1997年に撮影が開始されるも諸般の事情で製作が凍結された幻の実写映画『G.R.M.(ガルム戦記)』が『ガルム・ウォーズ』となって、ついに日本で公開!
原作・脚本・監督はもちろん押井守。“惑星アンヌン”という異世界を舞台に、戦うことでしか存在できないクローン戦士“ガルム”を描いた、押井ワールド全開のファンタジー作品だ。
全編英語で撮影された本作の日本公開に当たり、日本語版プロデューサーをスタジオジブリの鈴木敏夫が担当。作品に新たな息吹を吹き込んだ。実に「30年来の腐れ縁」だというおふたりにそれぞれの立場から作品について語ってもらった。
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―監督、まずは公開を目前に控えた今の気持ちから教えてください!
押井 う~ん、完成してからものすごく時間がたってるから…。
鈴木 もう飽きたみたいですよ。
押井 いや、そんなことはないんだけど(笑)。ただ、これが完成した後に2本の映画(『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』と『東京無国籍少女』)を撮ったでしょ。それはとっくに公開されてるのに「まだやってなかったのか」みたいな感じはありますね。
―鈴木さんはどうして日本語版プロデューサーを引き受けることに?
鈴木 簡単に言うと(製作を担当した)プロダクションI.Gの石川(光久)さんに頼まれたからですね。ホントは僕、めちゃくちゃ忙しいんですよ。今、ジブリが開店休業状態だから「暇だろう」って、いろんな人が毎日訪ねてくる。だから正直言うと、こんなことしてる暇なかったんです。
押井 ウソウソ、すごい暇なんですよ(笑)。
鈴木 ただ、石川さんに頼まれて、僕が見たのは英語版だったんだけど、それを2度3度と見るうちに「役者のセリフに抑揚がなくて、非常に平板だな」と思ったんですよ。もちろん、意図的な演出なんだろうけど。で、「もしセリフの内容を一切変えず、この平板なしゃべり方に情緒を入れてみたらどうなるんだろう」と思ったんです。ずいぶん見やすくなるんじゃないかと。映画自体はいつものように個性の強い押井作品だから(笑)。
監督が気にする日本語版の完成度
―日本語版を見た監督の印象は?
押井 僕、最後まで見せてもらえなかったんですよ。
―というと?
押井 僕以外のスタッフは全員見たのに、僕だけずっと見せてもらえなかったんです。
鈴木 なんでそんなことになったんだろうね。
押井 何言ってるんだよ! あんたがそうしたんだろ(笑)
―鈴木さんの差し金なんですね(笑)。
鈴木 やっぱりね、見せたくなかったんですよ。たとえ日本語版でも、他の要素が混じることは、監督は体外イヤがるから。だから僕は「押井さんには公開後に見てもらえ」って言ってたの。結局、いろいろな事情でその案はダメになったけど。
押井 でも見てみたら思いのほか良かったですけどね。その前にイタリア語版というのがあって、特にその出来がすさまじかったから(苦笑)。それと比べたら違和感は全くなかったです。
鈴木 僕ね、英語版と日本語版を両方見たある人からこう言われたんですよ。「どこを編集したんですか?」って。それを聞いた時、「この日本語版は成功だ」と思いました。
押井 自画自賛してる(笑)。
―そのぐらい作品の雰囲気が変わったってことですね。
押井 まぁ、僕も心のどこかで公開する時は日本語版も必要なんだろうとは思ってましたから。あとは英語版とどっちを選ぶかはお客さん次第なわけで。
(取材・文/井出尚志<リーゼント>、撮影/佐賀章広)
●このインタビューの続き、後編は明日配信予定!
『ガルム・ウォーズ』 (C)I.G Films
“戦いの星”アンヌンを舞台に、カラ、スケリグ、ウィドの3人の戦士が、創造主ダナンが作ったクローン戦士「ガルム」の真実を求めて旅する姿を描く。『エイリアン2』のランス・ヘンリクセンをはじめ、外国人俳優を起用し、全編英語で撮影された(5月20日より上映中)
●押井守 1951年生まれ、東京都出身。代表作に『機動警察パトレイバー』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』など。近年はアニメだけでなく実写映画も多く手がける
●鈴木敏夫 1948年生まれ、愛知県出身。映画プロデューサーとして数多くのヒット作品を世に送り出す。今回『イノセンス』以来、12年ぶりに押井監督とタッグを組んだ