映像から挙動まで画期的にリアルになった『グランツーリスモ』の新作『グランツーリスモSPORT』。
それだけではない。FIA(国際自動車連盟)と組んで世界初の「デジタルライセンス」を発行するというのだ。
そこでプロデューサー山内一典(やまうち・かずのり)氏を先頃開催されたニュルブルクリンク24時間レースの会場で直撃した!
■グラツーとFIAの強力タッグが実現
―今年まで8年連続でニュルを走ってますけど、その経験というのは11月発売の新作『グランツーリスモSPORT』(以下、GT)に役立ってます?
山内 役立ってますよ、確実に。レースもゲーム作りも、どっちも勝負事であり、実は戦争なんですよ。人間と物と情報を総動員してやる戦争であって、そういう意味で両者は極めて近い関係にあると。
―人間と物と情報を総動員した新作のGTは異次元レベルの進化を遂げた、と大きな話題になっています。
山内 プレイステーション4という新しいハードウエアは、GTを作りやすかったですね。アーキテクチャーが人間に優しいか優しくないかの違いで、人間の創意工夫は、結構そのまま盛り込めますから。
―ハードウエア以外で、今回の進化のポイントはどこですか?
山内 社内の雰囲気づくりが大きかった。僕はここ2、3年そこに集中していたんです。「スピリット」とか「レガシィ」の伝承ってスゴく大事なので。
―その「スピリット」とか「レガシィ」の中身は?
山内 僕らはこのゲームの世界で過去20年間ずっと勝負してきて、一度も負けていない。その勝ち方をスタッフ200人全員にしっかり伝えられたのは大きいと思います。
―なるほど。で、GTの新作で最も知りたいのは、自動車ゲームの世界で初めてFIA(国際自動車連盟)と組むというとんでもない試みをしているところですよ。この経緯というのは?
山内 3年前、ありがたいことにFIAのほうから「何かできないか?」という打診がウチにあって。それで生まれたコンテンツなんですよね。
バーチャルの世界からリアルを変える
―FIAと組んだことで、具体的に何ができるように?
山内 ふたつあります。まず「スポーツモード」で行なうチャンピオンシップ優勝者は、現実のモータースポーツのチャンピオンと同様にFIAのセレモニーで表彰される。
―ほう! もうひとつは?
山内 「FIAグランツーリスモ デジタルライセンス」の発行ですね。GTをやって勝つことでモータースポーツライセンスが取れるんです。
―具体的には?
山内 ゲーム内で「マナー」だったり「スポーツマンシップ」だったりと、一定の条件を達成することで、本物のモータースポーツライセンスと同等の価値を持つ「FIAグランツーリスモ デジタルライセンス」(*)が発行されます。
―ライセンスを取得すると何ができるんですか?
山内 その国のサーキットで走行する資格が得られます。僕らは、そうやってGTから“新しいモータースポーツの姿”を提案しようと。
―スゴい試みですね。
山内 でも、すでにGTのトッププレイヤーを現実のレーシングドライバーとして育てる「GTアカデミー」にしても、各自動車メーカーさんに(ゲームの中だけで走るが、時には市販も視野に入る)コンセプトカーを作ってもらう「ビジョン グランツーリスモ」にしても、バーチャルの世界から企画を発信することでリアルを変えてます。
―実際、ルーカス・オルドネスっていう生身のレーサーを「GTアカデミー」は生んでいますよね。
山内 ビジョン グランツーリスモにしても、コンセプトカーを作ってもらうことで各メーカーさんの中にスポーツカーのDNAが宿る。そうすると未来のプランに影響を与える可能性はあるし、僕らが想像もつかないスポーツカーが誕生するかもしれない。
*FIAグランツーリスモ デジタルライセンスの参加表明国・地域については現在調整中。詳しくは『グランツーリスモ』公式サイトhttp://www.gran-turismo.com/jp/をご参照ください
■次回配信予定の後編では、山内氏がニュルを走る理由、レーサーもハマるGTのヒミツに迫る!
●山内一典(やまうち・かずのり) 1967年8月5日生まれ、千葉県出身。ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデント。ドライビングシミュレーター『グランツーリスモ』プロデューサー。趣味はクルマ。サーキットも攻めまくる。愛車はGT-R、ランエボ、フォードGTはじめ、自ら世界のスポーツカーを所有している!
(取材・文/小沢コージ)