8年間、“NHKの朝の顔”として活躍した有働由美子アナが3月いっぱいで『あさイチ』を降板に。アナウンサーとしての確かな実力に加え、その親しみやすく飾らないキャラクターは老若男女問わず人気を集めている。
タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。
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NHKアナウンサーの有働由美子さんが3月いっぱいで『あさイチ』を降板すると話題になっていますね。報道では「プライベートを充実させたい。年齢的にもそろそろ自分の時間が欲しい」という本人の希望があったとされています。
早朝、深夜、休日出勤は当たり前とされてきたTV局で「自分の時間が欲しい」と降板を決断するのは、勇気がいることでしょう。昨年はNHK記者の佐戸未和さんが2013年に過労死していたことが明らかになり、メディア業界の過酷な働き方が問題視されています。
有働さんの真意はわかりませんが、この流れのなかで見ると、彼女の決断は従来のような「社員かフリーか?」という選択だけではない問いかけになっている気もします。
有働さんの人気は、40代以上の女性アナが幅広い番組で活躍することが少なかったTV界を変えました。女性アナは若くてかわいくていい子ちゃんじゃなきゃダメ、という時代はようやく過去のものになりつつあります。また、女性管理職や女性役員が少ない日本の組織で、実績を積んだ人が責任あるポジションに就くことも重要です。
吉川美代子さん(元TBS)など、画面に出続けながらそれを果たした先達もいらっしゃいますので、有働さんもそうしたよき前例になればいいなあと、勝手にご期待申し上げる次第です。
社員アナウンサーは「タレントコスプレ」のようなもの
放送局の社員アナウンサーは「タレントコスプレ」のようなもの。どれほど人気が出ようとも「有名になれたのは会社のおかげで、ゆめゆめ個人の実力ではございません。私はそれを重々わきまえております」という謙虚な姿勢が求められます。聡明なアナウンサー諸氏はその構造をよく理解しているので、自身がしがない組織人であることや、会社への忠誠心にあふれていることをきちんとアピールするのを忘れません。
そもそも組織で働く人は誰しも「組織の歯車たれ、しかし個性を発揮せよ」というむちゃぶりをされているもの。加えて女性には「滅私奉公(めっしほうこう)、個性発揮、女子力高め」という理不尽な要求が課されています。
そんなストレスフルな世の中で「みんなが知っているサラリーマン(しかも安定の高給取り)」である人々には、親近感と嫉妬がない交ぜになった眼差しが注がれるのも道理でしょう。好き嫌いランキングで、ジャッジは視聴者が下すことができるのですから。
有働さんは、タレントコスプレ社員の王道をいきながら、今までとは違う見せ方を開拓して人気を博しました。後任は『ブラタモリ』の近江友里恵さんに内定したとも報じられていますが、誰になっても、有働さんの後はきっと大変でしょう。個人的には、かねてファンである鎌倉千秋さんの『あさイチ』が見てみたいなあ、と思っております。
●小島慶子(こじま・けいこ) タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送っている。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など。