『大水滸伝シリーズ』の著者・北方謙三氏(左)と熱烈な水滸伝ファンの綾小路翔。初対面とは思えない息の合ったふたりのトークは大いに盛り上がった!

累計950万部超の『大水滸伝』シリーズをこよなく愛するロックバンド・氣志團の綾小路翔氏と著者の北方謙三氏によるトークライブ「荒くれ者たちへの憧れ-ロックンロール梁山泊-」が12月6日、東京・丸ビルホールで開催された。

このスペシャルライブは集英社文庫創刊40周年の記念企画として、北方氏の小説『岳飛伝』が刊行開始(11月18日より毎月刊行)されたことで実現したイベント。ツッパリとハードボイルド、ロックンロールと小説がぶつかり合い、熱い生トークが繰り広げられた――。

開演となり、ふたりが登場。おなじみのリーゼントスタイルで姿を見せた綾小路氏に対し、北方氏はテンガロンハットを被って“サプライズ”演出。席につくなり帽子を脱ぐと、綾小路氏のビジュアルに対する“かかってこいよ!”な挑発かと思いきや…、

「彼には何をやっても負けますからね。これは俺の(来場者への)サービス精神だと思って」と先制口撃はソフトなジャブ。それに「も、申し訳ありません、(自分の頭が)フカフカしてて…」と綾小路氏も恐縮しきり。

だが、そんなイレギュラーな掛け合いに会場からも笑いが起こり、このふたりの組合わせで一体どんなコラボレーションが?と予想がつかない来場者の心をつかんだようで、対談は和やかな雰囲気で始まった。

綾小路「いつか絶対、先生にお会いしたいと思っていたんですけど、まさかこのような形でご一緒できるとは…。昨夜は全然眠れずに過ごしました」

北方「僕はね、ロックンロールが好きなのよ。10年前ならブランキージェットシティ(1987年結成の日本のロックバンド。2000年に解散)、それからミシェル(ガン・エレファント)。そのあたりからずっと聴いてきて。でも、一番通じるのはね、氣志團だね」

綾小路「ホントですか!?」

緊張ありありだった綾小路氏に、最大級の嬉しすぎるひと言が北方氏の口から出ると、前のめりになる“ロックンローラー”。さらに、そこから熱い“ロック論”が展開――。

北方「最近のロックはつまんない。サウンドはいいんだけど、歌詞は言葉が多くて説明的だし、『喧嘩上等』とか『かかってこいよ!』なんて言わなくなってるだろ? 『キミと一緒に手を繋いであの夕日を眺めていられたらそれ以上は何もいらない』とか、そんなの聴きたくねぇ。氣志團はそんな“刹那ロック”とは完全に一線を画しているよ」

綾小路「心強いお言葉です。でも、どちらかというと、自分はそっちが全く書けないというか、ストレートなことしか歌えないんで…(苦笑)」

北方「それがカッコいいんじゃない。最初見た時は『なんだ、この頭は!』と思ったけど、歌詞が率直なのよ。聴いた後に清々しくなる。ツッパった風に見せてはいるけど、本当は優しいんだよね。そのあたりが僕と同じとは言わないけど、似通っていると思う」

綾小路「ありがとうございます。嬉しい…」

氣志團と水滸伝の意外な関係

トークライブ序盤は水滸伝そっちのけで北方氏が“オレのロック論”を熱弁!

早くも北方氏から自身との共通点、相通じるスピリットを伝えられ、完全に緊張が解けた?綾小路氏だが、そこはさすがプロデュース的な仕切りにも長(た)けた男。話の流れを戻し、「先生、そろそろ水滸伝の話がしたいです」と本題に切りこむ。

すると、「あぁ、水滸伝の話ね…」と我に返ったような北方氏だったが…、

北方「いっぱいしたい。いっぱいしたいんだけど、俺も照れちゃって。ロックの話だとノリノリで話せるんだけど、自分の作品の話となると『恥ずかしー』ってなっちゃう可愛らしさが出てくるんだよな」

外見の奥に隠れる優しさや可愛らしさ。主役である著者自身が認めた通り、このふたり、やはりどこか似通ったスピリット持っているようだ。そして当然、『大水滸伝』シリーズの作品であり、登場人物たちに通底するものだろう。

綾小路氏はここ数年、ロックフェス『氣志團万博』を主宰している。2013年9月には『氣志團万博2013~房総爆音梁山泊~』と名付け、森山直太朗、Hide、ももクロらが集い、大盛況のうちに毎年続いている。

綾小路「まさに自分たちがデカいイベントをやり始めた時…ロックバンドからアイドルまで、各界のチャンピオンが集まってくる野外フェスなんですけど、“梁山泊”という言葉がよみがえってきたんです」

あらためて説明すると、梁山泊とは12世紀初頭の中国で、腐敗混濁(こんだく)の世を正す『替天行道(たいてんぎょうどう)』の志の下、当時の豪傑たちが集まった場所。いわば、『大水滸伝』の“大本の地”だ。ここで「国家を倒す革命の物語(『水滸伝』)」が生まれ、戦いに破れた者たちの意志を受け継ぐ「建国の物語(『楊令伝』)」へと繋がり、梁山泊を離れ、新天地を切り拓こうとする「男たちの人生の物語(『岳飛伝』)」に帰結する。

綾小路「“梁山泊”という言葉を思い出したら、もっと知らなきゃと思って(北方氏の)『水滸伝』を読み始めたんです。すぐに夢中になって、移動中もツアーの最中も食い入るように読んでいました。ライブ直前とかに読むと、作中の誰かのキャラクターになりきってめちゃくちゃモチベーションが上がったり(笑)」

吉川晃司が水滸伝キャラになりきっている!

水滸伝にハマった理由を熱く語る綾小路氏

そんな熱烈な『大水滸伝』シリーズ賛歌に、北方氏も「僕はね、あなたが非常に私の水滸伝を読んでくれてるって話を聞いていたし、ライブのタイトルにも『梁山泊』とつけてくれていたことも知っていた。私の水滸伝が、氣志團の曲とどこかで通じ合っていたとしか思えないのよ」と、まさにこの夜、会場のステージが梁山泊となり、邂逅(かいこう)した両者。

そこから、いよいよ話は「お互いにとって、水滸伝とは何か?」という本質に…。

綾小路「作品の魅力は、とにかく北方先生が描くキャラクター、人。基本、強い男しか出てこないんだけど、それぞれに人間的な弱さを併せ持っていて、そこに引きこまれていくんですよね。

失礼な言い方かもしれませんけど、感覚でいうと『週刊少年ジャンプ』の名作漫画に似ているかも。読み進めると映画を観ているような気分になって、いろんな登場人物に感情移入しちゃう。

かと思えば、友達をあるキャラクターに重ね合わせ、『彼もあの時、こんな風に悩んでいたのか』なんて作品を通じて思い知らされることもあったり…。自分の人生や生活にかなり影響を与えてくれた小説です」

北方「水滸伝はね、ハッキリいって、ロックンロールなの。男が男として、転がろうが何しようが最後まで生き抜くぞ!っていう意味でね」

ここで“水滸伝=ロックンロール”という図式が示されると、今度はさらに意外な方向に話題は転がって…役者としても活躍する、あのロックミュージシャンまでネタに…。

北方「ロックンロールといえば、俺の弟分に吉川晃司っていうのがいてね。あいつに水滸伝(『水滸伝16 馳驟の章』)のあとがきを書いてもらったのよ。これが全然文章になってないんだけど、何か伝わってくるの」

綾小路「僕の大先輩ですが、あのあとがきは本当に面白かったですよ。(中略)水滸伝ファンは公言されているところで、自分のことを林冲(りんちゅう)だと」

※林冲…重要人物のひとりで、禁軍の槍術師範。その腕は天下一品、「図抜けた筋力と頭の悪さ」(北方氏)が特徴の豪傑。

周りには“水滸伝な人”たちが!

すっかり意気投合、盛り上がりを見せる

北方「ほんっとにそうなんだよ。作品の中で(林冲が)死んだ時に、『いやぁ、英雄の最後というものはすごいもんですなー』って電話が掛かってきた。迷惑な話だよな(笑)。まぁ、いいヤツなんだけど、吉川も強いのは首から下。なんで強いかって、水球やってたんだよね。水球ってのは水の中じゃ喧嘩なんだと」

綾小路「ヒクソン・グレイシーにも『水中だったら絶対勝てる』って言ってましたからね」

北方「水の中で一発締められたらアウトだろ(笑)」

そんな暴露トークが盛り上がる中、ある格闘家ふたりと吉川氏がプライベートでやりあったという秘話も北方氏から明かされたが…。

綾小路「結局、吉川晃司さんも“水滸伝な人”なんですよね。作品の中に出てくる男達はみんな魅力的で格好良くて、憧れてしまう。で、中には吉川さんみたいに水滸伝のキャラクターをリアルに求めてしまう人も出てくるんです。そういう人って、現実の社会では縛れないような人たちばかりなんですよね(笑)」

北方「そういう意味では、俺の仲間はみんな、水滸伝に出てきそうなヤツばっかなの。キミもなってくよ、“水滸伝な人”に…」

作家やミュージシャンにはそんな豪傑や軍師のモデルがごろごろ…? だが、来場者を見回し、実はみんなが“水滸伝の登場人物”なんだという北方氏――。

その後も女性との接し方についてから、それぞれの執筆やライブの裏話まで及んだが、残念ながら、あっという間に45分間の第一部は終了。続いて行なわれた来場者とのQ&Aの模様は明日配信予定の後編でお送りする!

(取材・文/週プレNEWS編集部 撮影/下山展弘)