一攫千金の夢を果たした探鉱者ケニー・ウェルスを演じたマシュー・マコノヒー

6月1日から、実話を元にしたスリリングなクライム・サスペンス映画『ゴールド/金塊の行方』が公開される。

1990年代、170億ドル相当の金塊がひと晩で消えるという衝撃のニュースが駆けめぐり、ウォール街を大混乱に陥れた。通称「Bre-X」事件と呼ばれるその騒動の中心には、インドネシアで巨大金鉱を見つけ、一攫千金の夢を果たした探鉱者ケニー・ウェルスが…。はたして彼は稀代の詐欺師なのか、それともアメリカンドリームを追い求めた犠牲者なのか?

渦中の主人公ケニーに扮するのは『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したマシュー・マコノヒー。SF超大作『インターステラー』での活躍も記憶に新しい彼が本作に惚れ込み、プロデューサーまで兼任。ハリウッドの主演俳優にも関わらず、ビール腹にハゲ頭という肉体改造までやってのけている。

なぜ、ここまでこの作品にのめり込んだのか? ニューヨークで直撃した。

―今のハリウッドはVFX満載の超大作か低予算映画の両極端になってしまって、本作のような大人向きの良質なドラマはほとんど作られなくなってしまいました。

「全くその通りだ。現実に基づいたキャラクター主導の良質なドラマこそ、ぼくが最も好きなジャンルで、映画ファンとして一番よく観ているんだ。実際、『ゴールド/金塊の行方』は、83年や78年に公開されても不思議ではない普遍性を備えている。アメリカンドリームを追い求めた男の物語だからね。

ネバタ州リノで倒産しかけた会社を経営していた男がインドネシアのジャングルに行き、ウォール街の最上階で暮らすほどに成り上がる。そんなことをなし得たのは、はたしてどんな人間なのか、ひとりの観客としてものすごく知りたいと思った。だからこそ、この作品に夢中になったんだ。

ただ、映画はビジネスだから、スタジオはゴーサインを出す前に金勘定をする。キャストと題材をみて、過去の作品を参考にし、制作費をはじき出す。実はこの映画も予算を1500万ドルくらいに下げていたら、実現は簡単だったんだ。でも、それだとニューヨークの場面はトロント、タイの採掘場面はアルバカーキあたりで代用することになって、求められるリアリティを醸し出すことはできない。それで、2500万ドルから3500万ドル規模で実現できるように頑張ったんだ」

―あなたは超大作『インターステラー』の主役を果たしているほどですし、説得するのも簡単だったのでは?

「ああいう映画のおかげで資金繰りが楽になったのは事実だ。次作の『ダークタワー』なんかもヒットを前提に作られている。スーパーヒーロー映画というわけではないけれど、スティーブン・キングの人気シリーズが原作で、世界中に読者がいるから公開前から期待値が高いしね。こうした作品に出ることは、やりたい映画を実現するためにも意味があるんだよ」

―この作品や『ダラス・バイヤーズクラブ』があなたのストライクゾーンだとすると、好きな出演作を見つけるのは大変じゃないですか?

「確かに『ダラス・バイヤーズクラブ』のような傑作にはめったに出会えないね。ただ、やりたい企画には幸い巡り逢えている。オファーを貰った30作品のうち、1本くらいはやりたいと思う作品だ。大抵は実話を元にしたドラマだったりスリラーだったりしてね」

ケニーは一攫千金を夢見、仲間たちと共に金鉱を探し求める

突拍子もないことをやるのが目的じゃない

―『ダラス~』では20キロの減量をしましたが、今回はでっぷりとしたお腹を披露できるほどに増量をしています。こうした肉体改造に抵抗はなかった?

「別に突拍子もないことをやるのが目的なんじゃないんだ。演じるキャラクターに導いて貰うことにしている。例えば今回、ぼくはケニー・ウェルスになりきろうと心がけていた。彼は貪欲でどんなことにもイエスと答える男だから、そんな彼になりきっていたら、いつのまにか体重が増えていたんだ。

ある時、鏡に映る自分の姿を見て、悟ったんだ。『ああ、今回はこういう方向でいくのか』と。ハゲ頭とか歯並びの悪さとかは、シカゴで見かけた普通の労働者を参考にして」

―健康面での不安はありませんでした?

「体っていうのは、自分が思っているよりもずっとタフなものだ。医者には診てもらっていないから確かなことは言えないけど(笑)」

―ちなみに、どうやって体重を増やしたのですか?

「ビールとチーズバーガーをたっぷり。心の底から楽しんだ。今はほぼ戻したんだが、まだ背中のほうにしぶとく脂肪が残っている状態だけどね(笑)」

撮影開始前に肉体改造を行ったマシュー・マコノヒー。その風貌は、完全にだらしない中年のおっさん!

―プロデューサーとして、『シリアナ』(※)のスティーブン・ギャガン監督の起用を決めたのはなぜでしょう?

「スティーブンは大人向けの良質な映画を撮る監督であり、ケニー・ウェルスというキャラクターを完全に理解していたからだ」

(※)『シリアナ』…スティーブン・ギャガンが監督・脚本を務め2005年に公開された政治サスペンス映画。

―でも、『シリアナ』から10年もブランクがありますよね。

「それは、ぼくも疑問に思っていた。『トラフィック』の脚本を書いて『シリアナ』を監督したクリエイターが10年も仕事をしていないなんて、おかしすぎるだろと。聞いたところによると、様々なプロジェクトに関わっていたけれど、最近のハリウッドの変化もあって、どれも実現に至らなかったというんだ。もしかしたら、そうした経験があったからこそ、この主人公に共感できたのかもしれない。ケニーは長い間、誰にもチャンスをもらえず、フラストレーションを抱えていたから」

ケニーと共に金鉱を探す、謎めいた地質学者マイケル・アコスタ。ケニーだけではなく、彼の存在もこの物語では重要な要素となっている。演じるのはエドガー・ラミレス。代表作に『カルロス』など。

成功を収めたとは思っていない

金鉱の行方に一喜一憂する登場人物たちが、熱量たっぷりに描かれている!

―では、あなたがケニーに共感できるのはなぜですか? デビューしていきなりジョン・グリシャム映画『評決のとき』で主人公に抜擢され、そのままずっと第一線で活躍しています。

「確かに、ぼくのキャリアはケニーとは全く違う。若くして有名になったし、過去25年の間、仕事に困ったことはない。ただ、ぼくは自分が負け犬だと思ったほうがキャリアにおいてもプライベートにおいてもうまくいくことを知っている。負け犬のように感じ、焦燥感に駆られているのが好きなんだ。

そもそも、成功を収めたとは思っていない。アカデミー賞を受賞して、それですべてを成し遂げた気分になんてなっていない。自分が信じてきたことが間違っていなかったと知って、ほっとはしたのは事実だけれど、もっと貪欲になった。この賞に値するような役者でいるためには努力し続けなきゃいけないってね。周囲から絶対にムリだと言われながら、夢を追い続けたケニーに共感できるのはそのせいかもしれないね」

―若くして成功を手にしたのに、どうしてそこまでハングリー精神があるのでしょう…。

「それについては、ある出来事が関係している。最初の出演作の撮影が始まってから5日目に父が他界したんだ。その晩、ぼくは夜中に起き出して、近くの木にナイフで文字を刻みつけた。無意識でやったことで、何を書いたかなんて覚えていなかったんだけど、朝になって木を確認すると、Less Impressed, More Involved(感銘を受けない。もっと関わる)と刻まれていた。それこそ、ぼくが必要としていた教訓だったんだ。

当時はいきなり映画撮影の現場に呼ばれ、あらゆるものに感激して浮き足立っていた。でも、この出来事で目が醒めた。共演者やスタッフに敬意を払うことは大事だけれど、与えられた仕事をこなすだけで満足しているだけじゃだめなんだ。それだと、上っ面の仕事だけで終わってしまう。

いい仕事をするためには積極的に関与し、その企画のエンジンにならなければいけない。さらに、リスクを取らなければいけない。自分が恐怖心を覚えるようなことをやってこそ、初めて成長できる。その信念は今でも変わっていないよ」

(取材・文/小西未来 (c)Lewis jacobs)

■マシュー・マコノヒー1969年11月4日、テキサス州生まれ。ジョン・グリシャム原作の『評決のとき』で主役に抜擢され注目を集める。その後も『コンタクト』(97)、『ニュートン・ボーイズ』(98)、『リンカーン弁護士』(11)、『マジック・マイク』(12)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)など話題作に数々出演。13年に公開された『ダラス・バイヤーズクラブ』では20キロもの減量をしてHIV陽性患者役に挑み、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞など主演賞を総なめに。その後、クリストファー・ノーラン監督のSF『インターステラー』(14)、渡辺謙と共演した『追憶の森』(15)にも主演。

●『ゴールド/金塊の行方』は6月1日(木)からTOHOシネマズ シャンテほかにてロードショー。詳しくはオフィシャルサイトにてhttp://www.gold-movie.jp/