“ミスターSASUKE”こと山田勝己さん(中央)。現在は引退し、自身が成しえなかった完全制覇の夢を弟子たちに託し、指導する。写真右は“海苔”こと小畑仁志(さとし)、左は“SEGA”こと山本浩茂(ひろしげ)。共に山田軍団「黒虎」のメンバーとして今回も出場 “ミスターSASUKE”こと山田勝己さん(中央)。現在は引退し、自身が成しえなかった完全制覇の夢を弟子たちに託し、指導する。写真右は“海苔”こと小畑仁志(さとし)、左は“SEGA”こと山本浩茂(ひろしげ)。共に山田軍団「黒虎」のメンバーとして今回も出場

“名もなきアスリートたちのオリンピック”――TBSのヒット番組『SASUKE』の第35回大会が3月26日(月)19時より放送。今年で誕生から21年になる。現在、世界165の国と地域でオンエア。オリジナル版も制作され、もはやSASUKEは世界共通語といっても過言ではないだろう。

第1回から制作に携わり、現在も総合演出を務める乾雅人氏が前編(「SASUKEが生んだモンスターはふたりだけ。山田勝己と…」)に続き、制作秘話を語ってくれた!

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―SASUKEは今や海外人気も絶大です。世界165の国と地域で放送され、アメリカでは現地制作版の『American Ninja Warrior』が大ヒット。人気ドラマ『24-twenty four-』を上回る視聴率を出したこともあり、好成績の出場者はスター同様にもてはやされているとか。今回の収録にも、放送が予定されているサウジアラビアとモンゴルから視察団が来ていました。そこまでウケたのはなぜだと思われます?

乾 元々、言葉による説明が要らない番組ですが、ひとつ思うのはカメラが選手を追いかける時、レールで横を並走する形にしているというのが大きいと思います。実はこれ、『スーパーマリオブラザーズ』をモチーフにしているんです。

マリオは横スクロールで展開していく大人気ゲーム。世界中の人もSASUKEを見ながら、マリオを見ている感覚になるのかもしれません。それもただのゲームではなくて、生身のリアリティがあるわけです。

―海外からの応募もあるんじゃないですか?

乾 多いです。SNSを通じ、「Ninja Warriorのオリジナルにどうしても出たい」と。制限時間があるからというのがその理由のようです。例えばアメリカのSASUKE、American Ninja Warriorにはタイムアップという概念がない。日本のSASUKEのほうが、よりガチンコだと思う人も多いみたいですね。

―前回、ハリウッドのトップ女性スタントマン、ジェシー・グラフが出場。女性初の3rdステージ進出を果たし話題となりました。

乾 3年前、本人から「出たい」と直接連絡がきたんですけど、今やスーパースターだし、なかなかタイミングが合わなくて。ようやくオンエアできた時は「すごい選手がいるだろ!」と自慢したくなりました(笑)。

―彼女のように、いずれは日本人女性初のファイナルステージ進出者が登場したり…。

 どうだろう。今のSASUKEの難易度では正直、難しいかな…。でも本当にそんな女性選手が出てきたら、SASUKEの歴史はまた変わりますね。

―ちなみに乾さん自身、過去に一番印象に残っているシーンは?

 いろいろありますが、元・毛ガニ漁師の秋山和彦さんが最初の完全制覇をした時ですね。秋山さんは極度の弱視だったんです。番組サイドは以前からそのハンディを知っていたんですけど、本人との約束で黙っていた。そんな流れでの完全制覇。

本人に番組で言っていいかと聞いたら、やはりイヤだと。でも「ハンディがあったって、普通の人ができないこんなすごいことができるぜ」と語ることは意味があるんじゃないか。そう話をしたら、最後には納得してくれて。結果、放送では使わせてもらいました。「出場者との約束」ということも含めて、その時のことは今でも大切にしています。

 SASUKEは海外でも大人気。『American Ninja Warrior』の大スター、アメリカ在住のジムトレーナー、ドリュー・ドレッシェルはこう語る。「Ninja Warriorの人気は年々高まっているよ。どの国へ行っても好きだという人は絶えないし、出場選手はみんな子供のヒーローとして憧れられている。ウケる理由? それは日本と一緒じゃないかな。不可能を可能にする瞬間を見たいのさ。僕のようにプロアスリートでもない、一般の人のね」 SASUKEは海外でも大人気。『American Ninja Warrior』の大スター、アメリカ在住のジムトレーナー、ドリュー・ドレッシェルはこう語る。「Ninja Warriorの人気は年々高まっているよ。どの国へ行っても好きだという人は絶えないし、出場選手はみんな子供のヒーローとして憧れられている。ウケる理由? それは日本と一緒じゃないかな。不可能を可能にする瞬間を見たいのさ。僕のようにプロアスリートでもない、一般の人のね」

SASUKEとは『夢』です

 『SASUKE』の第1回から制作に携わり、現在も総合演出を務める乾雅人氏(右から2人目) 『SASUKE』の第1回から制作に携わり、現在も総合演出を務める乾雅人氏(右から2人目)

―そうした出場者との信頼関係を大切にされているんですね。

乾 そうですね、普段から連絡をとることもありますしね。日常的にトレーニングなどの情報をもらうこともあるし、結婚祝いや出産祝いを持っていくこともある。出場者の奥さんから「最近、旦那が調子に乗ってるみたいです」という話を聞くこともあります(笑)。

やはり人間を描くわけですから、年1~2度の大会だけ選手を呼んで、それで終わりというわけにはいきません。仕事としては全く効率が悪いですけどね(笑)。

―ご自身もSASUKEに自分の人生をかけて、のめり込んでいるということですね。そんなSASUKEは今後、どこへ向かっていくのでしょう?

乾 TV番組である以上、いつか終わりを迎える日が来ると思うんです。でも今、この瞬間にも世界のどこかにSASUKEのトレーニングをする人がきっといて、様々な思いを抱いて本戦出場に焦がれる人もいる。そんな人たちのためにも1回でも長く続く番組にしたい。

SASUKEの出場者が想像を超えたエリアを突破し、それに視聴者の方々が驚き、感動する。そんな瞬間をまだまだ見せていきたいですね。

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最後に乾氏に定番の質問、「あなたにとってSASUKEとはなんですか?」をぶつけてみると、少し考えた後にこう答えてくれた。

「答えになっているかわかりませんが…僕が初めてTVのディレクターになりたいと思ったのって高校生の時で、『世界一有名な番組を作りたい』と思ったんです。そしてそれはSASUKEが叶えてくれました。だから…僕にとってSASUKEとは『夢』ですね。いろいろな人の夢を叶えるものだと思っています」

(取材・文/大野智己 撮影/本田雄士 協力/TBS)

●発売中の『週刊プレイボーイ』14号では「SASUKE大特集」を掲載。そちらもご覧ください!

■乾 雅人 INUI MASATO 1964年生まれ、テレビ演出家。『ゼウス』『SASUKE』『KUNOICHI』など数々の番組演出を手掛ける。SASUKE出場者、ファンからは“城主”として知られている。FOLCOM.代表