「フッドのクルーたちとグッドなバイブスのフェス行って、ヒップホップとかレゲエでチルアウトしてるんす！」（写真と本文は関係ありません）ＭＣバトル番組「フリースタイルダンジョン」（テレビ朝日）が話題を呼ぶなど、ラップ・ヒップホップ人気の高まりとともに、その世界でよく使われる「バイブス」「チルアウト」などの言葉が世間一般の“新常識”になってきた。
そこで「最近の若者文化に全く疎（うと）い中年男性と、若いラッパーの会話」風に、これらの言葉の用法を紹介していこう。
ある郊外のベッドタウンにある小さな会社。昭和気質の５０代の課長が、ラップ好きな２０歳の新入社員・徹也を初めてサシ飲みに連れていった――という設定で、彼らの会話を通して学んでみたい。
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課長 久しぶりにキミのようなガッツのある新人が入ってきてくれて、私は嬉しいんだよ。
徹也 あざっす！ 俺みたいなヤツを迎えてくれてマジスペシャルサンクスっす。♪ＭＣ徹也イン・ザ・ビルディング（＊１）！ メイクマネー（＊２）しまくり自社ビルディング！
（＊１）…ラッパーが登場する時の文句は「ＭＣ●●イン・ザ・ハウス」が定番だったが、最近はよりスケールの大きい「イン・ザ・ビルディング」を使う （＊２）…ラッパーの決まり文句で文字通り「金を稼ぐ」
課長 よくわからないが、頼りにしてるよ。ところでキミは流行りのラップをやっているらしいね。休日はやはりクラブとやらに行くのかね？
徹也 クラブはあんま行かないっすね。それよりこの季節はやっぱフェスっすよ。フッド（＊３）のクルー（＊４）たちとグッドなバイブス（＊５）のフェス行って、ヒップホップとかレゲエでチルアウト（＊６）してるんす。これが俺の週末の過ごし方です。
（＊３）…地元、近隣 （＊４）…チーム、集団 （＊５）…気分、ノリ、雰囲気 （＊６）…緊張感を解きリラックスすること
課長 さっぱりわからないけど、フェスといったらロックじゃないのか？
徹也 フェスはいろんなジャンルが出てきますよ。でもたまに先輩の付き合いでパンク系のギグ（＊７）にも行くんすけど、モッシュ（＊８）に巻き込まれたりして、ああいうノリは正直、苦手なんすよね、俺。
（＊７）…ハードコアやパンクなどロック系のバンドが小規模なライブハウスなどを中心に演奏すること （＊８）…熱狂的に盛り上がった観客が激しくもみ合ったり、体をぶつけ合うこと
課長 私はムッシュかまやつしか知らないなぁ。
徹也 俺は逆にそのジャンル知らないっす。ちなみにＥＤＭ（＊９）とかも、お祭り騒ぎできて意外と好きっすね。
（＊９）…エレクトロニック・ダンス・ミュージック。主にトランスを指す
課長 何？ 私がＥＤだっていうのか？
徹也 ＥＤＭはエレクトロニック・ダンス・ミュージックのことですよ。
課長 ああ、ＹＭＯね！
徹也 俺は逆にそのジャンル知らないっす。
「うちらマジ、フッドをレペゼンしてるんで！」
課長 キミ自身はラップをやったりもするのかね？
徹也 フッドのマイメン（＊１０）たちと８プリンスっていうクルー組んでやってますよ。７ＭＣ、１ＤＪです。
（＊１０）…仲間、親友。男同士の結束を強調する時によく使う
課長 そんなに大勢いるのか！
徹也 うちらマジ、フッドをレペゼン（＊１１）してるんで、老人会とか盆踊り大会とかに出て盛り上げてるんすよ。オーディエンスが「ワンモア、ワンモア！」（＊１２）って、街中、グッドバイブスで溢（あふ）れてますよ。
（＊１１）…（地元などを）代表する。「ＲＥＰ」と略す場合も （＊１２）…アンコール
課長 街おこしにも、ひと役買っているとは感心だなぁ。
徹也 あざっす！ でも最近、フッドにハードコア系のクルーがいるんすけど、あいつらいろいろ変なものやったりしてヤバすぎて、キッズ（＊１３）に悪影響与えてるんすよね～。
（＊１３）…ストリートカルチャーにどっぷり浸かっている主に１０代のこと
課長 子供たちに悪影響！？ 一体、どんな街なんだ。
徹也 ま、うちらがフリースタイル（＊１４）でぶっ潰してやりますよ。フリースタイルといえば、この前、フッドレペゼンして渋谷サイファー（＊１５）に遠征したんすけど、ディスられちゃって、ちょっとヘコんで帰ってきました。ハハハッ！
（＊１４）…即興ラップ （＊１５）…サイファーとはラッパーたちが輪になってフリースタイルをやり合うこと。最近は渋谷のサイファーが話題を呼んでいる
課長 「ディスる」なら私も知っている言葉だ！
徹也 あと、フッドにすっげえダサいクルーがいるんすけど、セルアウト（＊１６）したんで、うちらはそいつらをディスるドープ（＊１７）な曲作ってやったんすよ。
（＊１６）…売れ線を狙うこと （＊１７）…元々は麻薬の意味。転じて、肯定的な「ヤバイ」の意味
課長 セルアウトって、彼らは売り切れたのか？
徹也 いや、金と引き換えに魂売ったんですよ。うちらは金じゃない、リアルですから。やばいトラックメーカーにドープなトラック（＊１８）作ってもらって、ドープなリリック（＊１９）書いてドープシット（＊２０）作っていれば、それでいいんですよ。
（＊１８）…オケ （＊１９）…歌詞 （＊２０）…ドープな曲
「ドッグが死んで、まんもすアール・アイ・ピーでした…」
課長 トラックが必要なら、会社の車両を使ってもいいぞ！ ところで、キミは恋人はいるのか？
徹也 カノジョさんはいるんすけど、最近ちょっとスピってきて困ってるんですよ。
課長 カノジョはスピッツ好きなのか？ 私もたまにカラオケで歌うぞ。
徹也 俺は逆にそのジャンル知らないっす。スピリチュアル系（＊２１）っていうんですかね、まあヒーリングミュージックっすね。月が３つ見えたとか、すべては宇宙と繋がっているとか言い出して、ウザイんすよ。あいつ、最近ちょっとリアルじゃなくなったんすよね。
（＊２１）…ヒーリングミュージックのようなジャンル
課長 じゃあ、キミはリア充ってことか！
徹也 まんもすリア充っすよ！
課長 ま、まんもすぅ～！？ まんもす悲ぴー？
徹也 いや、それより俺のフッドのマイメンのドッグが死んで、まんもすアール・アイ・ピー（＊２２）でした…。
（＊２２）…ＲＩＰ（レスト・イン・ピース）＝やすらかに眠れ
課長 ドッグっていうのは…人間か！？
徹也 犬っす！ それで悲しいリリックを書きました。
課長 私はだんだん頭が痛くなってきたよ…。キミはさっき金じゃないと言ったが、将来はラップで成功したいのか？
徹也 俺はリアルドープシットでメイクマネーしますよ！ それで、女手ひとつで俺をここまで育ててくれたディア・ママ（＊２３）のために、銭コァ貯めで銀座にビルディング買うだ。
（＊２３）…アメリカの人気ラッパー、２ＰＡＣが母親への感謝を表現した曲
課長 オラ、こんな村イヤだってか！？
徹也 課長！ フッドをディスっちゃダメですよ！
課長 おお失礼！ いやしかし、キミは実に親孝行者だね。最近の若者にしちゃ感心だよ。よし、もう一軒行こうか！
徹也 あ、すいません俺、終電早いんで、ここらへんでドロンします！
（文／中込ａ．ｋ．ａゴメス 用語監修／二木 信）