平成ライダーシリーズの頂点に立つ白倉伸一郎プロデューサーが『アマゾンズ』に込めた思いとは?

仮面ライダー生誕45周年にあたる今年、東映が「Amazonプライム・ビデオ」と組んで『仮面ライダーアマゾンズ』(全13話)を配信。

この作品は1974~75年にかけて放送された仮面ライダーシリーズ第4作『仮面ライダーアマゾン』を原典としながらも、設定やストーリーをほぼ一新したリブート(再起動)ものだ。

これを手がけた東映の白倉伸一郎プロデューサーは、2000年に放映を開始した『仮面ライダークウガ』から続く平成ライダーシリーズの制作に深く関わり、東映の取締役となった現在は、いわば平成ライダーを率いる頂点ともいうべき人物。しかし、初期の平成ライダーシリーズで行なった挑戦的な試みが近年のシリーズでは失われていると憂慮していたという。

そこで、仮面ライダーシリーズにおいて今でも異色作といわれる『アマゾン』の力を借り、「ライダーシリーズにもう一度“トゲ”をもたらしたい」と宣言。

なぜ、白倉氏は自らが制作してきた平成ライダーの世界に危機を感じるのか? 7月から『アマゾンズ』のテレビ版(BS朝日、TOKYO MX)も放送開始された中、その真意を訊(たず)ねるべく氏を直撃した――。

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―まずは「Amazonプライム・ビデオ」で『仮面ライダーアマゾンズ』が配信されることになった経緯を教えてください。

白倉 Amazonさんから「仮面ライダーみたいなことができないですかね?」とご提案を受けて、「それだったら『仮面ライダーアマゾン』でしょう!」と。まず、笑いがとれるじゃないですか。「アマゾンをやります」「どこでやるの?」「Amazonでやります!」っていう(笑)。ただ、打合せしていて困ったのは、時々どっちのアマゾンの話をしているのかわからなくなるということがありました(笑)。

―ツカミはOK!だと(笑)。今年3月の制作発表会で、白倉さんは「最近のライダーは面白くない」。だから「ライダーシリーズにもう一度トゲのあるライダーをもたらしたい」と発言しました。その真意は?

白倉 あれはフカシですけどね(ニヤリ)。ああでも言わないと見向きもされないでしょう。「Amazonで『アマゾンズ』をやる」となると、ある意味、出落ちみたいなものがあるじゃないですか。それに対するカウンターじゃないですけど、「いや、意外と本気かも!」と思っていただけるかなと。

―しかし、「今は『クウガ』や『アギト』のようなことができない」とも仰っていました。具体的には何ができなくなっているんですか?

白倉 シリーズを長く続けていくと、自主規制っていうんですかね…積み重ねていくことによって、どんどん良いコに、丸くなってきてしまう。“いわゆるヒーローもの”っぽくなっていくんです。

最初は挑戦し続けていたものが、良くも悪くもノウハウが構築され、いつのまにか「仮面ライダーはこう作るもの」という謎の方程式が出来上がって、その枠からなかなかハミ出せなくなってきてしまった。それは果たして本当にいいことなんだろうか…それを確かめるには他のことをやってみないと検証しようがないと思ったんです。

「変身」「敵と闘う」の意味が軽くなってしまった

(c)2016「仮面ライダーアマゾンズ」製作委員会 (c)石森プロ・東映 主人公・水澤悠が変身した「仮面ライダーアマゾンオメガ」

―洗練された反面、パターン化して冒険できなくなったということですね。

白倉 TV番組の一般論でいくと、お客さんというのは「仮面ライダーを知らない人たち」なんです。その人たちに興味を持ってもらい、面白く観ていただくことが当たり前のゴールなのに、だんだんその感覚が鈍っていく。仮面ライダーはTV、映画、Vシネと様々なメディアで展開していますが、各々にターゲット層が違います。もちろん、間口としてはTVが一番広いですけど、その他は積極的なお客さんに支えられています。

本来はメディアごとに使い分けないといけないのに、どれも同じ感覚で、コアなファンの人向けに作ってしまう。これは誰が悪いとかではなく、そうなってしまうものなんです。

―実際、『アマゾンズ』を製作するにあたり、スタッフや脚本家に従来の作品との具体的な差別化を要望したわけですか? 自主規制しなくていいよ、みたいな。

白倉 そういうことは特に言わなかったですが、「ニチアサが敵だ」とは言いました(笑)。*ニチアサ=テレビ朝日の子供向け番組が放送される日曜朝の時間帯

―例えば、2002年放送の『龍騎』には13人もライダーが出てきて、中には凶悪犯や悪徳刑事、占い師のライダーまでいて、主人公を含めて全員で潰し合いをするという衝撃的な展開で、しかも最終回の前に主人公が死んでしまいました。「これは果たして仮面ライダーなのか?」と思いながら、その前代未聞さにハマったファンも多いと思います。しかし、最近のライダーにはその頃のハチャメチャさがあまり感じられませんね。

白倉 そもそも仮面ライダーというのは、本郷猛という男がショッカーに拉致(らち)されて、改造されてバッタの化け物になりました、という話なんです。そのバッタの化け物がクモの化け物やコウモリの化け物と闘うわけですけど、バッタの化け物以外の背景は描かれない。立場は同じであるはずなのに。ドラマ性はバッタ以外の化け物にもあるんだろうけど、そこは掘らない。では、なぜバッタの化け物だけは掘り下げて、それ以外は掘り下げないのかといったら、そこに理屈はないんです。「そう決めたから」というだけでね。

―その点、『アマゾンズ』は原作の世界観が反映されていますよね。薬剤を投与された人間がアマゾンと呼ばれる化け物に進化し、正義のアマゾンと悪のアマゾンが入り乱れながら物語が進行していきます。

白倉 『アマゾンズ』の場合も、主人公も敵もアマゾンには変わりない。仰る通り、原作の世界観を踏襲しており、基本は同じです。仮面ライダーにとって、「変身する」という現象と「敵と闘う」という行為が一番重要だと思うんですが、シリーズを重ねるうちにそれらの意味がだんだん軽くなってきてしまった。でも、ひとりの人間が化け物に変身するんですから、これは人生の大転機なわけですよ!

さらに、どうしても共存できないアマゾンが出現して、その敵と闘わないといけない。「変身」「敵と闘う」というこのふたつの要素にドラマの全てがあるんです。ところが、なぜかライダーをやればやるほど、その意味がオザナリになってしまう。

しかし一方で、そういった本質を掘り下げすぎると、娯楽にならなくなっちゃうんですね。やっぱりお客さんの多くが期待するのは「僕は人間なのかアマゾンなのか」と主人公が悩む姿より、決め台詞を叫んでカッコよく変身して敵を倒す場面ですから。だから、その辺のバランスやサジ加減をどうするのかっていうことは常に考えますね。

足掻(あが)かなくなったら仮面ライダーではない

(c)2016「仮面ライダーアマゾンズ」製作委員会 (c)石森プロ・東映 もうひとりの主人公・鷹山仁が変身した「仮面ライダーアマゾンアルファ」

―原作の世界観を踏襲しているという意味では、『アマゾンズ』は異色ではなく、むしろ仮面ライダーの“本流”なのではないでしょうか?

白倉 いや、何が本流かというのは人によって違うでしょうし、石ノ森章太郎先生が描かれた原作に回帰するのが絶対的に正しいのかといえば、そういうわけでもないでしょう。というのも、作品にしっかりした原理原則があれば、人によってこれだけ解釈が変わったりしないですよ。そこがある程度アバウトなので、いろんな解釈があり得て、これだけのバリエーションが存在するわけでしょうから。逆に正解がわからないからこそ、正解に近づくべく足掻(あが)かないといけないんです。

―まるで人生のようですね! では、白倉さんにとっての仮面ライダーの解釈とは?

白倉 長年やってきた中で多少は変わってきているんですけど、まずひとつは「同族争い」、次に「親殺し」、最後に「自己否定」、この3つですね。自分と同じように改造された怪人と闘い、自分を造ったショッカーと闘い、それを倒したら残った怪人は自分だけになるから、最後は自分を否定しないといけなくなる。

-確かにその通りなんですけど、そう言われると実に深い、というか暗い話ですね。

白倉 真っ暗ですよ、仲間とも親とも自分とも折り合いが悪いっていう(笑)。しかし、仮面ライダーに限らず『サイボーグ009』もそうですし、これが石ノ森先生の作家性なんでしょうね。もしかしたら創作のモチベーションだったのかもしれませんけど、おそらく頑張れば頑張るほど、自分に誠実に生きれば生きるほど、自己否定にしかならない。自分とはなんなのか?と悩む。生きるってそういうことなんですよね。

おそらく石ノ森先生はそれを理屈で考えたわけではなく、ご自身の内側から湧き上がってくるものを描いていったらこうなったということなんでしょう。この、やむにやまれぬ足掻きみたいなもの…その精神性は受け継がなければいけないと思います。足掻かなくなったら仮面ライダーではない、「これが正解なんだ」と結論づけてしまったら、それはもう仮面ライダーではないと思うんですよ。

―『アマゾンズ』にはその精神性が表れていますね。大人向け作品と言われていますけど、子供が観てもそれなりに理解できるんじゃないでしょうか?

白倉 そうですね。僕自身を振り返っても、仮面ライダーを観ていて「これは同族争いで親殺しの話なんだな」って漠然と思ったのは小学校低学年の頃でしたから。

―お話を聞いていて思ったのですが、『アマゾンズ』は本流でもなく異色でもなく、実は“源流”なのかもしれませんね。

白倉 お、そうきましたか。それ、いただきます(笑)。

―是非(笑)。では、白倉さんご自身の源流はなんでしょうか? 子供の頃や青春時代に影響を受けた作品などは?

白倉 あらゆるものに影響を受けてきました。仮面ライダーはもちろん、『ウルトラマン』『宇宙戦艦ヤマト』『ルパン三世』『機動戦士ガンダム』、一連の宮崎駿・高畑勲アニメ…何かひとつの作品にドハマりしたということはないですね。世代的にいろんなものがありすぎたのかもしれない。『スーパーマン』は来るわ、『スターウォーズ』は来るわ。

―最も豊かな時代だったかもしれませんね。

白倉 ええ。凄いなって思ったのは『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』というイギリスの児童文学があって。小学校から中学校に上がる頃に読んだのかな。『ロード・オブ・ザ・リング』じゃないけど、虚構の神話みたいな話です。

自分たちの生活圏を追われたウサギの民族大移動の物語なんですが、ウサギの社会が非常に緻密に描かれていて、そこには独自の宗教や神話がある。半径数十メートルの中の小さな丘の攻防戦が描かれていたりするんですけど、それが全世界に思えてくるんです。

フィクションってこういうことができるんだなって驚いたんですね。無限に広がる宇宙で神と悪魔が闘うような巨大なスケールじゃなくても、ウサギたちの小さな世界だけでこれだけの壮大な叙事詩が描けるんです。

『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』にはぶったまげて、その時の感覚は今でも持っている気がしますね。登場人物の人間関係を考える時に、この作品の人間関係…いや、ウサギ関係を叩き台にさせてもらうこともあります(笑)。

大事なのは放送後の「1週間マイナス30分」

フィギュアなどグッズも好評展開中!「S.H.Figuarts 仮面ライダーアマゾンオメガ」(左)バンダイ/税込5616円/2016年11月発売予定 「S.H.Figuarts 仮面ライダーアマゾンアルファ」(右)バンダイ/税込5616円/2016年12月発売予定

―仮面ライダーマニアは是非読むべきですね! ライダーシリーズを手がける上で、心がけていることはありますか?

白倉 30分間の放送の完成度は、言ってしまえばどうでもいいんです。お客さんにとって、もっと大事なのは放送が終わってから翌週の日曜朝8時までの「1週間マイナス30分」という時間だと思うんですよ。30分の放送を楽しんだおかげで、次週までの「1週間マイナス30分」が豊かなものになったら、そこにこそ価値がある。

映画でいえば、お客さんのほとんどは観たことのないもののために映画館まで足を運んでくる。なぜなら「観る価値があるんだろう」と期待するから来るわけです。たとえば製作発表から公開まで3ヵ月あるとしたら、実際に観て期待ハズレだったとしても、楽しみに待っていたその3ヵ月間には価値があったということになるでしょう。上から目線に聞こえるかもしれませんが、お客さんの人生を豊かにすることが僕たちのゴールなんです。

―素晴らしい! その考え方はあらゆる職業に当てはまりそうですね。最後に、シーズン2も決定した『アマゾンズ』も含め、白倉さんの今後の展望について教えてください。

白倉 非常に悩みどころではあるのですが、『アマゾンズ』はネット配信ドラマじゃないですか。この作り方は、言ってしまえばTVのマネというか、TV番組風なわけですよ。そのほうがお客さんにもわかりやすいだろうし、結果的にTV版の放送もできている。だけど、これが配信番組の特性として最も正しいのかどうか…。

―いろいろ模索しているわけですね。

白倉 東映は映画と同様にTV番組も作らせていただいていますが、東映が映画というメディアを作り出したわけでもないし、TV放送を始めたわけでもない。先人の作った軒先をお借りしているわけで、言ってしまえば後取りなんですよ。映像の未来が…なんて偉そうに語ったところで、しょせんは後取り。僕たちは映像屋さんを気取るのであれば、じゃあ映像の未来というヤツを自分たちで作るべきでは、という気がしてならないです。

―それはどういう形になるんでしょう?

白倉 突き詰めていくと、それはもはや映像ではないのかもしれない。映画のやり方、TVのやり方、配信のやり方…いろいろあると思うんですけど、「お客さんの人生を豊かにすること」がゴールなのであれば、その目的に一番適したメディアを選ぶ、もしくはメディア自体を作っていくべきなのではないか…と自分に宿題を課しながら、今夜もおいしくお酒を飲みたいと思います(笑)。

(取材・文/“Show”大谷泰顕)

『仮面ライダーアマゾンズ』TV版はBS朝日(毎週日曜深夜1:00~)、TOKYO MX(毎週水曜22:30~)で絶賛放送中。最新情報は公式HPでチェック!