことでも、逃げ出さないことでも、信じ抜くことでもなくて…。

―なくて?

立川 自分にとって何が一番大事かを考え続けることが大事、なんじゃないですかねぇ。

―わかるような、わからないような…。

立川 だって、ここまで生きてきてわかったことは、「人生って何もわからない」っていうことだけですから(笑)。

―なるほど。最後に新社会人や新入生に向けてメッセージをお願いしていいですか?

立川 最初が肝心ですよ。

―その心は?

立川 自分を大きく見せようと、本来の姿とかけ離れたキャラを演じてはダメってことかな。最初にハードルを上げすぎちゃうと、後が本当に大変なんですよ。(こちらの手元を見ながら)あの、今、手に持ってるバラ、僕にくわえさせようとしてません?

―なぜわかったんですか!

立川 写真を撮る時、「『それが大事』のジャケットと同じポーズお願いできますか?」って、いまだによくバラを差し出されますもん。でもやりませんよ、絶対(笑)。

―じゃあ、せめて手に持ってもらって…どうぞ。

立川 なんであんなことしちゃったかなぁ。それこそしくじりですよ(笑)。だから最初が肝心です、最初が!

●立川俊之(たちかわ・としゆき)1991年、大事MANブラザーズバンドのボーカルとしてデビュー。4月に発売されたミニアルバム『喜楽人生』には『それが大事』の2016年バージョン、同曲のアンサーソング『神様は手を抜かない』が収録されている。7月2日(土)にはマウントレーニアホール渋谷でデビュー25周年記念ライブの開催も決定!

(取材・文/高篠友一 撮影/井上太郎)