「鰻」という名字は現在、日本に7名程度で、うち5名をこの鰻の家族が占めているとか。(M-1グランプリ2016 公式サイトより)

今どき珍しい、そろいの青ジャケットに赤ネクタイ。昭和を彷彿(ほうふつ)とさせるしゃべりが評判の漫才コンビ、「銀シャリ」の橋本直(36歳)と鰻(うなぎ)和弘(33歳)が、今年のM-1で王者となった。

彼らの駆け出し時代を知るNSC(吉本総合芸能学院)講師の本多正識(まさのり)氏に聞いた。

「初めて会ったとき『銀シャリ』というコンビ名の横に『鰻』という名字が書いてあるのを見て、『芸名やったらほかにいいのあるやろ。もっと考えろ!』と言ったら、鰻君がぼそっと『先生、それ、ボクの本名です』って(笑)。こんな名字があるのかとびっくりしました」

ただ、記憶に残るのはそれくらい。ふたりはNSCでも目立たない存在だった。

「最初の頃は漫才もパッとしませんし、それ以上に心配やったのが性格。ふたりとも素直でおっとりして、まじめ。こんなんで芸人としてやっていけるのかと思ってました」

特に鰻の天然ぶりは頭痛のタネだったとか。

「舞台に上がると緊張のあまり、セリフをかむわ、どもるわ、忘れるわ。時には『銀シャリでーす』と登場した直後に、鰻君が『あわわ、ウウウ……』となって、それに橋本君もびっくりして声が出ず、ふたりで黙って見つめ合うなんてこともあった(苦笑)」

そんな銀シャリの芸に変化が生じたのは、本多氏のこんなアドバイスだった。

「鰻がセリフを忘れるのも前提にして、それを笑いに変えるツッコミを研究せえ」

すると、彼らの漫才がどんどん面白くなってきたという。

「橋本君のツッコミが劇的に進化したんです。『あわわ…』と絶句する鰻君に、『えらい今日は最初から力入ってんなぁ。朝から何飲んできたんや?』などと鋭いツッコミを入れ、客席の笑いを誘う。すると、これまではピンチだった鰻君の天然ぶりが、チャンスに変わっていったんです」

その時期を本多氏は「2010年に『NHK上方漫才コンテスト』でふたりが優勝した頃だ」と指摘する。

「鰻君が不器用な天然だからよかった。もし小器用でそつなく漫才をこなすタイプだったら、おそらく『銀シャリ』はごく平凡な漫才コンビで終わっていたと思います」

やはり、鰻は養殖じゃダメ。天然モノがよろしいようで。