今年で誕生から100周年を迎えた日本のアニメ--。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーに、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けする。
第2回目は、声優の高木渉(わたる)さんが登場。『名探偵コナン』の小嶋元太や『GTO』の鬼塚英吉など数々の有名キャラクターを演じ、2016年にはNHKの大河ドラマ「真田丸」で武田家の家臣・小山田茂誠役を務め、俳優としてアニメファン以外からも大きな注目を集めた。
今年でキャリア30年を迎えるベテラン声優でありながら、役者との両立という新たな挑戦をしている高木さんはいかにアニメ業界を駆け抜けてきたのか? 声優としてのキャリアを振り返った前編「アドリブはしようとしなくていい」に続き、今回は声優という仕事の未来についてまでを伺った。
■『真田丸』出演への経緯
―昨年の『真田丸』への出演はご自身にとっても大きな転機になったのではないかと思います。そもそも、なぜ出演することに?
高木 三谷(幸喜、脚本家)さんとはNHKで放送された『連続人形活劇 新・三銃士』で初めてお会いしました。その後、PARCO劇場で三谷版『桜の園』に出演させていただき、『シャーロックホームズ(人形劇)』でもご一緒させていただきました。
僕は声優と並行して舞台もやっているのですが、ダンスと芝居のコラボレーションの舞台に僕が出演していた時にシャーロックホームズの時のプロデューサーが劇場へ観に来てくれたんです。その時に『渉くんは映像はやらないの?』と言われたのがきっかけで。三谷さんからもぴったりの役があるから、と連絡をくださったんです。
―なるほど。大河ドラマ抜擢の背景にはプロデューサーが高木さんの舞台での演技を観ていたことも影響していると。
高木 そうですね。「高木さんに甲冑を着せてみたい」って言われました。嬉しかったです。
―舞台経験者であっても映像は別物ですか?
高木 僕は何度も何度も稽古をしながら役を作っていきたいタイプなので、まだ別物という印象ですね。舞台は稽古期間があるので、ああでもないこうでもないと考えながら、時には稽古のあとに共演者とご飯を食べながら本番に向けて役作りしていけるのですが、映像は時間が限られているし、本当に瞬発力と対応力が必要とされるなぁって思います。アニメと違って本番で台本も持っていられませんしね(笑)。
演技するという意味ではどちらも同じ
―今は高木さんのケースとは反対に、俳優の方がアニメの声優をすることも増えていますよね。その場合の難しさもあるんでしょうか?
高木 うーん。これは僕の想像ですけど、声優の仕事ってマイクに向かってモニターを見ながら演技していくんです。なので、共演者の芝居は耳で聞いて、お互い目を見てお芝居することってないんです。それから口パクに合わせるというのも制約がありますよね。人それぞれ芝居の間の取り方や速さなども違いますから。口パクに合わせる演技という、どこか職人的なところがありますね。
俳優さんが声優をやると時々、棒読みだなんて言われることがありますよね。どんな仕事もそうかもしれませんが、声優の仕事も経験というか慣れが必要なんだと思います。どこかまだ自分が馴染めない状態で演技をしてしまったりして。そういう人には声優は難しいと感じるのではないでしょうか。
―慣れということは、現場をこなしていけばできるようになる?
高木 僕はそう思います。演技するという意味ではどちらも同じですから。
―では、高木さんが『真田丸』に出演したように声優と俳優の垣根はどんどんなくなっていくと思いますか?
高木 そうなっていくと良いですね。声優の仕事をしながらどうやって映像の仕事も並行してやっていけるか、時々マネージャーと話したりもします。アニメとドラマでは収録の仕方もスケジュールの押さえられ方も違うのですが、そこをなんとかうまく調整しながら両立させていきたい。そういうことを積み重ねていけば、だんだんと垣根はなくなっていくのではないかと思っています。
■好きこそものの上手なれ、に尽きる
―今や声優はアニメの声を演じるだけでなく、歌手や俳優など活躍の幅が広がっています。若い世代だとアイドルの領域とかぶってくる人も増えてきた印象です。
高木 もはや声優は影の仕事じゃなくなりましたよね。
―だから僕らも、今後は声優さんたちを当然のように取り上げていかなきゃいけないなと思っていまして。
高木 ライブをやったり舞台をやったりイベントもものすごい人気があって、ツイッターも何十万というフォロワーがいたりと、今や声優の世界も表舞台でどんどん活躍の幅が広がってますね。
―とはいえ、表舞台に出ることに対する苦手意識を持っている若い声優さんも多いと聞きます。そんな若い世代にアドバイスを送るとしたら?
高木 僕はまだ映像の俳優としては2年生なので、カメラアングルを意識して芝居するとか全然分からないんです。だから自分としては、演技に集中してあとはカメラマンさん、なんとか撮ってくださいとしか言いようがないのが正直なところで(笑)。でも、そこでお芝居しているのが楽しいんです。
これが苦痛だったら、「僕はずっと声優でいいです」と言っていたと思います。今の若い世代の声優さんはそもそも何でも挑戦する意欲を持っているとは思いますが、まずはなんでもやってみて、楽しいと思ったことを続ければいい。
僕はイヤなことはやる必要はないと思います。「好きこそものの上手なれ」って言うじゃないですか。好きだからこそ掘り下げて勉強したくなるんだと思います。無理に表舞台に出る必要もないと思います。
人生一度きりですからね
―その上で好きなことを知るためには、まずやってみないといけない。
高木 そうですね。僕もドラマの出演は初めてでしたけど、小山田茂誠という役をやったことで、それが自分の芸歴になって周りの人が「この人はドラマもやるのね」と見てくれるようになった。それは『ガンダムX』で初めて主役をやった時もそうだし、『GTO』の鬼塚英吉もそう。どんどん「こんなこともやります出来ます」って僕なりの旗を立てていったわけです。
―特別な自信があったから引き受けたわけじゃなくて「やってみたらなんとかできました」の積み重ねだと。
高木 そう…ですね。ただ、初めてのドラマ出演が大河だったというのは大きいですね。
―というと?
高木 「大河ドラマは誰でも出られるものじゃないと思っていたし、僕なんておいそれと出ちゃいけないのでは?」という気持ちはやっぱりありましたよ。でも、心のどこかで「こんなチャンス、二度とないよな」とも思ったんです。「絶対やらなければ後悔する」という気持ちがどんどん勝って、出させてください!って気持ちになりました。
―でも、それが人生の転機になったわけですからね。
高木 本当にそうですね。人生一度きりですからね。なんでも挑戦してみたほうがいいんですね。向いているか向いていないかは、そのあとで考えればいいんじゃないかな。
―では、キャリア30年目を迎え、今後はどんな挑戦をしていきたいですか?
高木 それはもう、いただける役ならなんでも(笑)。俳優でも声優でも演じられる場があるかぎり、観てくださっている皆さんにこれからも必要とされる役者でいたいです。魅力的で説得力のある役者になれるよう努力していきたいですね。『101年目のアニメ』から、また新たなブームが起こせたらいいな(笑)。
(取材/小山田裕哉 撮影/五十嵐和博)
■高木渉(たかぎ・わたる) 1966生まれ。千葉県出身。勝田声優学院卒業。アーツビジョン所属。劇団あかぺら倶楽部所属。『機動新世紀ガンダムX』ガロード役、『GTO』鬼塚英吉役、『名探偵コナン』小嶋元太・高木刑事役など、人気作に多数出演。2016年にはNHK大河ドラマ『真田丸』小山田茂誠役でドラマ初出演を果たす。