今年で声優デビュー50周年を迎えた古谷徹さん 今年で声優デビュー50周年を迎えた古谷徹さん

『巨人の星』の星飛雄馬、『機動戦士ガンダム』アムロ・レイ、『ドラゴンボール』のヤムチャ、『聖闘士星矢』のペガサス星矢等々…。

数々の代表作で誰もが知るキャラクターを演じ、その声を聞いてピンとこない者はいないであろう声優・古谷徹さん。

そんな、声優界のレジェンドである古谷さんがデビュー50周年を迎えた今年、奇しくも『週刊プレイボーイ』も創刊50週年を迎えた。

そこで、運命を感じずにはいられない、その歳月の歩みを共に振り返るべくインタビューを敢行!

昨日配信した前編(「『巨人の星』で味わった達成感には勝てませんでした」)に続き、中編となる今回は「池田秀一さんとの関係」や「今の声優業界について」などを語ってもらった。

―シャアのお話が出ましたが、声優の池田秀一さんとのご関係というのは昔から変わらないのでしょうか。

古谷 昔は全然違いました。池田さんは子役でいえば僕より大先輩。ただ、アニメでいうと僕が先輩で、まだガンダムの時に池田さんは2作品目でした。しかも最初は『ダイターン3』のゲストキャラクターしかやってなかった。僕はいろいろな作品の主人公をやってきて、自分のほうがアニメに関しては先輩だったわけですね。

だから、お互いライバル関係の役だったということもありますけど、池田さんとはあまり“なあなあ”にならないように思っていました。それに池田さんは当時からお酒が大好きでしたけど、僕はお酒を飲まなかったので、なかなか接点というのはなくて作品を通じての関係でしたね。

その後、僕も40歳くらいからお酒が飲めるようになって。今から16年前になりますけど、DVD発売に合わせて劇場版三部作特別版としてセリフを収録し直したんです。確かガンダム20周年くらいの時ですかね。それでまたイベントとかゲームとか一緒にお仕事するようになった。お酒が飲めるようになったので、飲み友達というか。今ではもうご一緒するお仕事があると「まず飲むだろうな」という前提でお付き合いさせてもらっています(笑)。

―ガンダム放送当時の話題などは出ますか?

古谷 ごくたまにですね。今はむしろ『名探偵コナン』という作品で、安室透(CV:古谷)と赤井秀一(CV:池田秀一)という役をお互いにやっていまして。まあFBIと公安警察でライバル関係にあるんですけど、そっちの話のほうが多いです。今年の劇場版『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』でふたりとも見せ場がたくさんあって、おかげさまで大人気なんです。

「もっとヒーローをやりたい!」

―おふたりともずっと第一線で演じられてきたわけで、本当にすごいなと。ご自身が活躍し続けられる理由をどう解釈していますか?

古谷 僕の役への取り組み方は「この役はどんな声を出すんだろう?」を考えるところから始まります。そして、スタジオに入る前にできる限りの資料を集めて自分の中で分析をするんです。そうやって、ひと言ひと言のセリフとか、ひとつの役というのをすごく大事にして取り組んでいます。レギュラーのアニメーションの役を勝ち取るというのが、いかに大変かということを痛感していますので。

一時期は何もそんなことを考えなくても週7本レギュラーがありました。それがある時、パタッとレギュラーがなくなってしまって…。そうなると、すごく不安になるわけです。僕たちはサラリーマンと違って月給制じゃないので、仕事がなければ一銭も入ってこないわけですから。

ちょうどそれが声優専門の養成所ができ始めて、若手声優たちが台頭し始めた頃でした。その時点で僕自身は結構ギャランティーのランクが高くなっていて、予算的な部分もあるし、いろいろな作品ですでに声が広まっていたので、僕の声はもうわかっていると。もっと新鮮な声が欲しいということで、段々若手にアニメの主人公が変わっていって。オーディションにも呼ばれなくなっていった時期でした。

今思うとたった半年くらいのことで、結局またいろいろな役をやらせていただけるようになったんですけど。でもそういう経験を経て、それ以降ではひとつの役に対する捉え方とか取り組み方が変わってきて。この役をいただいて本当にありがとうございますという“感謝の気持ちから真剣にやろう”、“手間暇をかけよう”となっていった。そういう姿勢は役にも活きますし、セリフにものるんじゃないかと思いますね。

―辛い時代に声優を辞めようと思ったことはないんですか?

古谷 それはなかったですね。自分にはこの道しかないと思っていましたから。

―とはいえ、50年ものキャリア、どうやってモチベーションを維持していたのでしょう?

古谷 やっぱり、この仕事が好きなんですね。アニメオタクだと思いますよ(笑)。僕は声優という職業にすごくプライドを持っていますから。僕は声優のプロなんだと。中には自分は俳優だと言いたがる方もいらっしゃいますけど、僕は声優は俳優より多くのスキルが必要だと思っています。

モチベーションという意味では、アニメーションの中だと自分はヒーローでいられる。その思いが、今まで自分を支えてくれたんじゃないかと思いますね。「もっともっとヒーローをやりたい!」って。

青春時代に戻ってモテ気分を味わえる

―その情熱のおかげで、魅力的にキャラクターを演じられるわけですね! 数々のキャラクターを演じてきたわけですが、特に印象深いキャラクターはいますか?

古谷 そうですね、今でこそ『名探偵コナン』の安室透と『ワンピース』のサボという役をいただいて、今はそのふたりが一番好きなキャラクターですけど、それまでは『きまぐれオレンジロード』(TVシリーズ)という作品の春日恭介という役が一番好きでした。

―他のヒーローと違って、意外ですね。

古谷 いわゆる“学園ラブストーリーもの”で、鮎川まどかというお姉さん系の美人と、檜山ひかるというキャピキャピギャルのふたりにモテる三角関係の役でしたからね。それまではカッコいいヒーローにこだわっていたのが、優柔不断でふたりの女のコにモテているキャラクターで…。でも、すごく親近感が湧いて。実際、自分の学生時代や青春時代にそういうオイシイ経験はなかったものですから(笑)。

春日恭介を演じると自分がこう青春時代に戻ってモテモテ気分を味わえるので、すごく好きな作品ですね。結局、恭介はTVシリーズからOVAになり、映画2本になっているんですけど、中学生から大学生までやるんですよ。演じるたびにワクワクドキドキできるキャラですね。

―ところで、古谷さんは声だけでなく外見も若々しいですが、その秘訣は?

古谷 おかげさまで、サボなんて22歳ですし、安室は29歳。そういう青年の役をやらせてもらっているので、ある意味、“疑似体験”なんだけど、自分の人生のひとつというか、若い役を演じていると、ついその気になってしまうからではないでしょうか。

―気持ちも若くなると。では体調管理はいかがでしょう。

古谷 本当は意識しないといけないのですが、せいぜい朝晩うがい薬でうがいする程度かな。あと、これはどっちかというとナレーションのお仕事のためにですけど、腹筋がないと長いセンテンスをノンブレスでしゃべれないので、トレーニングはやっています。それと深酒すると午前中は低い声になってしまうので、高い声を出す必要のある時は控えます。ほぼ毎晩飲んでいますけど量は少ないんですよ。

―飲めなかったのが、今では毎日とは…意外です! 好きなお酒とかありますか?

古谷 日本酒が一番好きですね。あとはビールとか焼酎とかワインとかサワーとか、ウイスキー以外の全部。そして、シメは牛乳とアンコ。特に月餅が大好物です(笑)。皮が薄くてアンコの比率が多いでしょ。どんなに酔っ払っていても、最後はアンコを食べますね。

遊びの合間に仕事をするのが好き

―シメに牛乳とアンコって聞いたことないです(笑)。話はガラッと変わりますが、先ほど若手声優の台頭という話も出たわけですけど、古谷さんから見て今の声優業界はどのように映りますか?

古谷 今はアイドル、俳優、歌手と声優がクロスオーバーしている感じですよね。実力のある人がなんでもやる。声優事務所に入っていてもCDを出したり写真集も出したり、武道館をいっぱいにする人もいる。活躍する場所が広がって、いい時期なんじゃないかと思いますよ。

―なるほど、では現在の声優業界の未来は安泰そうですね。

古谷 ただ、ひとつ心配なのは子供向けのアニメーションは『ポケモン』『プリキュア』『妖怪ウォッチ』など大ヒット作品がある。社会現象になったりもするけど、大人の鑑賞に耐える大ヒットアニメが少ない。「コナン」は20年やっていますし、「ワンピース」は15年ですが、それに続くヒット作品があまりないですよね。

今の時代は難しいのかもしれませんけど、僕らの後には何作も代表作を持っているような、日本中の誰しもが名前を知っているような若手の声優は出てきていない気がしますね。声優のなり手が多くなって作品自体が分散しているというか、主人公クラスの役を演じられる声優の数が多いので仕方がないのかもしれませんけど。そういう意味でも、僕はいい時代に恵まれたなあと思います。

―では、後輩たちに「声優として大事な部分」を伝えるとしたら何になりますか?

古谷 う~ん、遊び(笑)。僕、子役時代が長くて、撮影所やスタジオと学校ばかりだったから、その反動で趣味がめちゃくちゃ多いんですよ。テニス、ゴルフ、スノーボード、ウィンドサーフィン、パソコンもオタクですし。たくさん遊んで、遊びの合間に仕事をするというスタンスが好きなので。マネジャー泣かせですけどね(笑)。

でも、遊びで得るものってあるような気がするんですよ。リフレッシュだけではなく、そういった体験は自分の役に生きる。今の若手たちは声優になりたくて、そのための勉強をしなくちゃいけないじゃないですか。だから青春時代に遊んだり、趣味を楽しんだりという体験をあまりしてないわけですよね。そこがちょっと心配かなと思いますね。お酒やゴルフを是非やってほしいです。

●続編⇒『いつの時代も主人公はモテない? 声優・古谷徹がデビュー50周年で「今ですよ今! モテ期がきてますよ!」』

(取材・文/三宅隆 撮影/下城英悟)

■古谷徹(ふるや・とおる) 1953年7月31日生まれ 神奈川県出身 ○1966年に『海賊王子』の主人公キッド役でアニメーションの声優デビュー。以来、『巨人の星』の星飛雄馬、『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイ、『ドラゴンボール』のヤムチャ、『聖闘士星矢』の星矢、『名探偵コナン』の安室透、『ONE PIECE』のサボなど国民的キャラクターの声を数々務めた日本を代表する声優。また、『カーグラフィックTV』を初め、『クローズアップ現代+』などナレーションの分野においても活躍。今年、声優デビュー50周年を迎えたことを記念し、全国47都道府県を巡る無条件(無料)の『サイン会ツアー』実施中。最新情報は公式ホームページhttp://www.torushome.com/、公式Twitter【@torushome】でチェック!