“世界のニナガワ”と呼ばれた演出家・蜷川(にながわ)幸雄氏が今月12日、多臓器不全のため死去。葬儀・告別式には多数の著名人が訪れ、別れを惜しんだ…。
タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に独自の視点で斬り込む!
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「稽古中に灰皿が飛んでくる」という逸話で有名な蜷川さんの演劇への情熱と功績は、訃報を受けて何度も報じられました。
まさに仕事に生き、最後まで仕事への熱意を燃やし続けた蜷川さんが、主夫として幼い娘の育児をしていたというのは意外かもしれません。
写真家で長女の実花さんが生まれた当時は女優である妻が家計を支え、蜷川さんは娘が5歳になるまで家事と育児をしていたのです。
2013年に蜷川さんにインタビューする機会がありました。
稽古場にお邪魔したのですが、インタビューではとても穏やかでチャーミングな方でした。仕事がなかった頃の家事や育児の経験を通じ、日々の生活の中に様々な切実な思いがあることを知ったそうです。
そして、舞台は評論ではなく、感情で見てほしいとおっしゃいました。あれだけ偉大な実績を積んでもなお、「理解されたい」という強い思いがあるのだとも。
生きることは絵にならないけれど、身を切るような実感が伴うもの。蜷川さんはそれを美しく鮮烈な舞台に昇華させました。そこには確かに、たぎるような血が通っていました。心よりご冥福をお祈りいたします。
●小島慶子(Kojima Keiko) タレント、エッセイスト。初めて見た蜷川さんの舞台は『身毒丸』。「母さん、もう一度僕を妊娠してください!」と身毒丸役の藤原竜也さんが継母役の白石加代子さんに叫ぶ場面に度肝を抜かれ、舞台の熱量に圧倒された