デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』が発売即重版になり、書店でも売り切れが続出したことで話題になった新人作家・燃え殻。
ツイッターの日々のつぶやきが注目され、糸井重里、小沢一敬(スピードワゴン)、堀江貴文など著名人も絶賛。現在はツイッターで13万人を超えるフォロワーに支持されている。
まさに“SNSが生んだ新たな売れっ子”といった感がある燃え殻氏だが、今回、週プレNEWSで連載中の『キン肉マン』原作者・嶋田隆司先生との対談が実現。
この異色なコラボのきっかけとなったのは、燃え殻による「心はいつもキン肉マンのジェロニモのつもりです」という何気ないツイート。もしや『キン肉マン』のファンなのでは…。そこでオファーしてみると是非お話してみたいとのこと。嶋田先生にも快諾いただき、ふたりのトークは開始から盛り上がり、今回の後編へ!(前編「ツイッターから社会現象になった人気作家・燃え殻の原点は『キン肉マン』だった?」)
■「ネットで読ませるための工夫」とは?
―あらためて、燃え殻さんから嶋田先生に聞いてみたいことはありますか?
燃え殻 昔の『キン肉マン』は紙で連載していましたが、今はネットに移られましたよね。それによって描き方が変わったりしたんでしょうか? 例えば、SNSの感想を反映するとか。
嶋田 月曜の0時にマンガがアップされるんですが、一気に感想が流れてきますよね。最初の頃はそれをしっかり読んでいました。それで展開を変えることはなかったですけど、ガクーンと落ち込むことはありましたよ。
でも、今はSNSとの付き合い方もわかってきて、極端な意見にいちいち反応することもなくなりましたね。取捨選択して参考にしています。
-燃え殻さんも小説の元になった連載はネット(『cakes』)でしたね。
燃え殻 僕は毎週火曜10時のアップでしたけど、同じようにその瞬間からドドドッと感想がきましたね。僕は先の展開を細かく決めないし、結末がどうなるか自分でもわかっていない状態で書いていたんですが、「この人物はこうなるんじゃないか」って僕が考えていないところまで議論している方々もいて、それに多少は影響されたかもしれません。
嶋田 結末を考えないっていうのは『キン肉マン』方式ですね。
燃え殻 そうなんですか! それ、嬉しいなあ。僕は読んでる方が勝手に「来週こうなるんじゃないか」って妄想したくなるように仕掛けていきたかったし、それを裏切りたいとも思っていました。
嶋田 その気持ちはわかります。
燃え殻 そういう発想はネット的な書き方なのかなって思うんですが、どうなんでしょうか?
―ネット的な文章の書き方というと?
燃え殻 ネットには文章以外にもSNSとか『YouTube』とか暇つぶしになる娯楽がいっぱいあるから、センテンスをできるだけ短くして自分の知らない漢字を安易な変換で使わないように注意していました。毎回の終わりも個人的に好きな海外ドラマを参考にして、余韻を残すように意識していました。細かいところだと、大体、画面の下のところに山をつくるようにして、スクロールする手が止まらないようにも意識していました。
―そこまで読ませるための工夫を。
燃え殻 ただ、本になると返って読みづらいので、そこは新潮社の編集さんのアドバイスで調整していきました。
ネット配信になって変わった『キン肉マン』
■『キン肉マン』はネット連載で進化した?
燃え殻 これは僕の勝手な推測なんですけど、『キン肉マン』はネットになってからスピード感が増しているように思うんですが、それはやっぱり意識して変えたんですか?
嶋田 よくわかりましたねえ。仰る通り、今はめちゃくちゃ娯楽が多いじゃないですか。僕らが子どもの頃は「ジャンプ」しかなくて、それを読んでいる人たちにとって続きが楽しみになるように考えていればよかった。
でも今は一週間後のことなんて、すぐに忘れてしまいますよね。だから「ジャンプ」で連載していた時よりも、もっと強烈な引きを毎回入れるようにしています。
燃え殻 ネットになった時、キャラの大きさや技のダイナミックさが変わった気がしたんです。昔はリングの上で見つめ合う引きの絵をじっくり描かれていましたけど、コマの中でキャラが激しく動く絵が目立つようになりました。
嶋田 それはやりすぎると危うさもあるんですけどね。プロレスと一緒です。全日本も四天王プロレス(※)で三沢(光晴)や川田(利明)が過激な技をバンバンやっていたら、観客が刺激に麻痺してしまって、どんどんエスカレートしてしまった。
僕は『キン肉マンII世』の時に技に凝りすぎたんですよ。ケガ人がいっぱい出て、物語を進めるのが大変になってしまった。だから今はバックドロップとかジャーマンスープレックスとか、シンプルな技でどう強烈なインパクトを残すかってことを考えています。
(※)90年代、全日本プロレスからスターが相次いで離脱する中、三沢光晴、川田利明、小橋建太、田上明の4選手が立ち上がった時代。超過激な技の応酬で最盛期を作ったが、その後の悲劇にも繋がる
燃え殻 すごくいい話ですね。今の『キン肉マン』は万能感のある超人たちが寝技にこだわっていたりして、でも絵としては迫力があって、初期UWF(※)みたいな停滞感がない。また勝手な推測になりますけど、僕は先生が全日本、新日本だけじゃなく「ジャンプ」の連載が終わってからMMA(総合格闘技)を通ってきたことが影響していると思っています。
(※)前田日明、高田延彦などが中心となってできた団体。いわゆる”プロレス”を否定し、立ち技、関節技にこだわった。現在に続く、日本のMMA(総合格闘技)の礎(いしずえ)を築いたが、金銭トラブルや複雑なルール設定に戸惑う声も聞かれ、新日本プロレスに吸収されるに至った
嶋田 それはありますね。
燃え殻 僕は(『キン肉マン』の)ザ・ニンジャがケンドー・カシンとかぶるんですよ。ニンジャは技が多彩で実力もあって、しかも超人としても人気がある。カシンも石澤常光としてMMAでハイアン・グレイシーに勝った実力者で、でもエンターテイナーだからDDTのリングにも上がる。
『キン肉マン』が新しくネットで始まってからは、昔ながらの超人がそういうMMA的な要素が入ってきたリングにどう対応していくのかってところがものすごく気になるんです。
「フォロワー=お客さん」ではない
嶋田 僕が中邑真輔を好きなのも、彼に柔術の素養があるからです。実際に総合格闘技のリングでも活躍しましたしね。プロレスラーであっても懐(ふところ)に刀を持っているようなタイプが好きなんです。
燃え殻 しかも、今はWWEっていうエンターテインメントの究極のようなプロレス団体でトップレスラーになって。その両方を極めるっていうのは、まさに中邑真輔は超人です。
嶋田 そう! そこに惹(ひ)かれるんです。
燃え殻 僕はUWFの最強幻想に惹かれた世代ですからよくわかります。そういえば、この前…。
(ここからしばらくディープなプロレストークが続くが、あまりにディープすぎて載せられないので泣く泣くカット!)
■数万のフォロワーがいてもツイート本を出さなかった理由
―お話をちょっと戻して、そもそも燃え殻さんが小説を書いたきっかけは?
燃え殻 ツイートが話題になり、フォロワー数が万を超えたくらいの頃から「本を出しませんか?」って依頼は来ていたんです。でも、それは見事に全部「ツイートをまとめた本」で。僕は本の売れ行きとツイッターのフォロワーの多さは関係ないと思っていました。一方でいろいろな人のツイート本で書店に棚ができるくらいにブームになっている状況はおかしいと思っていて。
何万ってフォロワーがいたところで、世の中の人のほとんどは僕のことを知らないじゃないですか。それなのにツイッターのフォロワーを当てにして本を出そうとする行為に乗っかれなくて。プロレスでいったら「新木場1stRINGがパンパン」って状態を「ブームです」と言ってしまうような気持ち悪さがあったんです。
―プロレスに詳しくない人にはわかりづらいかもしれませんが、新木場1stRINGはインディー団体がよく使用するキャパ200人ちょっとの会場です。
燃え殻 それでツイート本は断っていたら、同じくプロレス好きの作家の樋口毅宏さんから「おまえは小説を書け」といわれて、後に連載をすることになる『cakes』の編集者を紹介されたんです。「あいつ、ちょっとフォロワーが多いからって調子に乗りやがって」と言われるかもしれないとは思いましたが、それでも小説の執筆は心からやってみたいと思えたんです。
―では、ツイッターのフォロワー数の多さと小説の売れ行きは関係ない、と?
燃え殻 これは確信を持って言えますね。初速には影響すると思いますが、その後は関係ないです。「フォロワー=お客さん」ではないです。そんな甘いもんじゃない。
嶋田 ツイッターで話題にする人がお金も出してくれるかっていうと、それは別ですよね。僕もツイッターを始めた当初は「これは面白いな」ってしょっちゅうつぶやいていたんですが、残念ながらキレやすい性格で(笑)。カッとくるようなことを言われて、何度か炎上もしました。
燃え殻 それは見たことあります(笑)。
嶋田 「ツイッターって面白いけど、怖いところもあるな」と思い始めてからは、適切な距離をとれるようになってきました。昔に比べるとキレることもなくなりましたね。
人生に一度くらいこんないいことがあっても…
■燃え殻が、嶋田先生に聞きたい「プロレスの今のこと」
嶋田 それにしても、140文字でこれだけ印象に残ることをつぶやける燃え殻さんはすごいですよ。
燃え殻 元々、ラジオのハガキ職人だったので、短い言葉でパーソナリティの目を引くような文章を書く訓練はしていたんですよね。それがツイッターに向いていたのかもしれません。
嶋田 僕も久しぶりにちゃんとツイッターをやってみようかな。何をつぶやいたらいいですかね?
燃え殻 えっ、嶋田先生がですか。僕の世代の人は聞きたいことがたくさんあると思うので、そういう人たちの質問に答えるだけでも僕的には最高に嬉しいです。
―では、燃え殻さんが嶋田先生に聞いてみたいことは?
燃え殻 そうですね…。長年、プロレスの変遷を見てこられてオカダカズチカや内藤哲也といった今の新日本のレスラーをどう見ていますか? それはぜひ聞いてみたいです!
―やっぱりプロレスの話!
嶋田 僕、プロレス観戦は会場派なんですけど、実は最近の新日本をちゃんと観れていないんですよね。燃え殻さん、よかったら案内してくれませんか?
燃え殻 是非行きましょう! 本当に今日は「オレの人生にも一度くらいこんないいことがあってもいいだろう」っていう日だなあ…。
(取材・文/小山田裕哉 撮影/榊智朗)
◆燃え殻(もえがら)1973年生まれ。テレビ美術制作会社で企画、人事を担当。現在、Twitterフォロワーは、13万人を越えている。Twitter【@Pirate_Radio_】
好評発売中!
●『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻著 新潮社 1404円(税込) ●『キン肉マン 60巻』ゆでたまご著 小社 400円(税別)
☆燃え殻さんの好きなジェロニモは入院中ですが、こちらも懐かしの不遇キャラ・カナディアンマンが現在『キン肉マン』連載最新話で大奮闘中!