イギリスのEU離脱を愚かと冷笑する声は、ヨーロッパ大陸のサッカー界、映画界からも上がっている。
まずはサッカー。「EU離脱によって、イングランド・プレミアリーグは没落する」と断言するのは、フランス紙『ユマニテ』のシャルリ・オードマン記者だ。
EU加盟国出身のサッカー選手はクラブとの契約が満了した場合、EU内の他国リーグに自由に移籍できる。EU市民であれば、外国人選手扱いとならないからだ。
「EU離脱でプレミアリーグは移籍自由の恩恵を失うことになります。イギリスは就労ビザ取得に厳格で、収入、素行、健康、学歴など一定のハードルをクリアしないと発給されません。しかも、外国籍の選手がイギリス国内でプレーするには代表出場歴なども要求されます。これだけビザ発給要件が厳しいと、プレミアリーグでのプレーを諦める選手が続出するでしょう。
例えば、現在、プレミアリーグにはフランス国籍の選手が14人いますが、レスター所属で15~16年シーズン優勝の立役者のひとりであるエンゴロ・カンテは、代表出場歴が不足しているためイギリスのEU離脱後はビザを取得できず、チームと契約できなくなる恐れがあります」
また、イギリスでは18歳以下の就労は雇用法に触れるため、EU諸国から18歳未満の有望選手を青田買いすることもできなくなる。
「つまり、プレミアリーグは欧州大陸に対して閉鎖的になるわけで、その分、才能ある選手を獲得できなくなってしまう。これではプレミアリーグの面白さが減ってしまうのは当然でしょう」
映画界への影響も!
それでは映画は? イギリス映画界は米ハリウッドと組んで、『007』シリーズをはじめとした世界的ヒット作を数多く手がけてきた。
だが、離脱後はそのパワーを失うと、ドイツ週刊誌『シュピーゲル』のヨハン・ボーヘンハイム記者は予言する。「EUには『MEDIA』プログラムという映画産業振興策があり、加盟国がEU諸国を題材にした映画を撮る場合、資金援助を行なっています。イギリスもこれまでに、ここから日本円で153億6200万円を支給されています。ところが、離脱後はこの援助がもらえなくなる。今後、イギリス映画界は深刻な製作費不足に直面することになります」
また、イギリス国内での撮影も少なくなりそうだ。ボーヘンハイム記者が続ける。
「これまで『スター・ウォーズ』や『アベンジャーズ』などのハリウッド大作は英パインウッド・スタジオで撮影されてきました。これは製作費にかかる税金の25%を免除するという、EUの芸術振興における優遇税制措置を受けてのもの。
しかし離脱後はその恩典がなくなります。今後、ヨーロッパで製作されるハリウッド大作は、税が減免されるイタリアのチネチッタ・スタジオ辺りに場所を移して撮影されることになるはず」
イギリス映画界にとって、ハリウッドへのスタジオ貸しはドル箱だった。それが先細りになる。これでは資金難で『007』シリーズの自国製作もおぼつかなくなるかも。
EU離脱はイギリスのエンターテインメントにとって、「悪い選択」だったというほかないだろう。
(取材・文/本誌ニュース班)