避妊しなかったことを非難するなら、なぜパートナーの男性は責められないの?

タレント・女優の佐々木希さんの妊娠がスポーツ紙にスクープされると、安定期に入る前のタイミングということで報じたマスコミに批判の声も上がるなか、彼女の仕事への影響を懸念する声も上がっている。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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広末涼子さん、武井咲(えみ)さん、佐々木希(のぞみ)さん。妊娠を理由に「無責任」とバッシングされた人たちです。

すでに指摘があるとおり、これはいわゆるマタハラ、マタニティハラスメントに当たります。武井さんに関しては10億円のCM違約金が発生したという臆測がひとり歩きし、佐々木さんや広末さんについても「ドラマの撮影があるのに時期を考えろ」「プロ失格」などの批判がありました。正しいことを言っているつもりで思い切りハラスメントをしている典型例です。

妊娠は病気と違って完全にコントロールできるものだしするべきだ、しかるべき時期以外に妊娠してしまったのは避妊を怠ったからで、つまりは性欲をコントロールできなかったのだという偏見を持たれがちです。だけど、妊娠はそんなに思いどおりになるものではないし、個人の権利としていつ妊娠しようが自由で、他人に批判される筋合いはありません。それに、避妊しなかったことを非難するなら、なぜパートナーの男性は責められないの?

妊娠出産子育てに対する様々なバッシングの背景には、この「おまえのセックスで他人を振り回すな」という女性に対する強烈な蔑視があると思うのです。生殖=性的な快楽ととらえて、妊娠も出産も育児も「個人の快楽の結果」として扱おうとするまなざしです。

性は人の尊厳そのものであり、子供を持つ権利も体についてのプライバシーも守られて当然なのに、あの女は避妊しなかったという心ないバッシングが繰り返し行なわれる。妊娠が暴かれ、社会的制裁を受けて当然のように書き立てられ、非常識とかだらしないとか、あしざまに罵(ののし)られる。あるべきプロの姿を説くような口調で。

では、女性が入念な準備なく妊娠するのは本当に非常識なことなんでしょうか?

昨年10月に就任したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は今年1月、現在妊娠中で6月に出産予定だと公表しました。妊娠が判明したのは首相就任の6日前。アーダーン氏は昨年7月に野党の党首に就任した際にトーク番組の司会者に「赤ちゃんとキャリアのどちらを選ぶか決めたわけか」と聞かれ、そのような質問は「2017年にまったく不適切」だと反論。「女性が出産するかどうかは女性自身が決めること」と述べました。

仕事にその人を採用するかどうかに、出産するかもしれないという要素は予(あらかじ)め影響すべきことではないと。アーダーン首相は出産後に6週間の産休を取ると発表。夫が専業主夫として育児をして支えるそうです。

働く女性が妊娠するとだらしないとか非常識と責められるような風潮はもう終わりにしてほしいです。いつ妊娠しようともキャリアが続けられる体制とそれを当然のこととする認識が広がりますように。

小島慶子(こじま・けいこ) タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など。