今、アイドル映画がアツい!?
何を今さらと思われるかもしれないが、アイドル映画といえば、愛らしい青春ドラマか悲鳴たっぷりのホラー映画が定石だったイメージも…。それがここ最近、スプラッタありバイオレンスあり、セクシー路線からSFファンタジー、さらには麻雀モノやラップモノ、百合モノまでジャンルも百花繚乱!!
そんななんでもありの中、ノーメイクスというアイドルグループを自身でプロデュースし、アイドル映画『キネマ純情』を撮った、異端の映画監督・井口 昇(いぐち・のぼる)にインタビュー。『片腕マシンガール』や『ロボゲイシャ』等で海外までマニアを獲得、ドラマ『監獄学園』でも評判となった“アイドル遣い”だが、果たして昨今のアイドル映画をどう見ているのか? その魅力とは?
* * *
―今のアイドル映画って、スプラッタ、バイオレンス、セクシーとか、すごく多彩になってきてますよね。
井口 少し前まではホラーが王道だったんです。だけど、そんなこと関係なく、もっと激しいものも多いし、最近だとアイドルが麻雀をやるマニアックな作品までありますよね。
―どうしてこういう傾向になったんでしょうか?
井口 なんと言ってもアイドルというキャラクター自体が、この10年くらいで幅広くなりましたから。ただ明るく可愛いだけじゃなく、ヘビメタやラップ、パンクを演ったり、アングラな活動をしたり、いろんなアイドルがいる。だから映像においても、カテゴリーの表現の幅が広がった。あとはやっぱり、映像の作り手やファンとの関係が変わったということですよね。共犯者みたいな関係になったというか。
―共犯者ですか?
井口 そう。自分たちのやりたいことを一緒にやってくれる存在。昔だったら、それやったらご法度(はっと)でしょ!ってこともやってくれる女神(ミューズ)が今の時代のアイドルなのかなって。
―なるほど。確かに昔のアイドルだったら、アイドルがチェーンソーを振り回して怪人を切り刻んだり、パンチラを見せてくれる姿なんて全く想像できないです。
井口 今は大手の芸能事務所じゃなく、個人がアイドルをプロデュースや運営することも増えました。その分、自由にモノを作りやすい傾向はありますよね。
―井口監督もノーメイクスというアイドルグループをプロデュースされて。
井口 元々、薬師丸ひろ子さんや原田知世さんのような80年代アイドル女優を発掘したくて。それでオーディションをやってイチからプロデュースしています。詞も書くし、イベントでは自分で司会もします(笑)。
みんなしてキスのやり方をネットで検索していた
―で、ノーメイクスが演じる『キネマ純情』という作品を撮られたわけですが。自主映画制作を題材にした青春映画で、なんと女のコ同士のキスシーンが満載! とにかくキスしまくりで驚きました!
井口 あははは。僕は昔から百合系の映画を撮りたかったんです。それこそ女のコ同士のキスがいっぱい出てくるような。これまでいろんなところに企画書を持ち込んだけど全てボツになって。ノーメイクスのおかげでやっと実現しました。特にアイドル映画では見ちゃいけないものを見たような背徳感があるでしょ。そのドキドキをお客さんと共有したかったんです。
―メンバーはキスシーンの連発に戸惑ったんじゃないですか?
井口 そうかもしれないですね。でも、あるキスシーンで、僕らは隠れて女のコふたりきりでアドリブで自撮りしてもらったんです。照れとか緊張を撮りたかったんで…。そしたら「うふふふ、のど飴舐めたー?」とか大人の僕らがドキッとするような言葉で絶妙なアドリブをやるんです。すごく感心しました。
―意外とキスの経験が豊富だったとか?
井口 いや、それが逆で、みんなしてキスのやり方をネットで検索していたみたいです。すごくおぼこいですよね(笑)。泊まり込みで撮影してたんですけど、メンバーたちは誰のキスが一番よかったかとか夜に部屋で話してたみたいですよ。
―あははは。そういう話もまたドキドキします(笑)。ちなみに監督は普段、バイオレンス&スプラッタな作品も撮りますが、今回はそういう激しさはありません。
井口 あえて封印しました。アイドル映画らしく撮りました。
―アイドル映画らしい撮り方とは?
井口 女のコのその瞬間の輝きを真空パックして撮るってことですね。芝居とか関係なく、存在をそのまま封じ込めるというか。今回は素人が多かったんですけど、芝居に関してはほとんど何も言わなかったです。そのコの魅力をそのまま出したかったんで。
最近では『監獄学園』の武田玲奈は…
―あえて、うまい演技を求めないと。
井口 そうです。最近だと『監獄学園』の武田玲奈さんはそんな風に撮りましたね。第一話で、彼女が相撲の手刀を切りながら「ごっつぁんです」と言うシーンがあって。ぎこちなかったけど初々しくてすごくよかったんです。それで撮影中、彼女には練習禁止をお願いしました。あくまで初々しい輝きのある彼女を撮りたかったから。できてなかったとしても、一所懸命やってるところを撮りたかったというのもありましたし。
―女のコの一所懸命さはアイドル映画の魅力でもあります。
井口 その通りです。しかもそういう初々しい一所懸命さって、当たり前だけど永遠のものじゃないんですよね。
―お芝居もうまくなっていきますし。
井口 僕、デビュー間もないコの作品を撮らせていただく機会が時々あるんですけど、何年かしてまた撮ると愕(がく)然とするんです。あれ!? あんなに何を言っても通じなかったのにって。撮りやすくなったなと思うと同時に、あの頃のキミはもういないんだなって寂しい気持ちにもなりますね(笑)。
―現在、ノーメイクスの映画の第二弾を撮っているそうですが、やはり可愛らしい青春ものですか?
井口 今度はもっと激しいです。一作目で封印した僕のテイストが出たものになります。バイオレンスとか。
―では人が死んだり…?
井口 死にまくります。リンチに遭って殺されてしまった女のコが幽霊になって、数年後に犯人たちに復讐する話です。しかもその犯人はもう家庭を持っていて子供がいるんです。果たして復讐なんてできるのかって…。作風はコミカルにしてありますけど、内容は超ハードですね。
―それをアイドルが演じるのは、まるで想像がつかないです。
井口 重厚な芝居をアイドルにやらせてみたい思いはあります。従来のイメージからはみ出した時に新たな魅力が出てくるのが2000年代の、今のアイドル映画ですから。正当なものを作り上げ、それを壊してまた違うものを次々と見せていく。ある意味、アイドル映画って「表現トライアスロン」というか。これが一体、どこまで突き進んでいくのか、僕自身もすごく楽しみにしています。
(取材・文/大野智己、撮影/武田敏将)
●井口 昇(いぐち・のぼる) 映画監督。『片腕マシンガール』『電人ザボーガー』ほか代表作多数。アイドルユニット、ノーメイクスのプロデュースを手掛け、主演映画『キネマ純情』を監督。3月10日から中村優一主演『スレイブメン』も全国ロードショー決定。
■キネマ純情 監督:井口 昇。百合キス、パンチラ、スク水…アイドル映画の必殺技が続く中、切なさに涙が溢れる(DVD3,980円+税 発売元:株式会社大頭 販売元:TCエンタテインメント)