クリープハイプ・尾崎世界観の創作の原動力とは? クリープハイプ・尾崎世界観の創作の原動力とは?

尾崎世界観(おざき・せかいかん)。ロックバンド、クリープハイプのフロントマンであり、作家としても活躍する彼が、エッセイ本『苦汁(くじゅう)100%』を刊行した。

彼の行動にネットでは常に批判が噴き出し、一方で芥川賞作家の又吉直樹ら著名人が彼の作品を激賞する。何かと人の心を動かしてしまう、その創作の原動力に迫った。

■音楽シーンは居心地が悪い

―今年も映画『帝一(ていいち)の國(くに)』の主題歌『イト』が大ヒット。アーティストとして活躍される中で、今回『苦汁100%』を出版された。初小説『祐介』の発行部数も5万部に迫っている。もともと歌以外の表現をやりたいとは考えていたんですか?

尾崎 バンドなんだから歌詞に込めて表現すればいいじゃないかと考える人もいると思います。でも自分の場合はそうじゃなくて、歌詞にしても足りないくらい言いたいことがあるし、それを言葉にして残す自信もあるので。やりたいなと思っていましたね。

―文章を書き始めるきっかけが何かあったんでしょうか?

尾崎 音楽からの逃げ道みたいなものでしたね。音楽は一番本気でやっているし、自信があるものだからこそ、うまくいかないとすごく悔しい。でも、本当に無理なときはそこばっかりを見ていても悪いことしか起きないだろうし。向き合いすぎてやめてしまうくらいだったら、一度逃げ出して別のことをやって状況が変わってくるのを待てばいいと思いました。

すごく頑張っているバンドが急にやめていったりする。そういうことが周りでも結構多いんです。でも、やめたら今まで作ってきた作品も嘘になってしまうような気がして。

そう思って文章を書き始めて、今ではそっちがうまくいかないのもものすごく悔しいんですけどね(笑)。

―でも、今年はすでにCDを3作リリースされていて、出演予定のロックフェスも多数。今まで以上に精力的に音楽活動をされていますね。

尾崎 今の邦楽のバンドシーンは居心地がとにかく悪いんです。自分たちが突き抜けて売れていたらフェスには出なくてもいいんですけど、力が足りず、今は売れるためには出ないといけない。今のフェスはお客さんがみんな同じノリで手を上げたり、変な輪をつくって踊ったりするのが流行(はや)りで。それに、そういうバンドシーンってすごく狭い範囲だと思うんです。そこでしか生きていけないことも悔しくて。

文章を書き始めたら、そこからいろんなつながりができて、もうちょっと大きなところにいきたいと思うようになりました。そのためには苦手なフェスに出たり、音楽で成功しなきゃいけないんです。

SNSの批判があるから作品を作れる

―『苦汁100%』は日記ですが、尾崎さんは日記をつける習慣は昔からあったんですか?

尾崎 インディーズ時代から『魔法のiらんど』というブログで書いていました。今日、あの時あそこでこうしておけばよかったという後悔を日記に頑張って書いて、文章で後から決着をつけるというか。

インディーズ時代にバイトしていて、そこで働いていたヤクザみたいな同い年の怖いヤツにトイレ掃除とかさせられたり、管理職の偉い人たちが座っているところに「すいません」って言って、足をどかしてもらって机の下のごみ箱をとってキレイにしなきゃいけなかったり。それが悔しくて悔しくて。そういうのも文章にして面白おかしく書けば、最後には勝てる気がしたんです。

―『苦汁100%』の中に40代の男性がライブ後、わざわざ出待ちをして「生きる力もらったぞ」って言ってきた、という一節がありました。日記に書くのはいやなことだけということでもないですよね。

尾崎 日々の凸凹を日記で後から平坦にしていく感覚です。その40代のおじさんはファンの方なんですけど、ちょうどこの前、岡山でやったライブにも来てくださって。曲中からブツブツしゃべってる怖い人がいるな、とは思っていたんですけど、その人が手を上げたときにブレスレットがジャラジャラついていて。「いつものあの人だ」と気づきました。でもその人、いきなりMC中に「ンアーッ」って叫び出したりするんです。

ライブってすごいデリケートで、そういうので周りのお客さんが引いちゃって盛り上がらなくなったりするので、すぐに「この前の高知のライブも来てくれましたよね」ってステージから聞いて。そしたらすごく喜んでくれて、「これあげる」ってピンクのハエがいっぱいプリントされた変な帽子を投げてきてくれて。そのまま、その帽子をかぶってライブしたんですけど、そういう珍しいタイプのお客さんがいることはうれしいですね。そういう人がいてくれると音楽をやっている意味があるなと思える。そういう体験は残したいですね、文章にして。

SNSの批判があるから作品を作れる

―ピースの又吉直樹さんが『アメトーーク!』で尾崎さんの初小説『祐介』を最もオススメする一冊に選んでいました。読者からはどんな感想が寄せられていますか?

尾崎 『祐介』は「読んでもわからない」と言う人が多かったですね。買ってくれたファンの方から印象的な意見が届いて。たぶん高校生なんですけど、「貴重なお金を使ってせっかく買ったのに本当に無駄なことをした。こんな小説にお金を使わなきゃよかったよ。本当に悔しいし、悲しい」って書いてありました。

僕、ネットで「声が気持ち悪い」とかってよく書かれているんですけど、そういう批判とはまったく質の違うものですよね。お金を払って身を切った上で批判してくれるなら、小説書いてよかったと思いました。でも一方で、やっぱり本当に腹が立つヤツもいて(笑)。昨日もSNSで「尾崎世界観がどうも嫌いで、なんかいやで……(あまりに長いため後略)」って投稿されてました。

 「楽しいから」という理由で予定よりも1時間以上長く、たっぷりと話してくれた 「楽しいから」という理由で予定よりも1時間以上長く、たっぷりと話してくれた

バンドもやめるのがそもそも面倒くさい

―『苦汁100%』の中でも、SNS上の「尾崎がメンズノンノに出てて笑える。あいつをイケメンだと思ったことはない。うひゃひゃってなる」という投稿を受けて、その投稿者の過去のログをさかのぼって、イタい投稿を探してイジっていたのが面白かったです。

尾崎 批判を見つけたときは腹が立って、許せなくて部屋でひとりで悶絶するんです。それでそいつを下に押し込めてやりたいと思って、人間は笑われるのが一番いやだろうからラジオや日記で笑いにしていますね。

どうしようもない、なんでもないヤツなんか相手にしなくていいじゃんって周りには言われるんですけど、なんでもないヤツだからこそ腹が立つんです。尊敬している人に言われたらそれはしょうがないと思うんですけど、なんでこいつに言われなきゃならないんだってなるんですよね。

―SNSを見ないっていう選択肢はないんですか?

尾崎 本当に疲れる性格だと自分でも思うんですけど、見ないようにしていても結局見ちゃいます。そういう批判的な人がいるからまだ作品が作れるなとも思いますけど、ちょっとしんどいときもあります。ダメージを食らってるから、もう捨て身でやっている感じです。

―壮絶ですね。先日、水道橋博士の『メルマ旬報』(*)には、「日記もやめ時かな」と書かれていました。

尾崎 本当はそろそろやめたいなと思ってますね。どこまでやるんだろうって先を考えたときにつらくなって。でも博士にやめますって言えない(笑)。そのプレッシャーのおかげで今はなんとか保てています。

バンドでもそうで、よく続けてられるねって言われるんです。でも、今やめてもまたやりたくなると思うんです。だから、やめるのがそもそも面倒くさい。ここまで来ることはもうないかもしれないから、もうちょっとやっておこうかとまた5分走る。今走ったら次は走らなくてもいいかもしれないしっていう気持ちでずっとやってきました。

―じゃあ、尾崎さんを見られるうちに見ておかないといけないですね。

尾崎 見ていただけるならぜひ。

(*)芸人・水道橋博士が編集長を務める有料メールマガジン。尾崎世界観はここで『苦汁100%』の原形である日記を連載中

(取材・文/神田圭一 撮影/市村円香)

●尾崎世界観(おざき・せかいかん) 1984年生まれ、東京都出身。ロックバンド・クリープハイプのボーカル、ギターであり、作家。2012年に『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビューし、その後、日本武道館公演を行なうなどシーンを牽引する存在に。16年に刊行された初小説『祐介』は『アメトーーク!』の読書芸人大賞を受賞するなど話題を集めた

『苦汁100%』『祐介』 自身の生活を赤裸々につづったエッセイ、『苦汁100%』(5月に出版)。16年に刊行された、売れる日を夢見る若きバンドマンによる大逆走の日々を描いた尾崎氏の初小説『祐介』(ともに文藝春秋)