まず、九尾の狐の化身である玉藻前が踊りで観客を魅了

26歳のアートディレクター・Myuさんは、パーティーやイベントを盛り上げる“とある演出”の仕事を2年半に渡り続けている。その演出とは、モデルの身体にフードを盛り付け、鑑賞してもらう――いわゆる“女体盛り”だ。

彼女が手がけた女体盛りは、作品集として8月18日に販売され、同日には新作の女体盛りショーも開催された。普段はお寿司を盛り付けているが、今回のテーマは『茶会×怪談×NYOTAIMORI』。室町時代からの伝説であるキツネが化けた“玉藻前(たまものまえ)”を演じる女性が舞いを披露。終わると、静寂の中で彼女に和菓子が盛り付けられ、茶の師範が点(た)てたお茶で一服できる…という趣向だ。

イベントが始まると会場の空気は一変し、緊張感が走る。集まった観客100人は黒い和服を着た玉藻前の動きや、着物を脱ぎ盛り付けられていく様子に固唾を呑むように魅入っていく。実際に和菓子を食べた女性は「美しいなと思って見ていたんですが、お菓子を手にする時は緊張で手が震えました」と、その厳かな雰囲気に緊迫したという。

女体盛りといえば、刺身や寿司を裸の女性に乗せ、割りばしで(主にオッサンが)つっつく淫靡な嗜好といったイメージの代物だが…全く違ったこの企画。一体、Myuさんはどんな思いで演出しているのか? 本人に話を聞いた。

―Myuさんの会社である『NYOTAIMORI TOKYO』は、主にどんなサービスを提供しているでしょう?

「少人数のパーティーからレストラン貸切、イベントまで予算や目的に合わせて女体盛りを演出しています。きっかけは、3年前に自分の誕生パーティーで『女体盛りケーキ』を企画したこと。元々、現代アートを学んでいたこともあり、もっともっと女体盛りの完成度を高めたくなって…。そこで女体盛り自体の演出ビジネスをする『NYOTAIMORI TOKYO』を起業しました」

―女体盛りっていうと、女性の裸の上に刺身や寿司が並べられて、オッサンが箸でつまんでグヘへへ…というイメージが強いんですが…。

「大体の人はそういうイメージを抱いていますよね(笑)。でもその割に、ほとんどの人が実体験としての女体盛りを知らない。だから、誰に聞いても曖昧(あいまい)でふわっとした印象しかないんですね。そこで『だったら私が、全く新しい女体盛りを提唱してこれまでの印象をガラッと変えても面白いな』と」

お茶を飲んだ玉藻前が着物を脱ぎさり、倒れると黒子により女体盛りの装飾が始まる

日本人のほうが根強く持つ“卑猥さ”

『茶会×怪談×NYOTAIMORI』をテーマに女性の身体に和菓子が載せられる

―女体盛りビジネスを始めてみて、スケベ目的のお客さんはいませんでしたか?

「それがほとんどないんですよ! お客様の約9割は外国人で、中国、タイ、シンガポールなどの旅行者や企業なんですが、作品例や動画で“性的なことは行なわない”と理解されています。だから私が直接イヤな思いをしたことはほぼないんです。SNSや第三者の方(日本人)から言葉の印象でネガティブな反応がある場合もありますが、実際のショーや動画を確認すると納得してくれるようですけど」

―“卑猥な女体盛り”の印象は日本人のほうが根強く持っているでしょうね。

「そうですね、海外の方より先入観が強いのは感じます。でも実際のショーでは、お客様はモデルの気迫に圧倒されて、エロ目的ではないと感じてもらえることがほとんど。NYOTAIMORI TOKYOで作るものは、いわゆるエッチな想像力を働かせるスキがあまりないと思います。肉体のいやらしさを思わせる部分をできるだけ薄くしているので」

―確かに、露出度があるのに下品にならないファッション性を感じます。

「ビジュアルとして下世話にならないよう、一番気をつけているんです。胸に目玉焼きを乗せた写真作品があるんですが、例えば両方のおっぱいにひとつずつ目玉焼きを乗せてしまうと、一気に下世話に映る。フードのバランスを調整して、構図を決めることにかなり神経を使います」

―スケベを一切排除しようとしているのでしょうか?

「いえ、セクシーさを完全に消したり、ゼロにしようとしたりしているわけではないんです。元々が『女体盛り』ですから、先に『エロ』や『セクシー』というイメージが観る人の頭の中に存在する。それをどう変えるのか、考えるのが楽しいんです。

それから、生身の人間で表現しているので、服を脱いでいる時点でどうしてもエロティックにはなる。それをどれだけ下品にしないか、ギリギリのところで構成しています。それはポージングやヘアメイク然り、振り付け然り…いろんな部分からできていますね」

NYOTAIMORIは神秘的な儀式

盛り付けられた和菓子は実際に観客が食べる。衛生上、女性の身体の上に直接食べ物は載せないよう気を配っている

―生々しい身体性を全面に出すというより、美しい人形のようなイメージを演出しているように思うのですが、そこは意識していますか。

「観たことがないものを観ていただきたいので、非現実的な空間作りは意識しています。モデルが綺麗すぎてお人形のように見えたり、恐怖感を覚えてもらったりするのが理想ですね。性別も男性と女性の境界の曖昧さを感じてもらうのが好きです。

お寿司のショーは、特に人間らしさを消しています。神降ろしに近い演出で、本当にエロくない(笑)。寿司がまるでお供え物のようで、神秘的な儀式に近い」

―今回のショーでも、玉藻前が舞う動きと和菓子を盛り付けられていく静寂との対比が神聖な雰囲気を作っていました。今後はどんな展開を予定していますか?

「私は『自分の作っている女体盛りこそがカルチャーだ』と押しつけがましくいうつもりはないんです。新しいエンターテインメントとして知ってもらえればいいかなと。今年は香港で写真の展示とショーが決まっているので、海外に向けた活動もしっかりやりたいと思います。

クラウドファンディングによって作品集が出せることになったので、言葉だけでは伝わりにくいNYOTAIMORI TOKYOの世界が、よりいろんな層の方に届けやすくなったと思います。今後もいろんな作戦を考えて、NYOTAIMORI TOKYOを知ってもらおうと思います」

―ありがとうございました!

* * *言葉の意味は時代によって移り変わるものだが、Myuさんが手がけるNYOTAIMORI作品は、オッサンが若い女性の裸を囲むイメージを過去のもの(あるいは「ダサいもの」)に変えつつあるのかもしれない。いつからか存在している、“ちょっと卑猥で淫靡(いんび)な日本語”の意味合いが、26歳のアートディレクターによって変化する様を見ることになるのか…今後に期待がかかる。

(取材・文/赤谷まりえ 撮影/山口康仁)

(左から)黒子のUNiさん、玉藻前を演じたzaqiさん、Myuさん、SHUHALLY代表・茶道家の松村亮太郎さん、黒子のリタさん