1996年の1月から5月まで週刊プレイボーイで人生相談を連載していただいた大沢在昌氏(左)とファンキー加藤(右) 1996年の1月から5月まで週刊プレイボーイで人生相談を連載していただいた大沢在昌氏(左)とファンキー加藤(右)

6月17日、東京・六本木。取材場所に現れたファンキー加藤は、3週間前に比べ、ひと回りしぼんで見えた。それもそのはず、W不倫の記者会見からわずか10日。いつもの加藤でいられるはずはない。

そう。この10日余りで、ファンキー加藤は自らがつくった泥沼に溺(おぼ)れ、血へどを吐き、糞(くそ)にまみれた。

しかし―。先方からのお断りがない限り、予定されていたすべてのイベント、仕事に出させてくださいと頭を下げ続けた。期せずしてこのタイミングで人生相談の“雄”、作家の大沢在昌氏との対談が決まっていたのも何かの運命かもしれない。

「よろしくお願いします」

腹の底から声を出し、頭を上げた加藤のその目は、前だけを見つめていた―。

* * *

加藤 このタイミングで対談を受けていただき、本当にありがとうございます。

大沢 もしかしたら、この話も飛んじゃうんじゃないかと思ったんだけどね。こうしてオレの前に堂々と出てきたということだけで、あなたと対談する意味はあると思うよ。

加藤 いや、それは……。

大沢 そんなことよりオレが気になってたのは、なんでオレだったのかなと。そっちのほうが気になって。なんでオレ?

加藤 週刊プレイボーイの創刊50周年記念企画として、毎月「レジェンドたちと語る旅」という対談をさせていただいていて。週プレで人生相談をされていた大沢さんに是非ということで、前々から僕からお願いしていました。

大沢 あぁ、そういうことね。でもさ、最初、オレ、断ったんだよね。開高健(かいこう・たけし)さん、柴田錬三郎さん…週プレで人生相談した人はみんな死んじゃうから(苦笑)。

女にもててぇ、いい女とやりてぇ…

加藤 大沢さんが、『鮫(さめ)と飲みあかそう!』を連載していたのは1996年でした。

大沢 バブル崩壊のちょっと後かな。それ以前…80年代の初めくらいから週プレとは付き合いがあったんだけど、まぁ、とんでもないばかな連中の集まりでね。突然、「先生、スケベ光線について教えてください」って電話かけてくるんだからさ。

加藤 なんですか、それ?

大沢 当時、島地(勝彦)というとんでもないオヤジが編集長をしていて。99%は嘘なんだけど、残りの1%でまれに奇跡を起こすというね。その島地さんが、どこかの飲み屋で「銀座、六本木でモテる男は目からスケベ光線を出している」というほら話を吹き込まれて。よし、大沢に聞いてみようとなったっていうんだよ。

加藤 本当にあるんですか、そのスケベ光線は。

大沢 あるわけないじゃない。でも、電話をかけてきたこれまたばか野郎の編集者、小峯(隆生)はどこまでも大まじめで。「先生、そこをなんとか」って言うからついオレも調子に乗って「わかった、どうしても知りたいならこっそり教えてやる」って答えちゃったりしてさ。ほんとばかな時代だったよね(笑)。

加藤 すごい…。話がすごすぎてついていけません。

大沢 読者も、編集者もそうだけど、こっちも売れてぇとか、女にもててぇとか、いい女とやりてぇとか、考えてることは基本一緒で。それを変にオブラートにくるんだり、斜に構えたりせず、とにかくストレートに誌面にぶつけていた時代だったよね。

この世に無償の愛なんていうのはない!

加藤 当時はどんな人生相談が多かったんですか。

大沢 たまに、ドラッグがやめられないというのもあったけど、基本的には恋愛関係が多かったね。覚えているのは「たったひとりの理想のパートナーとうまくいっていない。その人を失ったら、もう二度と最高のパートナーとは巡り合えない」というのがあって。

加藤 どう答えたんですか?

大沢 世界中、すべての人にとってひとりしかパートナーがいなければ、人類はとっくに滅びている。いくらでも取っ替えが利くのがパートナーなんだと答えた記憶がある。だから、そんなもの気にせず、どんどんいけと。

加藤 ガツンと背中を押す回答です。

大沢 「なかなか会えない理想の彼女と、ご飯を作ったり、洗濯をしてくれたり、掃除してくれたり、無償の愛を捧(ささ)げてくれる彼女、どちらを取るか、悩んでいます」というのもあった。

加藤 それにはなんと?

大沢 この世に無償の愛なんていうのはない。百歩譲って、自分が捧げることに無償の愛はあるかもしれないけど、人からもらうのに無償の愛なんてないんだと。そこはよく考えないと、とんでもない目に遭うぞって脅かしておいた(笑)。

◆この続きは『週刊プレイボーイ』28号(6月27日発売)「ファンキー加藤 レジェンドたちと語る旅 第6回戦 大沢在昌」にてお読みいただけます!

(取材・文/工藤 晋 撮影/熊谷 貫)

大沢在昌Osawa Arimasa 1956年3月8日生まれ、愛知県出身。79年『感傷の街角』で第1回小説推理新人賞を受賞し作家デビュー。91年『新宿鮫』で第12回吉川英治文学新人賞と第44回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。94年『無間人形 新宿鮫4』で第110回直木賞受賞。2014年『海と月の迷路』で第48回吉川英治文学賞受賞。近著は『魔女の封印』(文藝春秋)。公式サイト『大極宮』【http://www.osawa-office.co.jp/】

ファンキー加藤Funky Kato 1978年12月18日生まれ、東京都出身。自身初主演映画『サブイボマスク』(公開中)の主題歌、『ブラザー』が絶賛発売中。7月23日、24日「I LIVE YOU 2016 in 横浜アリーナ」開催決定。ファンキー加藤の最新情報は公式サイトまで。【http://funkykato.com/】ツイッター【@fmb_funkykato】