日本におけるDJの先駆けにして、UAやbirdのプロデューサーとしても知られる大沢伸一のライフワークともいえるソロ・プロジェクト「モンド・グロッソ」が14年ぶりにオリジナルアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリースした。
このアルバムはモンド・グロッソとしては初めての全曲日本語詞によるボーカルアルバムで、UA、bird、相対性理論のやくしまるえつこなど先鋭的な面々に加え、乃木坂46の齋藤飛鳥、女優として活躍する満島ひかりまで参加。ダンスミュージック、ロックを中心としたサウンドを華やかに彩っている。
1991年にモンドグロッソを結成し、DJ、プロデューサーとしてグローバルに活動を行なう一方、昨年夏には「私立恵比寿中学」の『summer dejavu』をプロデュースするなどさらに幅広く、今なお第一線で活躍。
この夏にはフジロックフェスティバル’17の出演も決定し、そのライブにますます期待が高まる中、大沢氏を直撃。14年ぶりの新作やその精力的なクリエイティブの裏側までを聞いた。
―大沢さんは『週刊プレイボーイ』を読んだことありますか?
大沢 もちろんありますよ。10代の頃、たまに読んでました。
―好きなアイドルとかタレントはいました?
大沢 週プレで見たかは覚えてないけど、多岐川裕美さんですね。小学生の時に「酸っぱい体験」ってシングルも買いました。美人なんだけど、どこか影がある感じが好きでしたね。
―おーっ。週プレにも何度か出ていただいてますけど、小学生で好きって、かなりマセてません?(笑)
大沢 そう言われてみればそうですね(笑)。
―でも、さすが海外でも活躍し、ファッション業界からも支持されるDJ&プロデューサー。凛(りん)とした大人の女性である多岐川さんが好きだったのもなんとなく納得しますけど。
大沢 あははは。昔から洗練された感じが好きだったのかも。
―さて、そんな大沢さんのソロプロジェクト「モンド・グロッソ」が14年ぶりのアルバムリリースとなりました。なぜ今敢えて、その名義で出すことにしたんですか?
大沢 簡単に言えば、周りに促されてですね。モンド・グロッソだと何をやるのっ?て話になっちゃうから、ずっと個人名で活動してたんですけど、いつかはやるつもりではあったし、じゃあやろうかなって。でも始めたら、そうそう簡単じゃなかったですけどね。
―ただ、海外でも知られる日本のクラブミュージックの先駆けですし。その久々のアルバムが全曲日本語の歌モノというのは意外でした。
大沢 裏をつかれたでしょ(笑)。今までやったことがないことをやろうと思って。それがモンド・グロッソですからね。元々、日本語のボーカル曲をプロデュースするのは嫌いじゃないし、今はJポップに限らず、日本の曲もカッコいいものが多いから、自分もその一部になれたらいいなと思って。日本語ボーカルのアルバムになったのは自然な成り行きですよね。
ボーカリストの人選からスタジオまで極まった
―曲的には、いわゆるクラブミュージック以外にもギターをフィーチャーしたロックまで多彩ですよね。
大沢 うん。その辺りは今までなかったですよね。80年代によく聴いてたロックっぽい感じが出ているのかも。
―特に話題なのがゲストボーカル。満島ひかりさんや乃木坂46の齋藤飛鳥さんなども参加してますが、その人選はどんな意向で?
大沢 今回はほとんどスタッフの提案です。日本語アルバムにするって決めた後、アイデアを出してもらいました。みんなモンド・グロッソに思い入れのある人なんで、じゃあ受け入れようかなと。
―いろんな人の意見を受け入れることで可能性を広げるみたいな。
大沢 そうそう。自分のスタイルを崩すつもりはないけど、いろんなものを受け入れ、自分のものにしていくというか。そのほうがよりいいものが生まれる可能性はありますからね。
―実際に、満島ひかりさんがボーカルの『ラビリンス』はどんな感じで制作されたんですか?
大沢 彼女自身、最初はこう歌おうというのがあったみたいですけど、気負わず自然に湧き出たものを出してくださいって、それだけ指示しました。ブースで椅子に座ってリラックスした状態でトライして。そうしたら1~2テイクで終わっちゃって。素晴らしく素直な人だなと思いましたね。
―『惑星タントラ』を歌った齋藤飛鳥さんも気になりますが、彼女はどういう経緯で?
大沢 知人から面白いコがいるからって紹介されて始まったんです。で、実際に会ってみたら、宇宙人みたいな不思議な雰囲気を持ってて。現場では声は小さかったけど(笑)。アイドルっぽくなく文学少女だとうことを聞いたので、彼女に合わせて曲の雰囲気を変えました。
彼女に関しては、やくしまるえつこさんがレコーディングにも立ち会ってディレクションしてくれたんです。
―曲はそれぞれのボーカリストに合わせて制作を?
大沢 今回、誰かを想定して作った曲はあまりなくて、結構、元からあったスキットやデモを使いましたね。少しメロディやアレンジを変えたりはしたけど。
―お話を伺ってると、最初から最後まで細かに計算して作り込むよりはむしろ、いい意味で力を抜きながら制作した印象を受けます。
大沢 そうですね。最初からこう作ろうみたいな設定はしてないですね。最初の一手だけ考えて、あとは成り行きに任せるというか。あるいは仮に設定したとして、途中で変わったら元に戻らないようなルールにしたり。
元々、僕の作品は誰かとの化学反応みたいなものが多分に含まれるんですけど、今回はボーカリストの人選からスタジオまでそれが極まった感じですね。
―ある意味、その化学反応をより楽しめるようになったと。
大沢 うん。やっぱり大半のミュージシャンは育んできた自分のスキルとかテイストとか守りながらいろんな音楽を作ろうとするんですけど、僕はそれさえも場合によってはなくしてもいいと思って。どんどん変えたいし、それこそ自分らしさだってなくしたっていいと思うんです。それよりも今までになかった新しいものを作りたいって思うんですよね。
僕、結構、天邪鬼なんですよ(笑)
―ちなみに、ご自身は最近のJポップを聞きます?
大沢 ほぼ聴かないですね。普段からJポップを含めて、シーンとか意識しないですし。今回も日本語曲ではあるけど、一切、日本語の曲は聴かずに作りたかったんですよ。
―でも、売れてるものは自然と耳に入ってきちゃいません?
大沢 いやそうでもないですよ。僕、TV観ないし、ネットもやみくもに見ないし。
―DJとして、新しい曲なんかはどうチェックしてるんですか!?
大沢 普段は特定のサイトを見たり、あるいは一部の信頼おける人に教えてもらったりしてますね。今、世の中はキュレーションが必要とされてますけど、僕自身はむしろフィルターが必要なんだと思っていて。今ってSNSとかで知りたくもない他人のランチの情報なんかもを見せられる時代だし(笑)。
よく僕はトレンドを追いかけてるように見られるんですけど、そうじゃないんですよ。自分が作りたいと思うものを作ろうとしているだけなんで。
―それにしても活動を始めて25周年です。活動の原動力ってなんでしょうか? メッセージとか?
大沢 メッセージはないですね。音楽で何も伝えたくないんですよ。だって子供の頃、音楽を聴いて「かっけ~」って思った時に意味を考えました? もちろん、フォーク歌手とかメッセージを大事にする人もいると思うけど、僕にはない。音楽は受け手が自由に感じればいいんです。それ以上の意味を持たせると嘘になる気がします。
―では、表現はどこからくるんですか?
大沢 言ってしまえば、ただの自己表現ですね。それも自分の内側にあるものだけを表現するというより、自分が何かに反応してできたものというか。今回はまさにいろんな人の力を借りて、刺激を受けながら完成しましたね。
―なるほど。誰かの力を介在するからこそ、アルバムタイトルは「何度でも新しく生まれ変われる」と。
大沢 いや、実はそれもそれほど意味はないんです(笑)。1曲目の歌詞の中にあるフレーズを使わせてもらっただけで。
―えっ、今回はそういう心境にたどり着いたのかなって。
大沢 まぁそれもないわけじゃないけど、そこまで深い意味はないですね。素直になったのかなーって思わせたかったというか。要は裏をついたんです。僕、結構、天邪鬼(あまのじゃく)なんですよ(笑)。
―(笑)ちなみにフジロックではどんなライブを行なう予定なんですか?
大沢 ギリギリまでつめているところです。きっと面白いことになると思います。当日までのお楽しみですね(笑)。
(取材・文/大野智己 撮影/井上太郎)
■大沢伸一(おおさわ・しんいち) 1967年2月7日生まれ。滋賀県大津市出身。音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家など多岐に渡り活躍。世界を股にかけて活動。代表的なプロジェクトのひとつMONDO GROSSOの最新アルバム『何度でも新しく生まれる』を6月にリリース。7月29日にはFUJI ROCK FESTIVAL’17への出演も決定。詳細情報やLIVE/DJスケジュールはオフィシャルホームページでチェック!