今年で誕生から100周年を迎えた日本のアニメ――。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーに、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けする。
第4回目は、サンジゲン代表取締役の松浦裕暁さん。ピクサーに代表されるように、現代の海外アニメーションはCGが主流となっている。それに対し日本のアニメは、伝統的に手書きのセルアニメーションが本流だった。
そんな中、日本でもCGアニメーションを定着させるべく、その勃興期から活動してきたのが松浦さん率いるサンジゲンだが、その目指すCGアニメーションはピクサーやディズニーの作品とはちょっと違う。
あくまでも日本のセルアニメの特徴を引き継いだ「3DCGアニメ」で勝負し、間違いなく今後の日本のアニメ作りの主流となっていくCGアニメを先導するサンジゲンという会社についてお話を伺った、インタビュー後編!(前編「日本でCGアニメが主流になるために足りないこと」)
■費用持ち出しでCGの実力をプレゼン
―サンジゲン設立に至る流れをお聞きしましたが、当初はメカ関連の発注ばかりでキャラクターを手がけるところまではなかなかいかなかったと。
松浦 僕らの未来はそこにかかっていると思っていたので、なんとかCGでキャラクターをやらせてもらおうと必死でした。結局、お客さんは“人”が観たいわけです。人の動き、人の感情、そういったものに感動する。だからキャラクター、つまりお芝居をCGで手がけるようにならない限り、日本にCGアニメは定着しないと思っていました。
―その意味で転機になった作品は?
松浦 『咲-Saki-』(2009年)という麻雀アニメですね。最初のオファーは「麻雀牌だけCGでやってくれ」ということでした。当時は『アカギ』が麻雀牌をCGでやっていて、それを握る手の絵は作画で、これと同じことをやろうとしていたんだと思います。ただ、僕はなんとしてもキャラクターをCGでやる実績がほしかったから「CGと作画を合わせるのは大変じゃないですか?」と言って、勝手にCGでキャラクターまで描いたテストフィルムを作ったんです。
―下請けだったのに勝手にやってしまった!?
松浦 実際に見せるのが一番早いですからね。もちろん、費用は僕らの持ち出しです。それを監督が気に入ってくれて、手のアップをCGにしただけでなく、2カットだけフルCGの絵が入ることになったんですよ。ユーザーは誰も気がつかない俯瞰(ふかん)のカットなんですが、僕らとしては画面の全部をCGでやらせてもらったことは大きな転機ですね。
作品として、しっかり関われたのは『ブラック★ロックシューター』(2012年)です。これは初の元請け作品なんですが、この時も結構、寝技を使いました。
―寝技というと?
松浦 当時のプロデューサーは「キャラクターまでCGは無理でしょ」と言っていたんですが、元々、OVAをやっていた「Ordet」というアニメ会社とうちが同時期に同じグループ会社になることになりまして、それでたまたまサンジゲンがOrdetと共同でTVシリーズの元請けになったんですね。
―あくまで、たまたま(笑)。
松浦 たまたまです(笑)。「この作品のバトルシーンは『思念体』という現実の人間とは違う存在が戦うから、皆さんが心配しているキャラクターの芝居もCGで絶対に違和感がないはずです!」と説得して、かなりしっかりとCGでやることができました。
演出家を積極的に内製していきたい
■「作画で観たかった」という声は多かった
―そうして実績を得たことにより、映画『009 RE:CYBORG』(2012年)をProduction I.Gと共同制作、さらには『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』(2013年)で日本では初となる全編3DCGのTVシリーズを制作するなど知名度は一気に広がっていきます。
松浦 とはいえ、『蒼き鋼のアルペジオ』の時は「CGじゃなくて作画で観たかった」という声がとにかく多かったですけどね。制作側としては織り込み済みの反応ではあったのですが、業界にも「大丈夫なの?」っていう人が多くて。実は「ほら見ろ、CGなんて日本のアニメに向いていないんだ」と思っていた人が多かったみたいです。
―そんな否定的な声をどのように乗り越えていったのですか?
松浦 結局、慣れの問題なんですよ。もちろん僕らにも表現の技術が追いつかないところはありましたが、この時は3班4ローテで作っていたので、7話で3ローテ目に入る時にはスタッフの技術の向上と物語の盛り上がりが一致して、もう視聴者は誰も「作画かCGか」なんて気にしなくなっていました。
今年でいうと『けものフレンズ』がいい例です。あれを観て、CGがどうのこうのいうのはナンセンスですよね。僕らはハイエンドを目指したので「作画で観たい」という声が大きかったですけど、これからCGアニメが増えるに従って、そうした声はどんどん減っていくと思っています。もちろん、僕らも表現技術を上げていくことが大前提ですが。
―以前のインタビューでは「あと5年で次のステージにいかなければ」と語られていました。実は今年がその5年後なのですが、次のステージをどう捉えていますか?
松浦 TVシリーズを作れる体力がついてきましたが、それはまだ工場としてのものなんです。今後はクリエイティブのブランドにもなっていかなければならない。うちのグループ会社では「トリガー」という素晴らしいクリエイティブのアニメ会社があります。サンジゲンも工場としては育ってきたので、次はその部分でも認められるようになりたいと思っています。
―それはCGの演出家を育てるということ?
松浦 それもひとつです。数年前までCGでTVシリーズを1本やるということがなかったので、演出家を育てる土壌自体がありませんでした。それがようやく整ってきたので、今後は社内でも演出家を積極的に内製していきたいと思っています。
―アニメ業界はフリーの演出家が多いですが、内製にこだわる理由は?
松浦 CGでフリーの演出家というのは、僕は無理だと思っています。技術がすごい早さで進化しているので、そこに個人で追いつくのは難しいからです。去年使っていたソフトはもう古いから、新しいのを使おうって投資は会社でないとできない。あと数十年はCGでフリーの演出家は成立しないのではないかと思います。
CGの技術さえあれば生きていける環境を
■経営者としてのブラック企業問題対策
―では、アニメ会社の経営者として、昨今のアニメ業界における「ブラック企業報道」についてはどう感じていますか?
松浦 もちろん、危機感はあります。そういう意味でも3DCGのアニメが増えたほうがいいと思っています。CGのエンジニアにとって、アニメ制作はできることの一部でしかないんです。だから、アニメの仕事にこだわる必要はないんです。
僕らが間違っちゃいけないのは、今のアニメブームはいつまで続くかわからないということ。経営者としては、スタッフの将来も考えなければならない。だから僕らはサミーさんと共同で「ギャラクシーグラフィックス」というCG映像制作会社も設立しました。アニメの仕事に限らず、CGの技術さえあれば生きていけるという環境を作りたいと思っています。
―そういう取り組みはすごく重要ですね。
松浦 うちが地方にスタジオをどんどん作っているのもそうしたことが理由です(現在は東京ほか京都、福岡、名古屋に拠点)。親が高齢になったので実家に帰らなければならないってスタッフがすごく多いんですよ。でも地方にもスタジオがあれば、仕事を続けていくことができる。最初から実家に帰ることを見越して就職する人も受け入れられますしね。
―では、アニメ会社としてこれから挑戦したいことは?
松浦 実は秋に新たなCGアニメ会社を設立する予定です。これまでのセルルックの3DCGとは違い、海外のアニメーションのようなリアルな質感のアニメを作るスタジオです。日本でもCGアニメのお客さんが育ってきたので、そろそろ挑戦してもいいだろうと判断しました。
―しかし、サンジゲンが3DCGでTVシリーズを作ったのはたった5年前です。急速にCGアニメが増えているとはいえ、時期尚早という声もあるのでは?
松浦 『蒼き鋼のアルペジオ』の時がいい例で、みんなが「まだ無理だ」と思っているほうがチャンスなんですよ。僕らはずっとそうして道を切り拓いてきました。すぐにビジネスになるとは思っていませんが、将来的には必ず需要があると考えています。
(取材・文/小山田裕哉 撮影/鈴木大喜)
■松浦裕暁(まつうら・ひろあき) 1972年生まれ。福井県出身。サンジゲン代表取締役。様々な作品で3DCGプロデューサーを務め、3DCGのリミテッドアニメーションという新しいアニメ表現を確立。2011年にはサンジゲンを含むアニメ関連企業5社をグループとした「ウルトラスーパーピクチャーズ」も設立、クリエイティブとビジネスの両面から日本のアニメ業界の将来を見据えている。著書に『アニメを3D(サンジゲン)に!』(星海社新書)
■谷口悟朗監督×サンジゲンによるオリジナルアニメーション「ID-0」のBlu-ray BOX&DVD BOXが大好評発売中!(発売・販売元:バンダイビジュアル株式会社)
(C)ID-0 Project、(C)Ark Performance/少年画報社・アルペジ オパートナーズ