若い世代のクルマ離れが言われて随分経つが、そんな中、BS日テレで4年以上も続いている人気のカートーク・バラエティをご存知だろうか?
芸人の中でもクルマ好きとして知られる、おぎやはぎがMCを務める『おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR,NO LIFE!』だ! 毎回ゲストの歴代の愛車を実際に見ながら、乗りながら、歩んできた人生を語ってもらう…という内容だが、これがクルマ好きのみならず、多くの視聴者のハートをつかんでいるのである。
芸能界にも番組のファンが多く、「出たい!」という大物ミュージシャンや大御所俳優が目白押しなのだとか。そこで、この時代に長寿番組となっている秘密をディレクターの山本浩史さんに迫った!
―クルマ離れなどと言われる中、よくこの企画が通ったと思うのですが、そもそもスタートのきっかけは?
山本 おぎやはぎと別の番組をやっている時、プジョーを紹介する場面があったんです。そうしたらふたりがやたら詳しい。僕自身は特に好きってわけじゃないから、彼らがクルマ好きかどうかにも関心がなかったんですよ。で、その時に「いつかクルマ番組をやりたい」というんです。だから「じゃ、企画が通ったらやってくれます?」と言ったら「もちろん」と。それで僕が企画書を書き始めたのがスタートですね。
―すぐに決まったのですか?
山本 いやいや。時間がかかりました。ご存知のように今はクルマにとって、なかなか厳しい時代ですから。でも、そもそも僕はクルマだけを扱う番組にするつもりはなかったから。
クルマって、家の次に高い買物じゃないですか。皆さん、そうだと思うけど、若い頃は高いクルマは買えない。だからクルマの変遷を見ると、自身のステップアップにリンクするはずだ、と。クルマを通して、ゲストの人生を語ってもらえれば、興味のない人にも見てもらえる番組になるんじゃないかと思ったわけです。
―担当者がクルマに興味なかったっていうのは意外! マニア的な人が作っている番組だと思っていました。
山本 だから「カートーク・バラエティ」なんです。たまに視聴者から“話が長過ぎる”と言われますけどね(笑)。もちろん登場してくるクルマとゲストの人生がリンクしているのがベストですよ。でも、たとえ話が脱線しても、その人の人生が透けて見える話になればいいと思っています。
―企画が決定した時、おぎやはぎの反応は?
山本 “マジでっ!”と。ふたりがやるって言うから一生懸命に企画書を書いて通したんだから「やってよね。逃げられないよ!」って(笑)。でも、喜んでくれたからよかったですよ。
視聴者から“話が長過ぎる”と言われますけどね(笑)
―それが放送開始から5年で、ゲストも130人以上! アイドルからスポーツ選手、大物歌手に大御所俳優まで本当にバラエティ豊か。キャスティングも苦労されているのでは?
山本 クルマ好きから探し始めたんですが、すぐにネタが尽きてしまったんです。だから…常に探していますね(笑)。例えば、女優の池上季実子さんは別のバラエティ番組で「私、クルマがないと生きていけない」と仰っているのを見たんです。それがオファーのきっかけでした。
―他にも藤竜也さんや伊東四朗さんなどビッグネームが出演されていますよね?
山本 伊東さんは角野卓造さんに勧められたらしいです。“伊東さん、クルマ好きなんだから、あの番組に出ないとダメだよ”と。あと西岡德馬さんは、池上さんが出演された時に“ジャガーが欲しくて、德馬さんに聞いたことがあるんです”と仰っていて。それでオファーしてみよう、と。
―芋づる式にゲストのラインナップができているみたいですね。
山本 おぎやはぎに直談判してくる人もいるんです。業界内視聴率が異様に高い(笑)。一番印象的だったのは木梨(憲武)さん。100回記念でとんねるずに出演してもらったんですが、放送終了後に木梨さんから小木さんに連絡があったそうです。「おまえ、あの番組、やべーぞ。スッゲー、見られてるな!」と。業界の中からも外からもすごく電話やメールがあったみたい。「見たぞ」って。
―中には、シーマひと筋25年の伊藤かずえさんもいれば、逆に免許取り立ての篠田麻理子さんのようにクルマをあまり所有していないゲストまで…。
山本 確かに。その最初は第21回に出て頂いた春風亭昇太さんでした。彼はわずか3台。それしかないのは初めてで…挑戦でしたね。“番組として成立するのか?”と。それで考えたのが「プレゼン形式」。こんなクルマに乗ってみてはどうでしょう?と提案する。それがうまくいったんです。だって昇太さん、番組をきっかけにマツダ・キャロルという旧車を購入されたそうですから。
―そもそも毎回、古いクルマを集めるのは大変ですよね?
山本 古くても人気の車種なら難しくないんです。一番困るのは国産の大衆車。トヨタ・カローラとか、日産サニーとか。
―そういう場合は、外せばいいのでは?
山本 得てして、そういうクルマに思い出が詰っているんですよ。それこそお金がなくて、それしか買えなかったとか、家族との思い出のクルマだったとかね。そう聞くと、やっぱり用意してあげたいじゃないですか。
さがすのが大変なのは、国産の大衆車!
―一番苦労したクルマ、覚えていますか?
山本 よゐこの濱口優さんからツートーンカラーの国産セダンを要望されまして。1色なら、すぐ見つかったんですが、ツートーンとなると…やっと九州で見つけて、フェリーで運びました。
―ひぇーっ。運送料だけでもだいぶかかってますね。
山本 そこはプロデューサーになんとかしてもらって。でも、おかげで濱口さんは大喜び。そんな姿を見ると、作り手冥利(みょうり)に尽きますね。それに番組的にも面白くなるんです。というのも、実際にクルマを目にしたり、乗ったりすると、一瞬で当時のことを思い出すようで。ドアを開ける音やシートに座った感触…それによって打ち合わせの時には思い出せなかったことが一気に甦ってくるみたいです。
―車内のトークはプライベートのドライブみたいですもんね。
山本 台本にない話が出る時が多い(笑)。僕もあまりコントロールしないようにしています。そのほうが面白いから。その結果、ゲスト本人が楽しんでくれればいい。だからマネージャーさんによく言われますよ。「こんなに本人が楽しそうに仕事しているのは久しぶりです」って。それは僕らにとって最高の褒(ほ)め言葉ですね。
―一番、楽しんでいたのは誰でしょう?
山本 印象的なのはオードリーの若林正恭さん。「楽しすぎて吐きそう」って言ってました(笑)。挙げ句の果てに、この番組の収録当日の夜にあった、自分のラジオの生放送で全部話しちゃったんですよ。当然、こっちはオンエア前なのに…ひどいでしょ(笑)。
―でもクルマって、それくらい人生に関わっているということですよね。
山本 クルマが人生を振り返る時のトリガー(思い出のスイッチ)になっているんだな、と。加えてウチの番組は、やっぱりおぎやはぎのふたりがMCを務めていることが大きい。彼らほどの“人たらし”はいないですから。どんな大物でもスルッと懐(ふところ)に入っちゃう。そしてゲストの本当の姿を見せちゃうんですよ。
番組に“大嫌いだった俳優さんが、この番組をたまたま見て大好きになった”という投書が届いたこともあります。つまり、その俳優さんの素の部分を見たら意外にもかわいかったとか、そういうことなんでしょうね。
―まだまだ続きそうですが…これからはどんなゲストが登場するのでしょう?
山本 視聴者の皆さんが“えっ? この人とクルマ”って思うような人に出てもらいたい。クルマっていろいろな愛し方があると思うんです。熱愛もあれば、冷めた愛もある。愛のカタチは様々でもクルマがあることに変わりはないし、だったらそこにストーリーはあるわけです。だからウチの番組は“愛車遍歴”なんですよ。
(取材・文/長嶋浩巳)
■『おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR, NO LIFE!』
車をこよなく愛するおぎやはぎが自動車評論家・竹岡圭とともにゲストを迎え、その「愛車遍歴」を紹介していく。“愛車遍歴を辿“たど”れば、その人の人生が見えてくる!”をキーワードに繰り広げるカートーク・バラエティ。〇7月9日(土)のゲストは笑福亭笑瓶、7月16日、23日(土)はGLAYのHISASHIが2週連続で登場!(BS日テレで毎週土曜22時~)最新情報は公式HPにて http://www.bs4.jp/aisya_henreki/