高橋陽一先生(左)とゆでたまご両先生は久しぶりの再会。秋本先生の背中を見てひた走ってきたという同世代の盟友だ 高橋陽一先生(左)とゆでたまご両先生は久しぶりの再会。秋本先生の背中を見てひた走ってきたという同世代の盟友だ

9月17日(土)発売の『週刊少年ジャンプ』42号にて、1976年から40年にわたり連載を続けてきた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(作者:秋本治)が最終回を迎えた。

週刊ペースで毎週20ページ近くもの漫画連載を、たった一週の休載もなく40年…という作業が、いかに至難の業績であったか。

今回はそれを最もよく知るであろう同業漫画家の中から、特に秋本治先生の連載初期に共に雑誌を作ってきた3名のレジェンドにお集まりいただく機会を得た。

盟友ともいえる 『キン肉マン』(1979年連載開始)作者・ゆでたまご先生のおふたり(原作:嶋田隆司/作画:中井義則)と『キャプテン翼』(1981年連載開始)作者・高橋陽一先生が、『こち亀』連載終了で語り合う、その偉業と思い出とは!

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ゆでたまご・嶋田隆司先生(以下、嶋田 僕はニュースで初めて知ったんですけど、すごいなと思ったのは僕も常日頃から集英社のいろんな部署の人と頻繁(ひんぱん)に話して、秋本先生の話題もよく出てたんですよ。それなのに誰も教えてくれへんかった!(笑) 箝口(かんこう)令が敷かれてたと思うんですけど、今回はそこが徹底されてましたよね。

ゆでたまご・中井義則先生(以下、中井 (ネットなどから情報が漏れる前に)ご自分の言葉で伝えたかったとおっしゃっていたけど、わかる気がしますね。僕ら後輩に対してさえ、とても律儀(りちぎ)な方なので、何よりまずファンに対して、というのがね。非常に秋本先生らしい。

高橋陽一先生(以下、高橋) 最初に聞いた時は僕もビックリしましたけど、でも時間が経って冷静に考えてみると、確かにこれはこれで潔(いさぎよ)くていいのかなとも思いましたね。まだ余力のあるうちに。でもよくよく辞める理由を聞いていくと「新しい作品を描いてみたい」とか話してて「うわ~、この人やっぱりすごいなぁ」って!

(一同爆笑)

中井 本当にそうなんですよ。2年ほど前に僕と秋本先生とで対談させていただいたことがあって、その時にも「まだまだ他に描きたいものはあるんだ」って。普段からおっしゃってることは変わらないんですよね。

高橋 ちょっと休みたいとかじゃないんですよね。描きたいから辞めるって、そんなのなかなか言えない(笑)。

 「ジャンプ」で40年描き続けてもなお、次回作への意欲をみせる秋本先生の姿勢に驚きを隠せない高橋陽一先生 「ジャンプ」で40年描き続けてもなお、次回作への意欲をみせる秋本先生の姿勢に驚きを隠せない高橋陽一先生

嶋田 でもそれ聞いて正直、安心しましたよ。というのも最初は僕自身、相当ショックだったんです。もしかしたら身体の調子が悪いのかなとも考えたし、何より思ったのは、先輩の秋本先生がまだ週刊で連載頑張ってるから、僕らもっていう思いで描いてたんですよ。

だからそういう上のほうの目標がいなくなると、僕らも大丈夫かな、いつまで続けられんのかなって、ちょっと不安になりますよね。それでここしばらく悶々(もんもん)としてたところはあるんですけど…。でもまだ秋本先生が描く気マンマンでいてくれるんやったら、それは僕らにとってもホンマによかったなって(笑)。

秋本先生のすごさを伝えていかないと!

 2019年に自らも『キン肉マン』生誕40周年を迎えるゆでたまご・嶋田先生。今回の秋本先生の決断にはいろいろ考えることもあったという 2019年に自らも『キン肉マン』生誕40周年を迎えるゆでたまご・嶋田先生。今回の秋本先生の決断にはいろいろ考えることもあったという

中井 会見でも、普段通り冷静に淡々と話されてましたからね。それ見て「ああ両さんは終わるけど、秋本先生の漫画家人生はまだまだ続くんだな」って感じられて。そういう風に整理したら僕も少しスッキリして落ちつきました。

嶋田 ひと口に40年休載なしって言いますけど、普通に考えて40年もやってたら陰ではいろんなことがあったと思うんですよ。僕だって腰のヘルニアで3ヵ月休んだり、最近でも連載中に大やけどしたり帯状疱疹(たいじょうほうしん)になったり…ないわけがないんです。でもそういうの一切見せずにやって来られたというのが、何よりすごいなって。生活態度がよかったというのも大きいんでしょうね、僕と違って(笑)。

(一同爆笑)

中井 秋本先生が朝まで飲んでたとか、そういえば聞いたことないもんね。

高橋 それでしかも週刊少年ジャンプで40年ですからね。ジャンプで40年って、ホントにキツイと思いますよ。だって僕、やっぱりジャンプの頃はキツかったですから(笑)。

嶋田 キツイよねぇ! 人気順位は毎週気になるし、新人もどんどん入ってくるし。

中井 でも陽一君もジャンプ時代、確か一週も休んだことないでしょ?

高橋 ええ、休載はなかったですね。

嶋田 当時のジャンプで描いてた作家の間には、連載は休んじゃダメっていうのがあったんですよね。一部、いらっしゃいましたけど…江口(寿史)先生とか。

(一同爆笑)

中井 江口先生でいえば、当時の西村(繁男、『週刊少年ジャンプ』3代目編集長)編集長に休みの話をしたことあるっておっしゃってましたよね。でもそうしたら西村さんが「ふーん、お前、休みたいのか。じゃあ一生休んどけ!」って言われたらしくて。

(一同爆笑)

 秋本先生に先輩としていろいろなアドバイスをもらったという中井先生。2014年には『週刊プレイボーイ』本誌で対談もしている(写真右、撮影/高橋定敬) 秋本先生に先輩としていろいろなアドバイスをもらったという中井先生。2014年には『週刊プレイボーイ』本誌で対談もしている(写真右、撮影/高橋定敬)

嶋田 そりゃ、そうだよね(笑)。

高橋 でもそれが僕らのやってた頃の「ジャンプ」ですよ(笑)。だから秋本先生はすごいと思います。そういうのを全部乗り越えられた上での40年ですからね。

嶋田 やっぱりこういうのはちゃんと伝えていかなあかんよね。そうしないと秋本先生のすごさもちゃんとわかってもらえない気がする。少し休まれたら、また漫画を描かれると思うので、引き続き我々は秋本先生の背中を追いかけていきましょう!

★「ジャンプ」時代の思い出話が盛りだくさんの対談はグランドジャンプ』23号(11月2日発売)「5周年企画 ジャンプ作家熱血対談シリーズ第2弾 ゆでたまご×高橋陽一」にて掲載予定!

高橋陽一 1960年生まれ、東京都出身。高校時代は卓球部に所属していたが、78年のW杯アルゼンチン大会に感銘を受けサッカーに興味を持つ。80年に『キャプテン翼』で「フレッシュ・ジャンプ賞」に応募し入選。翌年より「週刊少年ジャンプ」にて同作で連載開始。代表作は他に『翔の伝説』『エース!』『CHIBI』『―蹴球伝-フィールドの狼 FW陣!』『誇り 〜プライド〜』(連載中)など。2014年よりオリンピックで金メダルを目指すシリーズ『キャプテン翼 ライジングサン』を「グランドジャンプ」で連載中

ゆでたまご  原作シナリオ担当の嶋田隆司(1960年生まれ)と作画担当の中井義則(1961年生まれ)の両名で構成される漫画家ユニット。ともに大阪府大阪市出身。小学校時代から合作で漫画を描き始める。1978年に応募した『キン肉マン』が赤塚賞準入選。翌年より「週刊少年ジャンプ」にて同作で連載開始。1985年、小学館漫画賞受賞。代表作は他に『闘将!!拉麺男』『グルマンくん』『キン肉マンⅡ世』など。現在、「週プレNEWS」にて『キン肉マン』続編を連載中

 定価700円(本体)+税 (c)秋本治・アトリエびーだま/集英社 定価700円(本体)+税 (c)秋本治・アトリエびーだま/集英社

●『週刊少年ジャンプ』42号(9月17日発売)に「こちら葛飾区亀有公園前派出所」最終回掲載&最新コミックス200巻も発売中

●『キャプテン翼 ライジングサン』最新コミックス4巻『キン肉マン』最新コミックス56巻は好評発売中!

(取材・文/山下貴弘 撮影/松田嵩範 取材協力/グランドジャンプ編集部)