今年のR-1本番直前、なんと下ネタはご法度だと告げられたアキラ100%「もう後戻りはできなかった」

2017年、熾烈を極めるお笑い界の中心に颯爽と素っ裸で登場したアキラ100%

教育テレビの体操のお兄さんを思わせる風貌と物腰からは、いわゆる“芸人らしさ”は微塵(みじん)も感じさせない。

この丸腰の男、一体どこにナイフを隠し持っているのか? 大反響となった前回記事「お盆で股間を隠すだけで3分持たせるって、結構大変なんですよ」に続く、第2回!

■安村さんとはコインの裏表だと思うんです

大学を卒業した後は、役者を目指し、小さな劇団に属していた。

「チャップリンとか、寅さんを演じる渥美清さんみたいな、笑えて、泣けてという喜劇役者が大好きでした。幼稚園の頃だったかな、夜、おやじがチャップリンの『街の灯』を見てて。ボクシングのシーンがあるんですけど、それが僕にはすっげーおもしろくて、笑い転げたのを覚えています」

だが、役者修業時代は、鳴かず飛ばずだった。

「ひたすら友達にチケットを売って、なんとか小劇場で公演をやってました。当時は、自分も売れない役者のくせに『やっぱり脚本がつまらないとダメだよな』とかって思ったりもして。30歳になって、人のせいにするくらいなら自分で書こうと思ったんです」

2005年、「タンバリン」というお笑いコンビを結成。ふたりが目指したのは、演劇の延長線上にあるコントだった。

「机の上でカリカリやって、ひねり出して、ひねり出してネタを作り込んでいたんですけど、まったく爆笑は取れなかったですね…」

タンバリンは10年末に解散。そこからピン芸人となり、約5年の歳月を経て、裸芸でようやくチャンスをつかんだ。

ただ、当時は「安心してください、はいてますよ」のフレーズで、とにかく明るい安村が裸芸でお笑い界を席巻(せっけん)していた。芸人仲間からは「タイミングが悪かったな」と気の毒がられたが、彼にはその指摘が不思議でならなかったという。

「やってること、真逆ですからね。『安村さんのパクリだ』とか書かれたこともあるんですけど、コインの裏表なんです。向こうは、はいてるけどはいてない風に見せる。裸ですよー、嘘だよー、っていうボケ。僕は、はいてないけど、絶対に見せない。でも、安心はしないでくださいね、っていうボケですから」

安村は、見せたくなさそうで実は見せたそう。アキラ100%は見せたそうで、絶対に見せるわけにはいかない。その羞恥心やスリルが客の共感を得たのだろう。

この2年間、裸のネタしか作ってこなかった

2年間、裸芸を掘り続けるなかで、紆余曲折もあった。

「丸腰刑事のコントは火事の現場に行ったり、取り調べシーンを入れたり、いろんなバリエーションを作ったんですけど、徐々に飽きられてきて。というか、みんなお盆ばかりに目がいって、コントの内容まで見てもらえなかったんです。これは実感ですけど、裸芸でスベることほどつらいことはないですね。ネタが終わった後、控室でひとり、真っ黒になった足の裏を拭くさみしさといったら

そこでたどり着いたのが、ショー的要素の強い「絶対見せないde SHOW」だ。ドリフターズの「ヒゲダンス」のテーマ曲に乗って登場し、ネタを終えるたびに「ひやひやしたんじゃなーい?」のセリフで締める。すると再び音楽が流れ、テンポよく次のネタに移る。

「(ドリフの)ヒゲダンスがすごく好きだったので、あの音をぜひ使いたかったんです。で、あれをブリッジ音にしたら、ネタとすごくマッチして、お客さんも自然と拍手してくれるようになったんです」

準備万端整って迎えた今年のR-1。ところが本番直前、芸の根本を揺るがしかねない事態に直面する。なんと下ネタはご法度だというのだ。

「過度な下ネタとか、卑猥な表現はダメだと。芸人仲間からは『おまえ、終わったな』って言われました。でも、自分はこの2年間、裸のネタしか作ってこなかったんで、もう後戻りはできなかった。これは下ネタではないと自分に言い聞かせてやり通しました」

R-1では、コントは封印し、「絶対見せないde SHOW」で押し通した。

「裸芸は最初の5秒でその日の場がウエルカムかどうかわかるんです。喜んでくれるか、引かれるか。引かれると、そこからコントをやっても絶対にウケない。裸芸は無理やりにドアをこじ開けるのではなく、向こうから寄ってきてもらわないとダメ。

今年やったネタは、何度もノックし続けるようなネタだったのもよかったんだと思います。R-1の電飾をふんだんに使った舞台も僕のシンプルな芸に合っていたのかもしれない。ラスベガスでショーをやってるようなイメージでしたからね」

この日は、リハーサル段階からスタッフたちの間でも大ウケだったという。その時点ですでに勝つ流れになっていたのだ。本番でも客ウケは断トツ。審査員たちも、認めざるをえなかった。

◆続編⇒“笑いが難しくなりすぎている”時代にアキラ100%が考える裸芸「日本に残されている笑いがあるとしたら…」

(取材・文/中村 計 撮影/村上庄吾)

●アキラ100%1974年8月15日生まれ、42歳。埼玉県出身。大学卒業後、芸能事務所に所属し、俳優を目指すも挫折。05年にお笑いコンビ「タンバリン」を結成。10年の解散の後はピン芸人として活動