『りゅうおうのおしごと!』では、キャラクターデザインと総作画監督を務める矢野茜さん

現在放送中のTVアニメ『りゅうおうのおしごと!』――16歳の若さにして将棋界の「竜王」のタイトルを保持する主人公・九頭竜八一(くずりゅうやいち)の元へ、内弟子になるため9歳のヒロイン・雛鶴(ひなつる)あいが自宅へ押しかけてくるというストーリーだ。

そんな作品に登場するカワイらしいキャラクターたちをデザインしているのがアニメーターの矢野茜さん。弱冠25歳にして総作画監督も兼ねて大役を任されている彼女はその愛らしい容姿も注目されており、ネット上でもカワイすぎるアニメーターとして、たびたび話題となっている。

そこで矢野さんを直撃、アニメーターになったきっかけやアニメ業界でのエピソード、知られざるプライベートな話題までお話を伺った。日本のアニメに欠かせない「アニメーターのおしごと」の一端をお届けする。

■挫折から見えてきた絵を描く道

―アニメーターになったきっかけから伺えればと思います。子どもの頃からアニメはお好きだったのですか?

矢野 物心ついた時から絵を描いていたんですけど、小学校4年生くらいに放送していた『犬夜叉』のアニメにハマっていました! その時はずっと高橋留美子先生の絵ばっかり描いていて(笑)。マンガやアニメに興味を持ったきっかけは『犬夜叉』が大きかったですね。高校生になっても好きで、深夜アニメを観はじめて『ef - a tale of memories.』(※1)に出会い、第2の衝撃を受けました。

※1 07年放送、シャフト制作のTVアニメ。原作となるPCゲームではOPを新海誠が手がけ話題に。TVアニメ化された際も、監督・大沼心の斬新な映像演出が注目を集めた。

―そこから本格的に絵の道を志していったのですね。

矢野 うーん…「将来、絵を描ければいいな」って漫画家さんになりたかったんですけど、狭き門だなと思って、絵の道に進もうとは考えてなかったんです。高校を卒業したあと、すぐに就職しました。

―どんなお仕事を?

矢野 イタリアンレストランのウェイトレスです。ですが、それまでアルバイトの経験もなく社会に出てしまったので、自分の仕事のできなさにびっくりしてしまって…。注文を取ることもできなくて2ヵ月で辞めてしまったんです。

―そんな挫折があったとは…。

矢野 本当に毎日「辞めたい辞めたい」って泣いていたんですが、そんな時に『こばと。』というアニメを観て心救われたんです。それを見た父から「やりたいことをやりなさい」と言ってもらって、翌年に専門学校へ行くことにしました。

―専門学校ではアニメーターと声優、両方の勉強をされて。

矢野 「どっちもできたらいいじゃん!」っていう気持ちで。在学中、最終的にどちらかの道を選ぼうと思った時、小さい頃からずっと生活の一部で自分の中で大きな存在となっていた「絵を描くこと」の道を選びました。

お父さんにも「おまえは本当にずっと絵を描いているな」と、ある時、ふと言われて「私はずっと絵を描くことと共に生きてきたんだな」って感じたんです。

―そうだったんですね。でも、両方の現場を知っている人はかなり珍しいですよね。

矢野 声優さんは声で演じていますが、アニメーターは絵を描いてキャラクターに芝居をつけていくんです。芝居や動きを描く時も初めに自分で実際にやってみて描くので、キャラクターになりきるという点ではどちらも演者だと思いますね。

矢野さんが、キャラクターデザインと総作画監督を務める『りゅうおうのおしごと!』

「お風呂シーン、ないですか!」って

■アニメーターとして心がけていること

―矢野さんのアニメーターとしてのキャリアには、カワイい女のコが出てくる作品が多いですよね。

矢野 女のコしか描いていないですね(笑)。

―カッコいいアクションの動きより、キャラクターを描くのが好きなのですか?

矢野 動かすことも学んでいきたいですが、どちらかといえば確実にキャラクターですね。本当はカワイいというより、微エロな女のコが好きなんです。自分の絵柄ではそこまでエッチなキャラは描けないと思っているんですけど、『ニセコイ』や『グリザイアの果実』という作品を描いている時、「お風呂シーン、ないですか!」って言っていたら、そのシーンを描かせてもらえて。その時は本当に嬉しかったですね。

―単純にエッチな表情や仕草を描きたいというよりは、そういうシチュエーションを描きたい?

矢野 そうですね! その場所の緊張感だったりキャラクターの心情を想像しながら、ちょっと照れていたりする顔を描くのが好きなのかなと。目指しているのは、観た人が「このコは本当にこの世界に存在するのかも」って思える感じです。画面で表情を全部見せてしまうよりも、鼻から下を切り取って映しているような、見た人にいろいろと想像させることができる見せ方が好きですね。

―矢野さんも参加されているシャフト作品で多く見られる表現ですね。

矢野 やっぱり、シャフトさんの影響を受けていると思います。『ef - a tale of memories.』のキャラデザをされていた杉山延寛さん(※2)は、描かれる線がどこまでも柔らかくて無限の表現を感じられるんです。杉山さんに自分の描いた絵の修正をしてもらったこともあって、その線を上からトレースさせてもらうと、すごく幸せな気持ちになりましたね! やっぱり女のコだったら、そういう柔らかい線で描けるといいのかなと思いました。

※2 シャフト所属のアニメーター。矢野さんが参加した『ニセコイ』『3月のライオン』のキャラクターデザインを担当

―矢野さんの描くキャラクターも、触ったらたぶん柔らかいだろうなと感じます。

矢野 自分ではなかなか客観的に見られなくて。先輩からは「柔らかい部分はできているけど、固い部分も描き分けられるといいね」と言われたりするので、肘とか固いところは固く描けるようにしたいと思っています。

―具体的に芝居を描く時などに意識していることはなんでしょうか?

矢野 描いているシーンの台詞に自分が声を吹き込むとしたら、こういう演技でやるかなと想像しています。頭の中で自分でアフレコして動かすんですが、描いた後で実際の声優さんの収録現場に行ってみて「こういう演技できたか!」というパターンもあったり。ギャグシーンでも、こういう演技をされるのだったら今度はこういう表情で描いてみようとか。

―そういう相乗効果があるんですね。

矢野 ありますね。逆に動きをダイナミックにつけすぎてしまったこともあって、シーンにあった演技をつけないといけないと…って勉強になりました。

●この続き、インタビュー後編は明日配信予定!

(取材・文/加藤真大 撮影/市村円香 (c) 白鳥士郎・SBクリエイティブ/りゅうおうのおしごと!製作委員会)

■矢野茜東京アニメーター学院専門学校卒。フィールにてアニメーターデビューし現在フリー。『グリザイアの果実』作画監督(共同)、『ニセコイ:』のメインアニメーターなどを手がけた後、16年4月より放送の『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』のキャラクターデザイン・総作画監督に抜擢される。○最新作『りゅうおうのおしごと!』放映中。3月12日、「『りゅうおうのおしごと!』Blu-ray Vol.1」が発売!(以降、続刊)