「自分の“得意技”は全部つぎ込みました」と語る新海誠監督 「自分の“得意技”は全部つぎ込みました」と語る新海誠監督

すでにアニメ業界にはその名を轟(とどろ)かせている新海(しんかい)監督の最新作『君の名は。』が8月26日から全国公開中だ。

真骨頂である、圧倒的な映像美と繊細な心理描写はそのままに、様々な伏線を張り巡らせた壮大なストーリーの本作は、まさにエンターテインメントど真ん中!

知る人ぞ知る存在から、超有名監督の仲間入りを果たすのか? 話を聞いた。

* * *

―本作『君の名は。』は全国約300館の大規模公開! 期待の大きさを感じます。

新海 本当に期待してもらえているならうれしいです。ただ、特にプレッシャーはありません。公開規模にかかわらず、僕は映画づくりに全力を尽くすことしかできないので。

―最近はよく“次世代の宮崎駿”とも言われますよね。

新海 あの、それは僕が言っているわけじゃないですからね(笑)。ただ、本作も今後つくる作品も含めて、僕の映画を見てくれる人が増えればうれしいですし、そこは目指していますけど、本作の成績がどうこうというのは考えていません。

―週プレ的には、本作は監督の過去作品と比べてより娯楽性が強く、さらに多くの人に受け入れられそうな予感がビンビンしています。

新海 ターゲットを意識したわけじゃないんですけど、たくさんの人が単純に楽しめる、1分たりとも退屈せずに「楽しかった」という気持ちで映画館を出られる作品をつくりました。ラストも今までの僕の作品とは“手触り”の違うものになっています。

―そうした理由は?

新海 だって、夏休みの終わりに見る映画が、せつなくて悲しいだけってイヤじゃないですか?(笑)

―イヤですね!(笑) 本作は男女の“入れ替わりモノ”ですが、こういうラブコメ的設定も監督の過去作品にはありませんでしたよね?

新海 入れ替わりモノというのはドキドキするし、コミカルになるし、問答無用で楽しいわけです。ただ、体が元に戻ることをゴールにした話だと意外性も新鮮味もないし、ジェンダーの入れ替わりも今日的なテーマにはなりにくい。だから、出口は違う場所につくらなくてはダメだと企画の段階から考えていました。

昔感じていたものと同じ呪いをかけられれば

―にしても、あの展開には驚かされました! 予告編の印象から、いい意味で大きく裏切られたというか。昔からの新海ファンをビックリさせようという意図もあった?

新海 これを言うと怒られるかもしれませんけど、昔からのファンの方向はまったく見ていませんでした(笑)。もともと僕の作品が好きな方は、どんな設定でもちゃんと映画館に来て、文句も含めて楽しんでくれるので、そこは信頼して意識せずに。むしろ僕を知らない人にこの作品を見てもらって「日本のアニメにはこんなものもあるんだ」と思ってもらいたかった。

―ただ、展開こそ新境地でしたけど、甘酸っぱい「出会い」と「すれ違い」をモチーフにする“新海節”は健在!

新海 僕の作品に初めて触れる人には、男女のすれ違いや、常に誰かを探してしまう思春期の登場人物ならではの心持ちが新鮮に見えるんじゃないかなって思ったんです。だから、自分の“得意技”は全部つぎ込もうと。

―なぜ監督は男女の「出会い」や「すれ違い」にそこまでこだわるんですか?

新海 僕自身、特定の誰かと付き合いたくてもうまくいかないことや、どこかに運命の相手がいるんじゃないかと生き惑うような葛藤が、特に10、20代の頃の実生活の課題だったんだと思います。あのときの痛みや強い憧れが色濃く残っていて、ついそれをテーマにしちゃうのかな。だから、若いコに僕の作品を見てもらって、僕が昔感じていたものと同じ呪いをかけられればいいかなと(笑)。

―恐ろしいことを(笑)。

新海 そう考えると、結局、僕はいつも思春期の人たちに向けて映画をつくっているんですよね。ただ、思春期っていうのは気持ちのありようなので、遠い場所に手を伸ばしちゃう、未知の訪れに期待してしまう10代特有の気持ちを50、60代でも持ってる人はたくさんいます。だから、『君の名は。』は何歳でも楽しめる映画です。

―娯楽性も強いですしね。

新海 今までもそういう要素を入れたい気持ちはあったんですけど、映画を成り立たせるのに精いっぱいで、その余裕が40歳を超えてようやく出てきた気がします。

今回も1日15時間の絵コンテ制作を半年間とか時間的な余裕はなかったんですけど、自分の映画を今までよりも俯瞰(ふかん)で見渡すことができたので、ここで笑わせられる、ここで音楽や演出を立たせられる、といったサービスは随所にちりばめられたと自負しています。

(取材・文/武松佑季[A4studio] 撮影/高橋定敬)

★続編⇒『君の名は。』監督・新海誠が語るアニメ原体験と宮崎駿、細田守の存在』

●新海誠(しんかい・まこと) 1973年生まれ、長野県出身。2002年、ほぼすべてをひとりで制作した『ほしのこえ』で注目を集める。その後、発表した『秒速5センチメートル』(07年)、『言の葉の庭』(13年)なども好評を博す

■『君の名は。』全国東宝系公開中! 原作・脚本・監督:新海誠 作画監督:安藤雅司 キャラクターデザイン:田中将賀 音楽:RADWIMPS 声の出演:神木隆之介 上白石萌音 成田凌 悠木碧 島﨑信長 石川界人 谷花音 長澤まさみ 市原悦子 制作:コミックス・ウェーブ・フィルム 配給:東宝

1000年ぶりとなる彗星の来訪を1ヵ月後に控えた日本。山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉と、東京で暮らす男子高校生・瀧は、自分たちの中身が時々入れ替わっていることに気づく。ふたりは、入れ替わった日はお互いメモを残すように取り決め、徐々に打ち解けていく。しかしある日突然、入れ替わりは終わった。そして瀧は居場所も知らない三葉を探しに出かけ、驚愕の真実を知る。豪華キャストの熱演はもちろん、RADWIMPSが担当した音楽にも注目だ

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