55歳にしてボディビルを始めた元K-1ファイター・角田信朗。筋繊維が見えるくらいキレてます! 55歳にしてボディビルを始めた元K-1ファイター・角田信朗。筋繊維が見えるくらいキレてます!

55歳にしてボディビルを始めた元K-1ファイター・角田信朗

7月に大阪市内で開催された「2016年ボディビルフィットネス選手権大会」では1年余りというキャリアで、いきなり3部門優勝。快挙ともいえる偉業で周囲を驚かせた。

そもそも、正道会館最高師範であり、知的なトークでお茶の間にも進出してきた格闘家がなぜ今、再び過酷な道を歩き始めたのか…。彼を突き動かすものは何なのか? 大会直後でバッキバキボディの角田信朗に直撃した、その後編!(前編記事「若い頃の自分への仕返しです!」参照

―ボディビルを始めて普段の生活も変わったと思いますが。

角田 始めて何が良かったかというと、健康になりました。人間ドックの数値が全部ど真ん中です! ちなみに、あの巷(ちまた)で話題のダイエットプログラムは、実はごく初歩的なボディビルのトレーニングと食事法ですからね。

うまくやりはったなぁと思うのは「ボディビルだ」と言わなかったことです。やっぱり日本ではボディビルというと振り切ったマニアックな世界で、拒絶反応もあると思うんですよ。でも、健康になれる一面もあるんですよ。

―その一方で、極限の肉体を目指すと、過酷な食事制限もあるとか。

角田 確かに競技に出るためには、筋量の大きさに加え、体脂肪を極限まで削ぎ落とす必要があります。そのコンディションを作っていくには、生死を彷徨(さまよ)うというと大げさですが、塩分と水分を調整していく過酷な行程が待っています。

ですが基本的にはタンパク質、脂質、炭水化物をどのように採っていくかというのが食事のポイントで、1回を300~400kcalに抑えて1日に8食ぐらい食べます。まぁそれは僕が教えなくてもネットで検索すればすぐ出てきますよ。

―具体的には何を食べていますか?

角田 ブロッコリーやアスパラガスなどの野菜やバナナ、パイナップルなどフルーツも摂りますし、コンビニのサラダチキンもよく食べます。僕の場合は体重1キロにつきタンパク質3グラムと決めていて、食事を採る際は成分表を見て栄養素の含有量も全部ノートにつけています。

あまりに細かくつけてるんで、仲間から見せてくれと頼まれることが多く「笑うたらアカンよ」と前置きしても、やっぱり笑うという(笑)。

幸せの価値観がガラッと変わってくる

―すごいストイックさですね。毎日それをやるのは大変では!?

角田 面倒くさいよ、最初は。でも半年もつけてれば、何を食べてもカロリーがわかるようになりますよ。

―でも、たまにはタコ焼きとかが思い浮かぶことはあるのでは?

角田 思い浮かばなくなります。

―えっ、マジですか!?

角田 今回も大会の打ち上げでビールをクーッと飲んだら「にっが~!」って(笑)。それほど飲まないのに二日酔いですよ。以前は酒なんかやめたら死んでしまうんじゃないかと思うぐらい、364日、それも半端じゃない量を飲んでましたけどね。1日だけ飲まない日は人間ドックの前の日(笑)。

―はははっ。そんな酒豪がなぜ?

角田 価値観が変わるんですよ。例えば高級な食事じゃなくても、まず水がおいしい。高強度トレーニングで追い込んだ後に食べる1個190円のリンゴ、これほど美味いものはないですよ!

TVで、最高級A5ランクの○○牛とか紹介されても『あ~、健康診断で間違いなくアウトになるような脂だらけの肉だなぁ』って(笑)。なんであんな不健康な部分に何万円もお金を出すんでしょう? 要するに、幸せの価値観がガラッと変わってくるんです。

もう減量入るとね、何食べても美味しいです。野菜はドレッシングも塩もかけずに食べるから「野菜ってよく噛むとこんなに甘いんや~」って。今まで食べてた野菜の味って、ドレッシングの味だったんですね(笑)。

―すごい境地ですね。甘いモノとか食べたくなりませんか?

角田 ああ、トレーニングの際に脂肪を燃やし、強度の高いトレーニングを完遂する為の着火剤としての糖質は必要なんで、コンビニで売ってる小さな羊羹は普段のトレーニングの前に必ず入れますよ。食べ物って本当に繊細で、大会の当日にもなると1時間前に体に入れたものによって体の表情が全部変わっちゃうんですよ。

今回の大会で重宝したのは、トレーナーの奥さんが作ってくれる塩分カットに、ラカントで味付けしたおはぎ。それをちょっとずつ食べながらエネルギーを補充しつつ筋肉をパンプアップさせて、筋肉を目一杯膨らませてステージに向かうんです。でも、最後はもうエネルギーが枯渇して膨らまなくなるんですよね~。

筋肉を解剖学レベルで分析し鍛える!

―聞いているだけで苦しい…救いがないですよ!

角田 そんなことはなくて、節制した食事も慣れてくれば週に1回ぐらいは何を食べても大丈夫ですよ。僕も55歳ですから、週の後半になるとエネルギーも枯渇して代謝が落ちてくる。そこで「今日は解禁♪」と週末に友人や世話になっている人と食事に行くんです。すると頭のストレスがまず取れますよね。

そして体がガソリン満タン状態になるので、月曜日にちょっと筋トレの強度を上げるんですよ。すると窯(かま)に薪(たきぎ)をくべたみたいにボーッと燃えるんですよ。そのタイミングで、さらに先週よりちょっと食事を削ると、もうドモ●ルンリンクルのCMで、化粧品の入ったチューブを最後に開いて、わずかに残っているのを綿棒で取るような感じで脂肪が燃えていきますよ!

―もう未知の領域です…。空手家時代とボディビルとでトレーニングは違いますか?

角田 空手家時代は全体のパワーを付けるためのものでしたが、今やっているウェイトトレーニングは、人間の筋肉を解剖学レベルで分析して個々の筋肉を鍛えています。言うなれば、格闘技時代のトレーニングは免震構造の丈夫な建物を作っていたようなもので、今はその内装を繊細に飾って価値を高めている感じですかね。

―個々の筋肉を鍛えているってどういうことですか?

角田 つまり、体全体がバランスよく、美しく見えることを目的に、細かい筋肉までもトレーニングし微調整しているわけです。ボディビルって、得点競技じゃなくて採点競技、つまり美術コンクールみたいなもの。いかに発達させた筋肉を、体脂肪を削って美しく見せるか?というコンテストなんですね。そこで大切になってくるのが、解剖学に基づいた「マッスルコントロール」…ポージングと言われているものです。

細かい個々の筋肉までコントロールして、独立して意識できるかどうか? それができると肉体をより大きく、美しく魅せることができるんだけども、できないと、どれだけ巨大な筋肉を持っていても、要するに“宝の持ち腐れ”になるわけですね。

―大会では空手家ならではのポーズも織り込まれたそうですが、それまでの蓄積がアドバンテージになった?

角田 ジャッジや観客の心を動かすという部分では、僕らしさは出せたとは思います。トレーナーにはポージングはまだまだ2年生のたどたどしさだらけだと言われていますが、逆にまだ伸びしろがあるとも言われていますね。

全日本マスターズは“熟成肉の伏魔殿”

―ぶっちゃけ、トレーニングから逃げたい瞬間はありますか?

角田 逃げたいというよりは… 突き抜けるように激しいトレーニングは、何回経験しても地獄の苦しみで、トレーニングが終わって『あ、今日も生きてた』とつびやきながら帰るんですが、やっぱり脳は覚えていて、特に脚の筋肉は人体で最も大きいのでトレーニングはまるで拷問のようにキツく、「今日は脚の日や…」と憂鬱になるんですよ。だからジムの駐車場に着いてもなかなかエンジンを切らないという(笑)。

でも最近わかってきたのは、僕は高いところは絶対にダメなんだけど、今、バンジージャンプしろと言われたらすぐ飛ぶと思いますよ。飛んだら何秒かで終わるものを、ウジウジしていたらその恐怖感をずっと味わわなくちゃいけない。それと同じで、どうせやらなくちゃいけないことだから、早くやってしまったほうがいいんですよ。

―そんなストイックな暮らしに家族の反応は?

角田 うちは家族がそれぞれ独立しているので何も干渉しないんですよ。でも周りから「お父さんすごいね」とか言われると悪い気はしないんでしょうね。今は息子なんてムチャクチャ応援してくれて、いつも会場に友達と来てくれますよ。

息子は中学・高校と全寮制の学校に行って、一番多感な時期を一緒に過ごせなかったので失敗したかなと思ったんですけど、すごくいい奴に育ってくれて。今は年の離れた友達みたいな感覚で一緒にトレーニングもするし、たまに僕を追い込んでくれたりするし。

―そんな家族の後押しもあれば優勝の喜びもひとしおですね。

角田 これも戦いなので、K-1のリングに上がるのと全く同じ感覚で準備してきましたから。ただ、昔は勝ったら嬉しくてはしゃいでたけど、今は「ほらね」って、当然っていう感じですかね。で、人前では自慢しない。大会終えて帰宅して、誰もいない家の洗面台の鏡の前に立って、研き上げた身体の自分に向かって『角ちゃん、カッコいい』って(笑)。

―そして9月にはさらに上のランクである「全日本マスターズ」の大会を目指しているとか。

角田 マスターズに出るようなベテランの筋肉をK-1世界王者の魔娑斗は「木の年輪のような美しさ」だと例えていましたが、全日本マスターズはもう熟成肉の伏魔殿みたいな場所ですから(笑)。競技経験が長いとミリ単位で調整する経験値もあるし、歳を重ねてきて若い人みたいに遊びに逃げずにトレーニングや節制を真面目にやるでしょ。トレーナーにも「今のままでは勝てませんよ」と言われていて、その差を僕は2ヵ月で埋めないといけないので、もう戦いは始まっていますね。

―その先には何を見ているのですか?

角田 まだやり抜いてないのでわかんないですね。でもやり抜いた時に次のステップが見えてきて、次のお役目があると思うんです。だから僕はどんどん扉を開け続けて、最後は棺桶の扉を開けて、死後硬直でその扉を割る予定です(笑)。

(取材・文/明知真理子 撮影/松井秀樹)

■角田信朗(かくた・のぶあき) 1961年4月11日生まれ 大阪府出身 空手家(正道会館最高師範)最新情報は公式ブログをご覧ください。http://ameblo.jp/nobuaki-kakuda/