7月1日、週プレNEWSの特設サイトにて開催されていた「キン肉マン超人総選挙2017」の投票結果発表会が新宿・歌舞伎町の週プレ酒場で開催され、ゲストとして『キン肉マン』原作者のゆでたまご・嶋田隆司先生、そしてスピンオフギャグ作『THE超人様』を当サイトで連載中の漫画家・石原まこちん先生が登壇。
その発表を前にトークショーが繰り広げられ、盛り上がった公開対談の内容をリポート。嶋田先生をして「変態的」とまで言わしめた、まこちん先生の限りなき“肉愛”とは!?
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―まこちん先生は『キン肉マン』がメチャクチャ好きすぎて、そのまま漫画家にまでなってしまわれたとのことですが、そもそも最初の出会いはどういうきっかけだったんでしょう?
石原まこちん先生(以下、石原) 嶋田先生のいらっしゃる前でこういうのはなんですけど、最初は立ち読みだったんですよ。それまでは漫画自体あまり読んだことがないくらいで興味もなかったんです。でもそこで立ち読みした『キン肉マン』の舞台が東京の田園調布だったんですよね。それでものすごく衝撃を受けまして。
嶋田隆司先生(以下、嶋田) まこちん、ずっと田園調布に住んでるんやもんね。
石原 はい、子供の時からずっと住んでる地元です。その地元の風景が『キン肉マン』の中にどんどん出てくるんですよ。キン肉ハウスも田園調布だし、あとキン肉マンとバッファローマンが闘った田園コロシアムもすぐ近くにありました。
嶋田 ええトコに住んでるよね~。
石原 いや、よく誤解されるんですけど僕は違うんですよ!(笑) 田園調布って高級住宅街のイメージが強いですけど、僕に言わせるとあそこはジャマイカみたいな町だと思ってて(笑)、くっきりアップタウンとダウンタウンに分かれてるんです。僕はダウンタウン育ちのほうですから。
アップタウンには、確かにめちゃくちゃ大金持ちの人が住んでますけど、ダウンタウンはそうでもなくて。だってお風呂入るのに1回、家から出ないといけないような家に住んでたくらいです。キン肉マンも同じようなところに住んでるのが嬉しかったんですよ。
他にも町のあちこちの風景を見ては「ここはキン肉マンがアレをやった場所じゃないか!?」とか、いろいろ妄想するようになって、それでどんどん引きこまれていきましたね。
―そもそもキン肉マンの住まいを田園調布に設定されたのはどうしてなんでしょうか?
嶋田 僕は出身が元々、大阪なんで、その頃はまだ東京のことをあまりよく知らなかったんですよ。キン肉マンを東京に住まわせようとした時に高級住宅街に勝手に掘っ立て小屋立てて住んでたら面白いかなぁと思って。
当時の僕が聞いたことのある高級住宅街というと田園調布か成城だったんですけど、当時は国民的ヒーローだった長嶋茂雄さんが田園調布に住んでるというのがすごく印象深かったので。じゃあ、そこに住まわそうということにしたんです。勝手に小屋建ててるだけですけど(笑)。
石原 キン肉ハウスがあった場所の目星はついてるんですよ。多摩川沿いのフェンスに囲まれた空き地で当時、長嶋さんのランニングコース沿いだった場所があったんです。
―確かに初期の漫画の中にも、長嶋さんがキン肉ハウスの脇をランニングしてるシーンがありますよね!
石原 はい、たぶんそこじゃないかと思うんですよね…妄想ですけど(笑)。でも『Ⅱ世』になってからキン肉ハウスの場所が変わってるんですよ。フェンスに囲まれた空き地じゃなくて「美波理(ビバリー)公園」という土の公園に変わってて。僕の予想では、田園調布に実際にある宝来公園というのがそのモデルなんじゃないかと思ってるんですよ、もちろんこれも妄想ですけど。
昔からずっと妄想してたんや?
―まこちん先生の妄想が捗(はかど)って止まりませんね。それにしてもキン肉ハウスの場所が昔と変わってるという指摘なんですが、これは一体?
嶋田 追い出されたんでしょう。そもそも勝手に小屋建てて住んでるだけですからね(笑)。それで追いだされるたびに建て直して、この辺りを転々としてるんですよ、妄想ですけど(笑)。
石原 なるほど、それで今は「美波理公園」こと宝来公園に…。
嶋田 でも、そうやって特定してくるまこちんがすごいよね(笑)。昔からずっとそんな妄想してたんや?
石原 ずっとしてましたよ!(笑) キン肉マンがマスクをめくってドブ川を清流に変えたというエピソードがありますけど、あれも絶対に田園調布の近くを通ってる呑川だと僕は思ってましたもん。そっくりなんです。
嶋田 確かに、写真見たら似てるんですよ。でも中井君(作画担当:中井義則先生)に聞いたらあんまり田園調布に詳しくないみたいなんやけどな。不思議やな~。
石原 えええ…。
嶋田 そういう聖地巡礼みたいなのって面白いよね。そこまで言われたら今度、僕も是非行ってみたくなってきましたよ。
石原 ええっ、本当ですか? 嬉しいです! でも『キン肉マン』好きな人なら、田園調布めぐりは絶対楽しめると思いますよ、本当に見どころ満載ですから!
―そうして影響されてきたまこちん先生が、とうとうその作者の嶋田先生と初めてお会いされたのが5年ほど前ということで。
石原 共通の知人がいる飲み会の席に呼んでいただきまして。あまりにも畏(おそ)れ多くて、その知人から誘われてもずっと躊躇(ちゅうちょ)してたんですけど、とうとう意を決してお会いさせていただきまして…。
嶋田 でも最初は僕も意外でビックリしたんですよ。だって、まこちんの『THE3名様』という漫画は会う前からずっと知ってて読んでもいましたけど、全然作風違うじゃないですか。だから実際に会うまでは、僕らみたいな作家にそんな興味あるのかなって思ってたくらいで。
石原 え、そうだったんですか?
嶋田 ジャンプの後輩の作家さんが『キン肉マン』を好きって言ってくれるのはよくわかるんです、作風に何かしら共通点が見えるので。でもまさか『THE3名様』の作者がそんな興味あるとは想像もしてなかったので。それで初めてお会いして、来たのがこんな感じじゃないですか(笑)。
石原 サインいただいたのはよく覚えてるんですけど、それ以外はもうめちゃくちゃ緊張して何をしゃべったかちゃんと覚えてないくらいで。とにかく嬉しかったという気持ちだけが出てた感じだと思うんですけど。
嶋田 いや、もう最初は遠慮してらっしゃるような感じだったんですけど、いったんしゃべり始めたらもう「わーっ!」て感じですよ。今日みたいに(笑)。
石原 すみません。ホントにすみません!
なぜマイナーな3超人が主人公?
嶋田 いやいや、でもまこちんは影響されたって言うんですけど、実際『THE3名様』のどういうところに『キン肉マン』が影響してるのかがすごく聞きたかったんですよ。
石原 それはやっぱり友情なんですよ。『THE3名様』って男3人がファミレスでダラダラ喋ってるだけの漫画なんですけど、でもあの3人ってああ見えて結束だけはすごく強いんですよ。絶対に裏切らない信頼感があって。そこは『キン肉マン』の影響ですね。
嶋田 ああ、そういうことなんや? 聞くまで全然わからへんかったけど、やっと少し納得したわ(笑)。
石原 それはもう、僕が友情を学んだのは完全に『キン肉マン』からですから、あの3人の気持ちの根底にも『キン肉マン』は必ず入ってます!
―それほどのヘビーな『キン肉マン』好きが昂(こう)じて、本家ゆでたまご先生公認のスピンオフ漫画の連載まで始められることになりました。『THE超人様』というタイトルで、3人の超人がファミレスでダラダラ喋っているという…。
嶋田 一緒やん(笑)。
石原 すみません。ホントすみません!
嶋田 でも面白いよね。まこちんのセリフのセンスもいいしテンポもいいし。こういうの僕、好きですよ。
石原 ありがとうございます!
―まず伺いたいのは3超人のチョイスなんですが、カナディアンマン、スペシャルマン、プリプリマンの3人ということで。なぜこの3人に?
石原 やっぱりキン肉マンとかテリーマンとかロビンマスクとか、そのあたりは絶対にイジれないんですよ、リスペクトが強すぎて。僕みたいなのがセリフを勝手につけるということすら許されないと思うんですよね。
嶋田 そんなことないよ(笑)。
石原 いやいや、ダメです! だからどうしようかと悩んだんですけど…でもこの辺りならいいかなぁ~と思ったのがまずカナディアンマンとスペシャルマンのコンビで。
―いいコンビですよね?
石原 そうなんです。カナディアンマンは正義超人なんですけど、なんと言いますか結構、人間味のある描写が多くて…。
―マイルドな表現をされてますが、ありていに言うと性格に少々難が…(笑)。
石原 そうなんです。結構、平気で暴言吐いたりすることがあって正義超人なのに面白いなぁと思ってて。
嶋田 結構ヒドイよね(笑)。
―嶋田先生の中でカナディアンマンはいつからこんな扱いに…?
嶋田 いや、最初は推そうと思ってたんですよ。デザインもカッコいいじゃないですか。それでロビンマスクと闘わせたり。でも描いてるうちに…やられ役が映えるなぁと思い始めまして(笑)。
気になる総選挙の順位は?
―最初の相手がロビンマスクだったのが運のツキだったと。
嶋田 こういう超人も必要なんですよ(笑)。
石原 でも友達に恵まれてますよね。いつも一緒にいる相棒のスペシャルマンは逆にすごく優しいんですよ。そのふたりが親友というギャップもまた面白くて。それでこのふたりで喋らせたら、いろいろとギャグが成立しそうかなぁと思って選ばせてもらいました。
嶋田 うん、いいと思いますよ(笑)。
―それでもうひとり、プリプリマンという超人なんですが…。
石原 はい、7人の悪魔超人編の最初のメンバーで出てきたけど、すぐに消えた超人で。
―知らない人は誰も知らないという伝説の超人ですね。翌週には別の超人に差しかわっていたという…。
嶋田 出したのはいいんですけど、さすがにどうかなぁと思って。差し替えたんです。
―結構、あっさりと?
嶋田 だって、これ無理でしょ(笑)。週刊漫画って毎回ラストの引き大事なんですよ。それでまだ決まってないけど、とりあえず敵を全員見せようと思ってこの時は急いで7人選んだんです。でも原稿提出して改めて見直したら、やっぱりこれはないなって。
石原 でもそういう超人だったら、普段は不遇なカナディアンマンとスペシャルマンも気楽に喋れるかなぁと思って…それで選びました。
嶋田 そういう活かし方ができるんなら、あとで単行本で修正せずにしておいてよかったです(笑)。
―では最後になりますが、嶋田先生から改めてこの連載を始められたまこちん先生にお言葉をいただいて締めとさせていただいてよいでしょうか?
嶋田 今回始めていただいた『THE超人様』はギャグ漫画で、僕らの『キン肉マン』も元々はギャグ漫画として始まったんですけど、でも僕らがギャグをやっても絶対こういう漫画にはならないし、できないですよね。それは今回のスピンオフに限らずで、まこちんは今の若い人の言葉や感覚の入れ方が本当に上手いと思ってて。そのセンスをちゃんと落とし込んでくれてるというのが、僕としても非常に嬉しいし好きですね。
僕らが自分で描けるものなら僕らは自分でやりたがるから、そういうお話がきても普段は断るんです。でもこれなら僕も見てみたいと思ったので、やってもらうことにしました。これからも楽しみにしてるので、どんどん好きにやってください(笑)。
石原 ありがとうございます! 頑張りますのでよろしくお願い致します!
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『キン肉マン』公式スピンオフ作品『THE超人様』は毎週金曜、『キン肉マン』は毎週月曜に「週プレNEWS」にて最新話を無料公開更新中! 新シリーズも再開し、ますます見逃せない展開をチェックしていただきたい!
(取材・文/山下貴弘 撮影/鈴木大喜 キン肉マップ(c)石原まこちん)
◆今回のイベントの後半ステージで発表された「超人総選挙2017」の投票結果は週プレNEWSのWEB特設サイトにて公開中!
●嶋田隆司(SHIMADA TAKASHI)1960年、大阪府生まれ。中井義則先生との漫画家コンビ「ゆでたまご」の原作担当。1979年に少年ジャンプで始まった国民的作品『キン肉マン』は今なお週プレNEWSにて週刊連載中。
●石原まこちん(ISHIHARA MAKOCHIN)1976年、東京都生まれ。2000年から続く代表作『THE3名様』は3人の若者がファミレスでひたすらダベる様子を描いたギャグ作品で、2005年には福田雄一監督・脚本で実写映像化も。
◆東京・六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで「創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展vol.1」開催中(7月18日~10月15日)。キン肉マンの特設ブースほか黄金期の80年代作品を中心に必見! 詳細はオフィシャルHPにて