「怖すぎる」「もはや恋愛ものではない」と話題沸騰中の怪作ドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系、毎週火曜22:00~)で、主演の小川今日子役を好演している女優・吉岡里帆。
彼女が過去の出演作を引き合いに出して語った「挑戦」の内実とは――。
―ついに連ドラ初主演です。心境はいかがですか?
吉岡 お話をいただいた時は喜びより驚きのほうが大きかったです。原作を読んで、これは新しい挑戦になると思いました。プレッシャーも感じていますし、撮影は毎回緊張します。でも主演として、スタッフさんや共演者さんたちから「一緒にやれてよかったな」と思っていただけるよう、心を引き締めて臨んでいます。
―今回、吉岡さんが演じるのは超ネガティブで、すぐオドオドしてしまう女性。人前で頻繁に挙動不審になることから“キョドコ”と呼ばれる変わったキャラクターです。
吉岡 今作は女性漫画が原作なんですけど、全く女性マンガの主人公という感じがしない女性です(笑)。でも自己評価が低くて「自分なんて…」って口癖のように言ってしまうところとか、すぐに緊張しちゃうところ、一方で諦めずに物事に立ち向かっていこうとするところまで私も一緒なので「わかる。そうだよね」と、共感しながら演じさせてもらっています。
―漫画原作のドラマでお芝居をされるのは初めてだと思いますが、何か意識していることは?
吉岡 漫画の絵だったり、作品に出てくるそのコらしさを無視して自分らしくやろうとは思わないです。自分が視聴者として原作の作品を見た時、役者さんがキャラクターを見事に再現されているのを見るとすごく嬉しくなりますから。原作ファンをがっかりさせないのも大切なことだと思っています。
―撮影現場に何度かお邪魔させていただきましたが、ドラマのスタッフから言われたことで印象に残っていることはありますか?
吉岡 プロデューサーや監督からは、あまり頭で考えずに感じるままに…上げ下げの激しいキャラなので伸び伸び演じてほしい、と言われています。よく相談するのは「キョドり方」の案配。キャラクターらしさは残しつつ、やりすぎず、という感じです。
それから、原作でキョドコが「嘘くさい笑顔」をしていると指摘されるシーンがあるんです。以前出させていただいた『カルテット』の有朱役では「目が笑ってない」演技を求められて、その時も鏡を見ながら練習しましたけど、「嘘くさい笑顔」も難しい。
―自分では「嘘くさい笑顔」はどのように解釈しているのですか?
吉岡 笑っているつもりなんだけど、心から笑えていないということかなと。リラックスできていないから引きつってしまって、声も上ずってしまう。有朱のような、性根が腐っていて人を小馬鹿にするような笑いとは違って、本当に楽しいし嬉しいんだけど自己表現の術(すべ)を持っていない、という感じだと思っています。
―あと、泣くシーンが目立ちますね。
吉岡 多いです。ほぼ毎日、泣くシーンがありますね。
―女優さんの中には本物の涙を流して演じる方がいますけど、吉岡さんは?
吉岡 本当に泣いています。ただ、そうなると自分の体に直接くるというか。キョドコを演じているうちに「自分はダメな人間なんだ」って本当に思えてきます(苦笑)。心の弱い役なので、演じているうちに一緒に自分も弱くなっていっている感覚があるんです。『よーい』で撮影が始まって、いきなり泣いていなきゃいけないシーンも多くて。まだ機械的にお芝居できるほどの技術は私にはないので苦戦もしています。
―ご自身もキョドコのように普段、泣くことはあります?
吉岡 あります。何かあってその時に泣くというよりは、移動中に思い返してぽろっと泣いてしまうタイプです。
ほぼ毎日、泣くシーンがあります
―そんな時、自分をどうやって奮い立たせるんですか?
吉岡 よくやるのは仕事のありがたさを思い出すこと。元々、何もないところから始まっているわけですから、「仕事があることでプレッシャーのかかることのほうが幸せだな」と思って自分を取り戻すようにしています。
―なるほど。すでに撮影は中盤まで進んでいるようですが、ここまでで印象に残っているシーンは?
吉岡 いろいろとあるんですけど、例えば服を脱ぐシーン。キョドコが、ある事情から人前で下着姿になるんですよ。
―えっ! 大胆ですね!
吉岡 そこは勝負というか、自分の中でかなりの覚悟を持って臨みました。キョドコは下着メーカーで働いていて、下着が大好きなコなんです。だから、下着姿が魅力的に見えないと意味ないので頑張りました。
―体当たりの演技の連続なんですね。あとドラマでは、一見、爽やかだけど冷酷無比で支配的な星名(向井理)、厳しい態度ながら、その裏に誠実さのある吉崎(桐谷健太)という、対照的なふたりの男性の間で揺れるキョドコも見どころです。自分だったらどちらの男性がタイプですか?
吉岡 断然、吉崎さんですね。ぶっきらぼうでも根底に温かさがある彼のほうが好きです。他人を平気で傷つけて、それをなんとも思わない星名さんのような人はイヤですね。特に言葉の暴力をぶつけるのは最悪です。
―そうは言っても、作中では星名に支配されて、依存してしまう場面も描かれます。
吉岡 そうなんですよね(笑)。撮影が進むうち、少しずつ理解できるようになってきて。他人にひどいことができる人って、実は本当に悲しい思いをした人でもあるのかなって。そう考えると、一概にイヤな人とは言い切れないとも思います。 ―キョドコといい、星名といい、吉岡さんは弱い人に対して温かいですね。ある意味、弱い人を思いやって演じられているような雰囲気を感じます。
吉岡 そうありたいと思っています。私は、人って弱い部分が魅力だなと思っていて、弱い部分があることは悪くないと思うんです。弱い自分と向き合って、そこから立ち向かっていくのが大事かなと思うんです。だから女優としても、心が折れそうな人や、今、すごくきついなって思っている人たちにパワーを送れるような存在になりたいですね。
―逆にご自身は何に元気をもらっているんですか?
吉岡 今、インスタグラムをやっているんですけど、自分の弱さをさらけ出した上で「里帆ちゃんに救われた」とコメントをくださる方が大勢いるんですよ。そういう言葉には本当に元気をもらいます。
あとは、やはり撮影現場ですね。特に今回、主演をさせていただいていて、今まで以上にいろいろな方に支えてもらっていることを実感していますから。これからもそんな方々と一緒にすばらしい作品を皆さんに届けていきたいですね。
●吉岡里帆さんの『きみが心に棲みついた』密着取材は週刊プレイボーイ7号に掲載!
(取材・文/大野智己 撮影/本田雄士)
■吉岡里帆 YOSHIOKA RIHO 1993年1月15日生まれ、京都府出身。『マンゴーと赤い車椅子』で映画デビュー。映画『明烏』などを経て、NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』、宮藤官九郎脚本ドラマ『ゆとりですがなにか』などへの出演で注目を集め、『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』『カルテット』など4期連続でドラマ出演を果たしブレイク。『カルテット』の来杉有朱役で第7回コンフィデンスアワード・ドラマ賞 新人賞、第92回ザテレビジョンドラマアカデミー賞 助演女優賞を受賞。昨年、TBS日曜劇場『ごめん、愛してる』で民放連ドラ初ヒロインを務め、「VOGUE JAPAN Women of the Year 2017」を受賞するなど時の人に。公式インスタグラム【@riho_yoshioka】